表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

第1話


キーンコーンカーンコーン


放課を告げるチャイムの音が響く。

うちの学校は録音されたチャイムを流しているだけなので、所々ザラザラした音がして少し歪だ。

ホームルームを終え、すぐに帰ろうと準備を始めた俺に後ろから声がかかった。


「陽一、一緒に鎌倉遠出のスケジュール考えようよ」


あまり好きじゃない自分の名前を呼ばれ、振り返りつつ俺は顰めっ面をする。

少し色素の薄い茶色の髪に、どうにも神は残酷だと思わせるその端正な顔立ちの男は、顰めっ面の俺にもニコニコと笑顔を向けてきた。

それが気持ち悪くて俺は目を逸らす。


「赤城優しいー!」

「ほんと、赤城と里中が幼馴染とか超常現象過ぎるよなw」

「こんな陰キャほっとこっ?悟はうちらとスケジュール考えよ?」


The陽キャの頭の悪そうな男子が、茶々を入れる。

赤っぽい茶髪に染めている化粧の濃い女子は、悟の腕を絡めるようにして引っ張った。

俺が無言で教室を出ようとすると、悟はそれでも俺を呼んだ。


「よういーー」

「うるせぇ」


ギロりと精一杯の目力で悟を睨む。

すると周りのクラスメイトから次々と野次が飛んできた。


「よーいちくんはお怒りみたいですよー?w」

「里中、鎌倉行く時休めば一件落着じゃね」

「てか、赤城にうるせぇとかお前の存在の方がうるせぇってな」

「あいつマジで調子乗りすぎだろ」


「行かねぇよ!お前らと行くなんざ、折角の遠出が台無しになるからな」


そう言って教室を出ていく。

走って逃げたい気持ちを抑え、最後の抵抗で普段通り歩いていく。

背後から「負け犬」やら「ラッキー」やら声が聞こえてくるのを俺は必死に聞こえないふりをした。


自室に入ると一気に気が緩んで、どっと疲れが襲ってきた。

大体、悟が悪い。

今日だって、悟が話しかけてこなければ俺の存在は無いものとして扱ってもらえたんだ。

そうすればこんな嫌な思いだってしなくて済んだってのに。


悟と俺は幼馴染だ。

家が向かいで、小さい頃からよく一緒にいた。

その関係性がおかしくなったのは、多分中学からだ。

俺はあれよあれよといじめの標的になり、一方悟はクラスからも俺をいじめる不良からも一目置かれるリーダーになっていった。

結局、悟のおかげでいじめ自体は無くなったが、高校に上がった今も、同じ中学の奴らがいるせいでからかわれる日々は続いている。


「あぁくそっ」


無性に腹が立って、俺はスマホをベッドに投げつけた。ボフッと情けない音がする。

そのまま俺もベッドに倒れ込み枕に顔を埋めた。

物にやつ当ってどうすんだ。

そんなこと分かりきってるのに、気持ちは一向に落ち着かない。

それなのに俺の意識は段々とベッドに吸い込まれていった。




ピンポーン


呼び鈴の音ではっと目を覚ます。

反射的に時計を見るが、まだ1時間も経っていなかった。

ぼんやりしながらも、俺は玄関に向かう。

両親は共働きなので俺以外にこの家には誰もいないからだ。


インターホンを確認することもなく、「はーい」と呼び鈴に返事をしながら扉を開ける。

そしてそこにいた人物に顔を引き攣らせた。


「さっきぶり」


閉めようかとも迷ったが、ここは学校じゃない。

悟と話して何か言われることもない。


「……あぁ。上がるか?」

「そうさせてもらおうかな」

「ん」


そう言って俺はリビングに行こうと歩を進めようとした。


ガクッ


土間から廊下へと上がろうとした俺は空足を踏み、そのまま直立で落ちていく。

叫びをあげる間もなく、次の瞬間には俺は薄暗いだだっ広いホールのような空間に座っていた。


「ーーは?」


周りには漫画やアニメで見た魔法使いのようなローブを纏っている人達が何人もいて、その後ろの方にはRPGにでも出てきそうな甲冑をつけている男達がいた。


「陽一…これは……」


その声にばっと後ろを振り返る。

悟が困惑したような表情でそこに座っていた。


「いや、俺も、何が…何だか」


わからな過ぎて、恐怖を感じる。

周りの人達は何だか盛り上がっていて「成功だ」「やったぞ」なんて歓声が次々に上がっている。


誰も俺達にこの状況を説明してくれないのだろうか?


ふと自分の座っている床を見ると、そこには厨二病臭い複雑怪奇な魔法陣らしきものが書いてあった。

俺の脳裏にある単語が過ぎる。

まさか有り得ないとも思うが、今のこの状況だって有り得ない。意を決して悟に向き直る。


「悟、これってーー」

「勇者様!よくぞいらっしゃいました!!」


俺の言葉は興奮冷めやらんと言った様子の、髭をサンタクロースのように伸ばした老人に遮られた。『勇者』という言葉を聞いて俺は顔を引き攣らせる。


普段部活もしていないバイトもしていない俺には時間がありすぎて、よくラノベを読んでいた。

純文学など読めれば格好良かったかもしれないが、俺は生憎あまり国語力が無いものでいわゆるラノベばかり読んでいた。

その中で本当に頻出する設定が、『異世界転移』『異世界転生』だ。

もし柔軟な頭で現在の状況を考えるとするならば、今の状況は前者だろう。


「…しかし、お二人召喚されるとは、想定外でございますね。一体どちらが勇者様なのか…?」


老人は長い髭を擦りながら、俺達を品定めするかのようにじろじろと眺めた。

その視線が嫌で俺は目を眇める。

2人が予想外という事は、必然的に1人は招かれざる客だ。何だか気持ちがざわつく。


「いやはや、私が見たところで勇者を決めるのは聖剣でございますれば、お二方、この剣をその手にお持ちいただけますかな?」


老人がそう言うと、その横にさっとガタイのいい甲冑をつけた男が現れ俺に剣を差し出した。

俺が前側にいるので順番的には俺が最初なのだが、いつの間にかあれだけの騒ぎは無くなっていてしんと静まり返っている。そして周囲の視線が俺に一気に集まる。吐きそうだ。

そして、まるで宝を献上するかのように差し出された剣の柄を握った。


本当は持ち上げようかとも思ったが、これが中々に重い。

頑張れば持ち上げられないこともないが、宝の如く扱われているこの剣を落としたりでもしたら一体どう責任を取ればいいか分からない。


10秒ほど経ったが特に何も起こらない。

先程から感じている胸のざわつきが大きくなっていくのがわかった。


「ふむ、何も起りませんな……。それでは後ろの御方もお願い致します」

「あ、はい…」


困惑しながらも、悟もその柄を握る。

すると触れたその瞬間に剣が光を纏った。


…こんなこと有り得んのかよ。


目の前で起こる非現実的な光景に俺は胸のざわつきの正体を理解した。


異世界物は大抵元の世界に戻れないのが相場だ。

勇者じゃない、招かれざる客の俺はこれから一体どうなるんだろうか?

以前出したものを少々修正して再投稿しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ