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「ほう、襲撃者を探しておるのか?」

「そうね。その者が動物を連れていたわ。犬、猿、雉を。恐らく聖獣だと思うのよ」

「それはなぜじゃ?」

「普通の動物に殺せる人間の数は限られてるでしょ?」

「そりゃそうじゃな」

白虎は凄いスピードで山を駆ける。李姫はその背中で揺られていた。

「確かに、それは聖獣じゃろう。犬、猿、雉なら間違いない」

「なぜかしら?」

「ほう。博識なお主じゃが、それは知らんかったか。聖獣になれる獣は決まっておる。犬、猿、鳥、鼠、牛、兎、龍、蛇、馬、羊、猪、そして虎の12種類だけじゃからな」

「あらあら。そう」

「相変わらず淡白な反応じゃの」

白虎は既に慣れたのか話を続ける。

「なぜその12種類かまではワシも知らんがの。しかし、聖獣ってのは縄張りがあるし、相性もある。じゃから、縄張り争いにならんように他の聖獣がどこにおるかは大体分かるんじゃ。聖獣の種類までは分からんが」

「じゃあ、さっさと見つけましょう。貴方の揺れは座り心地がいいとは言えないわ」

 李姫は、若干顔を青くしながら、白虎の背中に座っていた。

 その方が移動が早くなるからという理由だ。しかし、その代償は虎酔いだった。

 背中がこうも揺れるとは。

「気持ち悪くなるとは意外じゃったの。お主は顔色一つ変えんのかと思っとったわい」

「私だって人間なんだけれど」

「未だにお主の正体を掴めておらんからの」

李姫と白虎が出会い、一夜が経った。

白虎の案内で、猛烈なスピードで南に向かう。この分だと、あっという間に襲撃者を見つけることが出来るかもしれない。

しかし、その前に李姫がまいってしまわなければだが。

「どの聖獣がいるかは分からないのよね?」

「ああ。残念ながらな。……龍のやつでないといいが」

「龍?龍も本当にいるのかしら?」

「ああ。おる。気に食わない奴じゃがの」

「あらあら」

他愛ない話をしながら山を越えていると、とある変化に気がついた。

「あらあら。何だか暑いわね」

「確かに。気温が上がってきとる。それに焦げ臭い」

「そうかしら?分からないわ」

「お主ら人間より、我々は五感に優れとるからな。こりゃ近くで大規模な山火事でもあるかな」

「あっちね」

李姫が指した方角は、確かに遠くが赤く明るい。

「あの距離の炎の光が見えるとは。こりゃ大分凄そうじゃ。目指す方向はあちらなのじゃが、お主への負担が大きすぎる。遠回りをするしかないか」

「あらあら。そう」

「いや、ちょっと待て。あれは……」

白虎は急に李姫を制止すると、とある方向を凝視する。そこには……

「倒れてる娘がおるぞ!」

白虎は迂回すると言っていた炎の方向へと猛烈な速さで近付いていく。

「あらあら」

李姫は勝手に炎へと向かう白虎を止めることなく、ゆらゆらと背中で揺れていた。


「娘、大丈夫か?」

森の中に倒れていたのは、7歳くらいの小さな女の子だった。

白虎は前足で女の子を揺らすが反応は無い。

「あらあら」

李姫は白虎の背中から降りると、女の子を抱き上げる。

「至るところに煤やら小さな火傷があるわ。火事の方向から来たようね」

李姫はそう言うと、白虎の背中に乗せていた竹筒を取り出すと、女の子の口に当てる。

「水よ。飲みなさい」

女の子の口に少し水を流す。

すると、女の子は気がついたようでゆっくりと目を開ける。

すると、

「きゃー!だれ?この人顔無い!」

女の子は李姫の腕の中で暴れ始めた。

「落ち着け。娘よ。李姫は布で顔を隠してるだけじゃ」

白虎がそう声を掛ける。

「ぎゃー!モノノケー!」

白虎に驚いた女の子は更に大暴れする。

「誰がモノノケか!我は聖獣じゃぞ」

そう白虎が唸るが、女の子には逆効果で、益々騒ぎ立て、逃げ出そうと暴れる。

「あらあら。しょうがないわね。これでいいかしら?」

李姫はそう言うと、右手で女の子を抱えながら、左手で自分の顔を隠している布を取る。

すると美しく決め細やかな金色の髪がさらりと零れ、白き肌と澄んだ青い瞳が姿を現す。

「綺麗……」

李姫を見たとたんに先程まで暴れていた女の子は、真っ直ぐに李姫を見つめ、惚けた顔となる。

「これで私達の話を聞いてくれるかしら?」

「……うん」

「こりゃたまげた。絶世の美女というやつか」

女の子だけでなく、白虎までも目を丸くしている。

「なんて顔しているの?」

「いや、得体の知れない娘じゃとは思っておったが、まさか異国の娘とはな。しかも、ここまで惹き付ける顔を見たのは初めてじゃ」

「そう。興味ないわね」

李姫は女の子に顔を向ける。

「貴方身体はどう?」

「へっ?」

女の子は李姫の支えから一人で立つと、ふらっと体勢を崩し、尻餅をついた。

「大丈夫か?娘よ」

「うわ!モノノケ!」

「誰がモノノケだ。ワシは聖獣じゃ」

「同じようなものよ」

二人の女の子から無下にされ、白虎は悲しそうに鼻を鳴らした。

「貴方名前は?」

「あたし、杏子」

「そう。意識もはっきりしてるし、少し休めば大丈夫そうね。じゃあ、私達は先を急ぐから」

「えっ?」

「おいおい。この娘に何があったのか聞かなくていいのか?」

「興味ないわ」

そう言うと、その場を去ろうとする李姫とその後にしぶしぶ着いていく白虎。

「ま、待って!」

そんな背中に握りこぶしを作った杏子が呼び掛ける。

「あたしの村を助けて!」

杏子の目は幼子には見えない程鋭く、決意に満ちたものだった。


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