あの日、僕は君を見れなかった
あれは茹だるような夏の夕暮れで、燃えるような夕陽が川をオレンジ色に染めていて、目の前には可憐な少女が立っている。もし状況が少しでも違えば、告白でもするような絶好のシチュエーション、あるいは恋人同士でロマンチックな雰囲気でも醸し出していたかもしれない。
このクソ暑い日に僕は震えそうになる声を必死で押さえながら、君の背中に向かって言った。
「行くな!…って言ったらどうする…?」
あー、言ってしまった。君が僕の望む答えなど返せないのは分かっているのに、君の困った顔を見るのが嫌で正面からは決して言えない言葉。でもどうしても、ほんの僅かでも君の気が変わってくれることを期待していた、愚か者の戯れ言。
君は振り返りもせずに、だげと我が儘を言う幼子をあやす様な優しい声音、いつもの君の声よりも幾分柔らかい口調で言った。
「そんなこと言わないで」
「私凄く嬉しいんだから」
「みんな喜んでくれてる」
「だからユウヤも笑って見送ってほしいな」
あぁ、わかってた君がなんて答えるかなんて
そんな君だから発現したんだ
封印術
世界で唯一魔神を封印できる女神エリスからの贈り物
つまり、目の前にいる少女こそ今代の勇者であり、魔神から世界救えるただ一人の人物。
僕の恩人だ。