第八十七話 学園祭二日目:ダンシングタイム
バンド部の演奏が終わりに近づくたびに気分が高揚してくる。早く踊りたい気持ちでいっぱいだ。もう今すぐにでも舞台に飛び出たい。バンド部とのコラボを企画するべきだった。うん、来年は提案してみよう。後で詩織ちゃんに話してみよう。
「いますぐにでも飛びだしたいって顔してるぞ。お前の出番は最後だろうが」
石田先輩が声を掛けてくるほどソワソワしていたのであろう。実際その通りなので何も言い返せない。
「部長、順番交換しませんか? ロックを後でブレイキンを先にしましょう」
「だめだ。ブレイキンは最後に盛り上げるにはもってこいなんだぞ。我慢しろ」
やはりだめか。我慢するしかないみたいだ。これなら始まるまでモヤモヤするではないか。よし、おっぱいでも数えていよう。
舞台袖から顔を出しフロアを眺めると以前に踊った時や大会の時よりも人の距離が近い。少し手を伸ばせば触れるほどだ。サービスで触りに行こうと考えたが、別に芸能人でもないし前方には男しかいなかったのでやめておくことにした。
近くに女子生徒の姿が見えなくて盛り上がって上下に揺れてるおっぱいが見えなかったから舞台裏に引っ込むことにする。近くに花がいたら面白いぐらい揺れていたかもしれない。詩織ちゃんには見せられないな。悲しい現実を突きつけてしまう。
ちょうどバンド部の演奏が全て終了し一度舞台の幕が下り、楽器や装置の片づけが始まり司会の人と理事長が舞台横に立った。
「バンド部の演奏は盛り上がったのー」
「さてさて次はさらに盛り上がりますよー! お待ちかねのダンス部の皆さんです!」
「楽しみじゃのー。今回は先月に行われた大会を踊ったダンスを披露するそうじゃ。この中に見に行ったものはおるかの?」
「ほうほう、何人かは見に行かれてるみたいですねー。でも安心してください! 今回三年生が抜けた部分をアレンジしているようなので以前に見た人も楽しめるようにしているとのことなのでご期待ください!」
司会の人が今回のダンスの事を全部説明してくれて助かる。舞台では装置の片づけが終わりロッキンチームの準備ができたようだ。先に踊りたかったが我慢だ。おとなしく見ておこう。
「準備ができたようです! まず最初はロックダンスからです! それではダンス部の皆さんお願いします!」
舞台幕が上がり曲が流れ始める。ロッキンチームが踊るのは大会で俺が見たダンスではなかったが、練習ではよく見ていた。実際に人前で踊るところを見るのは初めてだ。
フロアは大盛り上がり。これをブレイキンまで維持どころかブレイキンでさらに盛り上げないといけないとなるとハードルが高い。だが、それがいい。気合が入る。
「貴様も早く踊りたそうじゃの」
舞台から戻ってきた理事長からも部長と同じ事を言われた。傍から見たらそわそわしてる怪しい人に見えなくもないかもしれない気をつけよう。
「花達はフロアかの?」
「そうですよ。場所が変わっていなければ真ん中ぐらいにいるんじゃないですか?」
「こちらが見えやすいから呼べばよかったのに」
そんなことはできない。三年生が最後の学園祭なのだ。それを差置いて見えやすいところで見せるなんてマナー違反にもほどがある。
「まぁ、貴様が言いたいことも分かるがの。それでも惚れた女には近くで見てほしいものではないのか?」
「その通りなのですが花は大会も見に来てくれたし大丈夫ですよ」
「……貴様がそれでよいのなら構わないがの」
それから理事長は舞台に目を移し、これ以上問いかけることはなかった。
理事長の言う通り花には近くで見てもらいたい。桜もそうだが終わった後すぐに声を聞きたいし、テンション上がって盛り上がりおっぱいが揺れるのが近くで見れるからね。
それでもマナーを守らないとね。理事長特権なんて使って今後の学園生活に支障をきたすようなことはしたくない。
舞台ではロッキンチームのダンスが終盤に差し掛かりポッピンチームが出て行く準備をしている。今回は曲をそのまま続けて一つのダンスとして流れを作ることにした。ポッピンチームが舞台に出たら俺も準備しないといけない。
「またソワソワしてきたの。やはり花を呼ぶか?」
「いえ、大丈夫です」
「我をもっと頼るがよい」
理事長、そんなに胸を張っても大きくなりませんよ。小さいものは小さいんですから。そんな頑張っても無駄ですよ。もうこの歳なんだから成長はしませんよ。
「三年の皆さんに悪いのでほんとにいいですよ。花も同じ事を言うと思います」
「むむむ、確かに。わかった、もう何も言わぬ」
理事長との会話が終わると同時にポッピンチームが舞台に出て行く。ロッキンチームはハイタッチを交わして舞台裏に戻ってきた。俺も少し体を動かしてすぐ動けるよう準備をしながら戻ってきた部長達に声を掛ける。
「お疲れ様です。流石でしたよ」
「おう、ありがとよ!」
「うむ、なかなかよかったぞ」
「げっ!? 理事長!?」
「おい貴様、その反応はなんだ? 言うてみろ。許すぞ」
石田先輩、その反応はまずいですよ。いくらビビッてるからってあからさま過ぎます。もうちょい隠さないと。
「いえ、あのー、えーっとですねー」
「部長、俺も気になっていたので話してもらっていいですか?」
気になっていたことだ。俺の出番が始まるまでには話は終わるだろ。
「もしかしてあれかの? ダンス部設立の時かの?」
「それです。あの時は戦慄を覚えました……」
何があったんだ? 気になるけどトラウマになっているみたいだし問い詰めないほうがいいのか?
「あれは当時の部長が悪かったのじゃ。我にあんなことをして許されるとでも思ったのかの? とりあえず今のダンス部はみんないい子みたいじゃしの。もっと我に絡むがよい」
「は、はぁ……。ではこれからは普通に絡みます」
なんかよくわからんうちに終わった……のか? まぁいいや。ポッピンチームは終盤に差し掛かっているしもうそろそろ出番だし準備しよう。
ブレイキンチーム全員の準備が完了したことを確認する。すぐにでも出れるようみんな目がギラギラしている。さぁ楽しもうか。
ポッピンチームの曲が終わり舞台に突入。ハイタッチを交わしポッピンチームが下がっていく。フロアは大盛り上がりの状態。これ以上盛り上げるのか。望むところだ。
曲は大会の時に使ったみんなが知っているあの曲。イントロが流れた時点でフロアが大歓声に包まれた。まだ始まりで踊ってすらいないんだけどね。
気持ちはすぐに踊りたいけどまだだ。しっかり音を聞いて動く瞬間を待つ。動き出す時になりメンバー全員で動き出す。そこでさらに歓声。先ほどまでの歓声を軽く超えるほどで体育館が軽く揺れている感覚に囚われる。
ダンス自体は大会で踊ったものなのだが、元部長が踊っていた部分は全部俺が担当することになった。考えるのが面倒だったので、ほとんどアクロバットにした。
そしてその場面が来た。まずはバッファローから入り、そこからバク転バク宙を繰り返しフットワークを繰り出し、最後はジョーダンを決める。
俺が飛び出てきた瞬間に大歓声に包まれたけどそれは俺が出てきたからではなく執事服を着た目立つやつが出てきたからだろう。俺個人って訳じゃない。きっとそうだ。
他のメンバーのソロも完璧にこなしたので俺のソロの出番になるがやはりエアトラは少ししか周れなかった。それでも他の技はしっかりこなしたので問題はなかったと思う。やはりエアトラには筋力がもっと必要だ。
最後の最後までステップも気を抜かずにこなし、最後もしっかりと全員で決める。そして歓声。指笛までやってくれてる人もいる。これは嬉しいな。
うん、今日も楽しく踊れた。歓声も大いに受けた。俺はもう満足だ。昨日今日の二日だけでかなり楽しめた。この二ヶ月は大会も含めて経験不足の俺に取っては、今後の部活の行動に関わるほどこれ以上にない経験になったな。




