第七十八話 学園祭一日目:女の闘い
今回はヒロイン達のお話です
三人称(作者)目線になっています
遼が理事長室で鈴の酒のお供をしているころ、花・桜・藍・初は学園の近くのファーストフード店で食事をしていた。花と桜が遼に藍の説得をお願いされたからである。
遼からパーティーがあった日から藍が暴走気味だと聞いた二人は今日一日、久しぶりに会った藍の様子がおかしいことに納得をし、話をすることにしたのだ。初は藍が暴走した時のストッパーとしてここにいる。
「藍さん、遼さんをあまり困らせないであげてください」
「どの口が言っている、このデカ乳」
「藍ちゃん、女の子がそんなこと言ったらだめだよ」
「うるさい変態」
全くの聞く耳持たずである。今の藍は以前の遼に近づく女は全て敵と思っていた頃の態度である。花は二度この藍を見ているが、桜がこのような態度をとる藍を見るのは初めてで内心驚いていた。
初は腕を組んだまま三人の様子を窺ったままだ。自分が入るべきではないと弁えているのか、それともただめんどくさがっているのかは本人しか分からない。
「あんた達は遼兄ぃを傷つけた。藍はあんな遼兄ぃを見たくなかった。あんた達がいたから遼兄ぃはあんなことになったんだ」
「あれは……」
「お酒のせいとか言うなら飲まなきゃよかったんだ。遼兄ぃは飲まないように注意してたよ」
全くその通りである。あの時二人はは楽しくなって初が用意していたお酒を飲んでしまった。未成年が飲んではいけないとは分かっていながらも飲み、どうなるかなんて考えてもいなかったのだ。
「一番悪いのは桜さん、あんただ。花さんが遼兄ぃにキスしたのは全然よかった。でもあんたはその後自分の渦巻く感情を遼兄ぃにぶつけた。そのせいで遼兄ぃは苦しんだんだ」
藍が言っていることは全て正しい。いつもより饒舌な藍に圧倒され、桜は何も言えずにいた。あの時の自分の行動が遼を傷つけ、最悪な選択をさせようとした結果になったことを理解しているので、尚更口を開くことができなかった。
「藍さん、私達はその後遼さんと話して仲直りしました。遼さんが少しの間、私達から距離を置くという条件付でしたが……」
「それは今日見てわかった。でも納得できない。結局は遼兄ぃをあんた達が振り回して遼兄ぃの心を乱しているだけ。そんなあんた達が遼兄ぃと一緒にいることは認めない」
和解した時のことを思い出し、何も言えなくなる花。あの時は桜が遼を諦めると伝え揺さぶりをかけるつもりだった。結局は無意味な結果に終わったのだが、あの時遼が違う反応をしていたらと考えると恐ろしくなってしまう。
「そういうだからあんた達は――」
「おい、藍」
藍の言葉を威圧的な声で初が遮った。妹大好き初が藍に向けて脅すような声で呼びかけるのは藍が生まれてからのこと初めてで、一瞬体がビクッと反応してしまう。
藍が恐る恐る初の顔を覗き込むとその顔は今まで自分に向けられたことのない、般若のような恐ろしいもので、体をガクガクと震えさせてしまう。
「黙って聞いてりゃ、何でもかんでも言いやがって。お前が遼のことが好きなのは別に構わないが、私はお前と遼をくっつけるつもりは一切ないぞ。兄妹でそんなことは私だけでなく誰も認めない」
多分そんなことを認めるのはうちの両親だけだと付け加えると、花と桜の顔が引きつった。世間的には絶対に認められないことを両親が認めるのはどうかしていると思う。
「でも初姉ぇ、何も言ってこないから……」
「それはあいつが困っているのを見て楽しんでいただけだ」
ゲスな姉だ。
藍だけでなく、花と桜も同じ事を同時に思ってしまったが、それを口にしたら殺されると思い押し黙る。そんなこと初に言えるのはこの世で理事長の鈴ぐらいだろう。
「それと今あいつを一番振り回して困らせているのは藍、お前だ。それもこの二人とは比べ物にならないほどにな。見ていて何度間違いを犯さないか、私は冷や冷やしていたんだ。私も振り回されている。よってお前が一番悪い」
この人絶対自分がめんどくさいことに巻き込まれたくないだけだ。
再び三人が同じ事を思ってしまう。
藍からしてみれば初の言っていることは間違えではない。遼がいつも困っているのはわかっている。自分が二人のことで鬱憤を晴らすかのように愛情表現をしているだけに過ぎないのだ。兄妹の一線を越えるほどの過剰な愛情表現で。
「理解したか? なら早く仲直りしてくれ」
この人もう帰りたいんだ。
三度目の三人のシンクロ。シリアスな雰囲気をぶち壊しだ。
三人はお互いが納得する和解案を出すため頭を捻る。花と桜は、これまで通りみんなと仲良くしたい。藍は二人にはもう遼に近づいてほしくない。落とし込みどころが難しい。
初はイライラし始めたのか足をリズムよく何度もコツコツと上下に動かしている。ただの貧乏揺すりなのだが、三人には何かに押しつぶされているようなプレッシャーがかかる。
「でしたら、こういうのはどうでしょう? 藍さんは今まで通り私達と仲良くしてもらう。藍さんは私達と同じく遼さんが好きなので、私と桜と同じように正々堂々と遼さんを賭けて闘う」
「それだと藍ちゃんが有利でしょ? 一緒に住んでいるもの」
その通りだと納得したのか、先に提案をした花が黙り込んでしまう。兄妹なので遼にとっては有利も何も無いとは思うのだが、先ほど初が言っていたように間違いが起こる可能性がある。
「藍、これ以上私に迷惑をかけたらわかっているだろうな?」
普段藍には絶対に向けない強烈な殺気で脅すと、脅えているなんて優しい言葉では表せられないほど藍は顔を真っ青にし、痙攣しているのではないかと思うほど体をガクガクと震わせ全力で頷く。いや、頷いているのか体が震えて頷いているように見えるのかわからない。それほど、藍は生まれて初めて初に対して恐怖を抱いていた。
花と桜は同情の目を向けることしかできなかった。そしてこの人を絶対に敵に回さないように行動しなければならないと心に誓う。
「そういうことだ。家でのことは問題ないからそれでいいだろう」
もう無理矢理感が半端ないと思うしかできないが、とりあえず落としどころはつけたことで一段落する。
「これからもよろしくお願いします、藍さん」
「遼は私がもらうんだからね」
「藍も負けない。それと……嫌な態度とってごめんなさい」
謝罪を入れないと初にとんでもないことをされてしまうと思ったのか、チラチラ初を窺い、脅えながら謝罪の言葉を口にする。花と桜はもう苦笑いしかできない。
「お前ら、明日からは仲良くしろよ。私に迷惑かけた時は……」
「初さん、大丈夫ですから。もう脅すようなことはしないでください」
「お姉さん、いつもの優しいお姉さんに戻ってください」
「初姉ぇが怖い初姉ぇが怖い初姉ぇが怖い初姉ぇが怖い初姉ぇが怖い初姉ぇが怖い……」
藍はもう完全に脅えきっている。これで篠崎兄妹は姉に逆らえなくなった。姉に恐怖することは一種の通過儀礼なのだろう。
「それじゃ帰るぞ。送っていくから車を回してくる。お前らは外で待ってろ」
席を立ち外に出るまだ十月だと言うのに夜だからかかなり冷え込んでいた。家の近い花でもこの寒さの中歩いて帰るのは風邪をこじらせてしまうかもしれない。
「ねえ、藍ちゃん」
寒さで体を震わせながらも桜が藍に問いかける。藍も体を震わせているが、先ほどの恐怖から来るものではないのは見てわかる。
「遼にキスしたでしょ?」
「うん」
「藍さん、ほんとは兄妹でそんなことしたらダメなんですよ」
「でもヨス〇ノソ〇では……」
「それはゲームでしょ。現実はそうも行かないの」
なぜ桜が十八歳未満禁止のゲームを知っているかは触れないでおこう。
「でも遼さんがそれを望んだのでしたら、私達は二人を応援します。そうならないようにするのも私達の頑張りですけどね」
「……ありがとうございます」
これで三人のわだかまりは解けたのかクスクスと笑いあう。これからは今まで以上に三人は仲良くなれるはず。そして闘うべきライバルには負けないと心に刻み込むのであった。
ここまでで四章が終了です!
これでタイトル「清楚系ヤンデレと天使な小悪魔と」が歯切れ悪く【と】で終わっている意図が伝わったかと思います。
もちろんメインヒロインは二人ですよ。
四章では新キャラが二人登場しましたが、次の新キャラは六章か七章で出す予定となっております。
今後はどうなるのでしょうか? 楽しみにしてください!
次回からは五章が始まります。
早く主人公付き合えって?
それはまだまだ先の話ですよ。
ツイッターでファン投票をした結果、ヒロインよりも作者の私が人気でしたので(笑)




