第七十七話 学園祭一日目:理事長室
教室の片づけと明日の準備を終えてみんなが帰宅していく中、俺は理事長室に向かっていた。実はこの学園の職員室にも行ったことがないので少し緊張している。
花には桜と藍の説得をお願いして教室で別れた。万が一のために姉さんも一緒だから大丈夫だろう。みんな仲良くしてほしいものだ。
理事長室は屋上の入り口から近かった。というより屋上へ上がる階段のすぐ横だった。上の階へ上がることがそんなになかったので知らなかった。この学園は広すぎて行った事がない場所が多すぎる。
理事長室の扉の前に立つ。他の教室と比べても扉の大きさが段違いだ。一度深呼吸をしてノックをする。
「……誰じゃ?」
「篠崎遼です。入ってもよろしいですか?」
「よい。入るのじゃ」
大きな扉を開けるとそこはアニメとかでよく見る厳格で豪華で風格を表す様なな部屋……ではなく、ピンクでかわいらしく、漫画やテレビ、ゲーム、フィギュアが置いている完全に女の子の部屋だった。ベッドまであるってことは理事長はここに住んでいるのだろうか?
「どうした、はよ入るのじゃ。扉はちゃんと閉めるのじゃぞ」
唖然と口を開けて立ち尽くす俺に理事長が声を掛ける。イメージしていたものと違い戸惑いを隠しきれなかった。
「理事長、この部屋って……」
「理事長室、我の部屋じゃぞ。我が就任した六年前に改装したのじゃ。かわゆいじゃろ?」
いやいや、学園の敷地を個人の好きにしたらだめでしょ。これが権力の力なのか?
理事長が座る机も偉い人がよく座っている大き目の机だが、理事長サイズに合わせて少し低い。部屋の奥には脚立があるから、あれは高いところの資料をとるためのものだろう。なぜかベッドはキングサイズ。
「ベッドが気になるのか? 今日は我と供に夜を明かしたいのか?」
「いえ、結構です」
俺の即答でダメージを受けたのか理事長はグハっと叫んだあと両手両膝を地面につけた。
理事長、そんな落ち込まないでください。きっといい人が見つかりますから。あ、俺はロリコンじゃないんで遠慮しておきます。合法ロリでもロリ巨乳じゃないなら俺の心は揺らがないですよ。
しかしあのフカフカなベッドでの寝心地はいかがなものか気になる。理事長がいない時に泊めてもらうのはありなのかも知れない。
「やっぱりベッドが気になっておるようじゃの。我が出張の時は使ってもよいぞ?」
「でも部屋の鍵を渡すのはよろしくないのでは?」
「屋上の鍵と同じなのじゃ。ほれ、鍵は貴様に返すぞ」
鍵をひょいっと投げて渡される。これで屋上への鍵は取り戻せた。この鍵が理事長室と兼用とは姉さんも知っていたのだろうか?
「初は知らぬぞ。あやつにはここの鍵など不要のようじゃったからな」
扉をぶち破って入ってくるのですね? 分かります。そういう姉ですから。
「ほんとにうちの姉がご迷惑をかけました」
「よいよい。我が就任したての頃からあやつには苦労したのじゃが、そのおかげかどうか、学園ではマスコットみたいな扱いになったからの」
それっていいことなのか? マスコットになれて嬉しいのか? 理事長ってもっと威厳を持った人じゃないのか?
昔を思い出すように遠くを見るような目で呟く理事長。その見た目でそんな思い出に浸るような顔は似合わないどころか不釣合いだ。
この人はやはり普通じゃない。見た目も中身も。とりあえず用事は済んだし明日も学園祭があるからもう帰ろう。
「もう帰るのか? もう少し我に付き合ってくれぬかの?」
そう言って理事長は机から日本酒の一升瓶を取り出し、ドンっと机の上に置いた。これは酒を注げってことなのだろう。このかわいい部屋にその一升瓶はかなり不釣合いだ。もう少しかわいい缶チューハイとかカクテルは無かったのかね。
そもそも学園で酒を飲んだり未成年に酒を注がせていいのだろうか。絶対だめな気がする。なぜ俺の周りの大人はこうも未成年に酒と関わりを持たせようとするのだろう。
「ここは我が所有している学園、いわば私有地じゃ。正確にはまだ我が所有しているわけではないのじゃがな。この土地の全権は我にあるのは間違いないぞ」
「それでも未成年に酒と関わりを持たせる大人はどうかと思いますが」
「細かいことは気にするでない。それでも男か? ちゃんとちん〇ん付いておるのか?」
このセクハラババア、言ってくれる。いや、まだババアって歳じゃないな。ならセクハラお姉さんでいいか? 見た目がお姉さんとは程遠い。もうセクハラ小学生でいいや。
「では、遅くても九時には帰らせていただきますよ」
「構わぬぞ。明日もあるのじゃ、そこまでは飲まんよ」
「それと、私は飲みませんから。未成年ですし」
「無論じゃ。どこに未成年に酒を飲ませようとする教育者がいるのじゃ。会ってみたいわ」
すいません。うちの姉です。まだ教育者(仮)だけどこの前みんなに酒を飲ませていました。
少しだけと言うことなので付き合うことにした。瓶を持ち理事長が持つコップへ酒を注ぐ。日本酒独特の匂いが部屋に広がる。少し強めの匂いだが嫌いではない。
理事長を今日一日見ていた感じだと昨日初めて会った人なのだが、かなりフレンドリー、というかパーソナルスペースを全く感じない。誰にでもこうであることが驚きだ。こういう人は滅多にいない。純粋にすごいと思う。
コップに酒を注いだあと、冷蔵庫に飲み物があるから好きなものを飲んでいいと言われたのでお茶を頂くことにし、理事長とグラスをぶつけ飲み始める。
「我とサシで飲むのは貴様が二人目じゃ。無論、一人目は初じゃ。貴様ら姉弟とは今後も関わりが多そうじゃの」
「サシ飲みって言っても私はお茶ですよ? お酒は二十歳になってからなのでその時にまたお願いします」
「よいぞ。その時に貴様に彼女がいなかったら我の処女を捧げよう」
「遠慮しておきます」
理事長は俺の即答でむくれ面になりながら酒を煽る。コップの酒を飲み干したので瓶を持ちコップに注いであげる。あまり酔ってしまうと面倒だからゆっくり飲んでほしいものだ。
「むぅ、そこまであの二人が好きかの? それとも妹か?」
「妹の藍はかわいいですけど妹なのです。ありえません。二人のことは好きですよ。でもどちらかを選ばないといけないのです」
「花が原因かの?」
鋭いな。今日一日でそこまで分かってしまうのか。よく人を見ているって話では説明できないな。
「あやつ、おそらくじゃが、ヤンデレではないかの?」
「その通りでございます」
「貴様も面倒じゃの。どうせあの乳に誘惑されたのじゃろ?」
そんなことはない。花は危ないところはあるものの女の子としてかわいい一面をたくさん持っているし、周りへの気遣いがうまい。一緒にいるとこっちまで嬉しくなってくる子だ。おっぱいはおまけなのだ。そうおまけにすぎないのだ。
と言うことを伝えると理事長はニヤリと笑みを浮かべそうかそうかとコップを傾け酒を飲む。また酒が無くなったので注いであげる。
「乳がおまけなら我や詩織でもよいのではないのか?」
「詩織ちゃんは一成の彼女です。幼馴染の彼女を好きになるなんてありえないです」
「では我はどうじゃ?」
「理事長――お嬢様は歳が離れすぎて過ぎています。干支が一回りも違うのですよ」
「恋や愛に歳は関係ないのじゃよ」
この小学生酔っているな。適齢期を迎えて彼氏もいなく、未だ処女であることに焦って酒の力で何とかしようとしているのではないか? こういう話はスルーに徹しよう。
しばらく話をしながらぐびぐびと酒を飲み、注いでを繰り返す。酔ってきたのか顔が赤くなり、目線も定まらなくなってきていた。姉さんとは違いそこまでお酒に強くはないみたいだ。
「私らって、好きで小さいわけではにゃいんだよぉ。みんにゃ私を小学生扱いしにゃいでよー」
呂律が回っておらず、一人称も私になってるし口調も普通になっている。学園での仮面が剥がれ、素の理事長がそこにはいた。それでも酒を飲み続ける。
グラスが空になったが酒を注ぐのはやめてそろそろ寝かせてあげよう。これ以上飲んで吐いたり暴れたりされると面倒だ。
「お嬢様、そろそろお休みになったほうがよろしいのでは?」
「むぅ、貴様がベッドまで運んでちょうらい」
素直になっててかわいいとか一瞬思ってしまった。仕方ないと苦笑いを浮かべ小柄な体をお姫様抱っこで抱え、ベッドまで運んで横に寝かせる。かわいいと思ったが運んでいる最中めちゃくちゃ酒臭かった。
「一緒に寝にゃいの?」
「今日は帰らせていただきますね。お嬢様も明日に備えてゆっくり休んでください」
「一人にしにゃいで」
学園では気丈に振舞ってはいるが、ただの寂しがり屋な女性だったのか。意外な一面が見れた。今度ネタにしよう。おそらく姉さんはこのことをネタにいろいろお願い(強制)をしているに違いない。
「お嬢様が寝るまではここにいますよ」
それで満足したのか、子供らしい笑みを浮かべて目を閉じた。しばらくすると眠ったのか規則正しい寝息が聞こえてきた。寝顔はかわいらしい小学生そのものだ。歳はアラサーだけどね。
寝ていることを確認した後電気を消し、部屋から出て行く。ほんとに屋上の鍵と同じだったようで返してもらった鍵で扉の施錠ができた。
明日も学園祭。早く帰って寝よう。明日は後夜祭でダンスを踊ることになるから体調も万全にしておきたいしね。
そういえば花と桜は藍説得はできただろうか? 連絡も来ていないので帰ったら確認しよう。トラブルになっていなければいいのだけど……
よろしければ評価をください!
お気に召しましたら感想・レビューもお待ちしております!




