第七十五話 学園祭一日目:メイド喫茶
藍と姉さんが合流することになったのだが、藍の態度が悪い。理事長に宣戦布告した後からは一言も話さず、ずっと俺の腕に抱きついている。花と桜も様子がおかしいと思ったのか何度も藍に声を掛けるのだが、顔すら合わせようとしない。
そろそろ注意しようかと思っているとメイド喫茶である教室に到着してしまった。
「いらっしゃいませ、お嬢様!……篠崎君、初先生はいいとして女の子が増えている状況を説明してもらっても?」
出迎えてくれたのは委員長だった。やはりノリノリで仕事をこなしているようだ。先ほども見たのだが、メイド服と赤メガネがマッチしていてなかなかかわいいじゃないか。
委員長の言う通り、女の子が増えているのは事実だ。傍から見たら執事がたくさんの女の子を侍らせているように見えてもおかしくない。
「こいつは俺の妹の藍だ。よく見てみろ、姉さんに似ているだろ?」
「……確かに。目元以外は初先生ね」
「藍、挨拶するんだ。今のうちに顔を広めておくと来年から楽できるかもしれないぞ」
「ん、わかった。皆さん初めまして。篠崎藍です。遼兄ぃの妹で妻です。来年からこの学園に通う予定です。よろしくお願いします」
藍の自己紹介が終えると教室にいたクラスメイトとお客さんがいっせいに俺に視線を向けた。あの自己紹介を聞いたらそうなるよね。
何てこと言うのかなこの子は。妻のところかなり強調して言ってたけどそんなことないからね? そんなこと認めてないからね? みんなに誤解されてしまうじゃないか。
「藍、馬鹿なこと言ってるとお兄ちゃん怒るよ?」
「ホントのことでしょ? 毎日一緒に寝てるもん」
再び教室がざわつく。爆弾を投下するのやめようか。
「それはお前が毎日俺の部屋に鍵を掛けても侵入してくるからだろ?」
「それならたまにだけど一緒にお風呂入ってるしご飯も作ってあげてるよ?」
もうしゃべらないでくれ。俺の学園生活が終わってしまう。
「遼……あんた……」
「うふふ、遼さん……」
振り返ると桜は泣きそうな顔をして、花は口元だけ笑って目には光を失っていた。二人まで勘違いされては困る。もう学園での居場所がなくなる
姉さんに助けを求めるべく焦った表情で視線を投げかけると、仕方ないと言わんばかりに髪をかき上げて近づき、藍を右脇へと持ち上げた。藍は暴れることなく、大人しくぶらーんとしている。
「妹がすまんな。最近ちょっと暴走気味でな。妻とかうんぬんは嘘だ。そんなことは私が許さんからな」
その場が一気に落ち着きを取り戻していくのがわかる。姉さんの言葉には説得力があったようだ。納得しない人がいたら力ずくで納得させるに違いない。それでも助かった。
「あまり驚かせないでよね。じゃあ篠崎君と瀬戸内さんは手伝って。他の方は案内いたしまーす」
仕事モードに戻ったのか委員長は完全にメイド喫茶の店員をやりきっている。公私を切り分けることができる人はきっと将来出世するだろう。
桜と脇に藍を抱えた姉さんが委員長に案内されて席へ向かっていく。理事長がいないと思ったら俺のすぐ横に立っていた。小さくて見えなかったとは言わないでおく
「お嬢様? 行かれないのですか?」
そう聞くと手を招くのでしゃがんで、理事長と目線を合わせる。何だろうと思っていると人に聞かれたくないのか口元に手を添えて口を開いた。
「貴様の妹、本気で貴様のことがすきじゃろ?」
「やっぱりわかりますか? ブラコンの域を超えていますよね」
「さきほどの妻うんぬんも嘘ではないのだろう?」
「妻は嘘です。私がそんなの認めるわけにはいかないでしょう」
「そうじゃな。じゃがあやつからは少し危険な匂いがするのじゃ」
それは長年の経験なのか女の勘というやつなのかはわからないが、理事長はかなり鋭い。人をよく見ていると言うのか人の気持ちを掌握している感じにも取れる。
「俺は藍が間違っていることを何度も教え聞かせているのですが、なかなか聞いてくれないのです」
「ふむ、我も少し様子を見るとするかの」
そう言って先に行った三人が座る席へと向かった。俺も一度厨房に行き仕事をするための気持ちも準備をする。この先、藍が何も事件を起こさなければいいと思いながらホールへ出て行く。
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「いらっしゃいませ、お嬢様」
ホールでは基本的に女性のお客さん、お嬢様の接客を担当している。男、もといご主人様の相手なんてしていられるか。そもそもこのクラスの執事、男の接客担当は俺しかいない。ご主人様の相手はメイドである女子に任せても何も問題ないのだ。
姉さん達の接客は委員長と花に任せた。顔見知りだし客の四人もそのほうがやりやすいだろうと思った俺の配慮だ。
「あのー、一緒に写真を撮ってもいいですか?」
ダンスが終わってから教室の手伝いを始めてまだ一時間程しか経っていないが、もう写真をお願いされるのは五回目になる。いい加減慣れてきた。
「もちろんでございます。カメラはスマホでよろしいですか?」
「はい! よろしくお願いします!」
近くにいたメイドにお願いして写真を撮ってもらう。ちなみに一緒に写真を撮るのは五百円の追加料金がかかるのだが、意外とメイド達と写真を撮るご主人様が多い。みんなかわいいからね。
写真を撮り終えると一番端っこの席にいた桜と藍がこちらを見ていることに気づく。どうやら一緒に写真を撮るのが羨ましいのか妬ましいのか、そんな表情だ。仲が良さそうで結構。
そう言えば花と桜とは何度かデートしたりみんなで遊んだりしているが、ツーショットを撮ったことはないな。藍との写真は当然ながらたくさんある。
花を探してみるとしっかりと仕事をこなしているようだった。花が接客しているご主人様達の目線は花の胸元だ。鼻の下を伸ばしている。触ったりメイドが嫌がる行為をやった場合は即追放だ。セクハラをする輩は料金を頂いて追放しているが、なかなか減るものではないな。
ちなみに俺はお嬢様方からかなりボディタッチをされるのだが、別に嫌ではないのでセクハラにはならない。セクハラの定義では男女問わないが、やられている本人にしか程度がわからないのがやっかいだ。
「おーい、遼君! 来たよー」
「遼、遅くなってすまない」
「いらっしゃいませ、ご主人様、お嬢様。席に案内いたします」
一成と詩織ちゃんが入り口から入ってくる。結構込んできてはいるものの理事長特権を使っているのか四人の周りの席には誰もいないのでそこに案内をする。あまり特権を使われると困るのだが、満席になることもないので今のところ問題はない。
「魔法少女よ、遅かったの。そやつは彼氏か?」
「はい彼氏です。少し二人でデートしていました」
「お嬢様、こいつは私の幼馴染の小田一成です。詩織ちゃんの彼女で、一学期の期末試験では学園で一位でした」
「学年一位とはなかなかじゃ。これからも精進するのじゃぞ。勉強だけでなく学園生活も有意義に過ごすのじゃぞ。」
四人で座っていた席を少し広げて六人で座れるようにする。男が一成しかいないので平を休憩に入れて一緒に入ってもらった。これでいつものメンバーwith理事長が揃った。
「そっちは花と委員長に任せているけど何かあったら呼んでくれ」
「遼君もお仕事頑張ってね」
「お前の働きを見させてもらうよ」
こうも集まると騒がしくなると思ったが結構みんな割と常識的に楽しんでくれている。騒いだら追い出すからな。




