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第七話 周(回)ってみる

 花と桜とのデートから三日後、部活中の俺はステージの上で三点倒立をしてた。両手と頭でバランスを取りよく犬神家の格好とか言われているあれだ。少し違うのは足は体の前にだし体と腰が九十度になるようにしている。足が上になったり後ろにそらないようにするのがポイントらしい。ちなみに頭には工事現場で使うような半キャップヘルメットを装備している。


 これから何をするかって? これはヘッドスピンの練習だ。ヘッドスピンとはその名の通り頭だけで回る技だ。


 ウィンドミルとトーマスフレアをものにした俺の次の課題だ。これは部長からの支持であり、とりあえず代表的な技だから覚えておけとのこと。ちなみにあとで知ることになるのだが、ヘッドスピンのギネス記録保持者は日本人である。一分間に一四二週周るそうだ。目が回りそうだね。


 ここ最近は三点倒立から手を離して頭だけでバランスを取る感覚を身に着けるというのをひたすら行っていた。


「篠崎、そろそろ周ってみるか」


 部長がそう言うと三点倒立している俺の右足を掴み、左足を二年の先輩が掴む。一体何をするんだ?


「お前は筋がいいから、一度コツを掴めばすぐできるはずだ。今日から三日は周りながらバランスを取る感覚を身に着けろ」


 そう告げると部長と二年の先輩は足を持ったまま時計周りに動き出す。


 最初から手で周る練習方法もあるのだが、先に周ったときのバランスのイメージをつけた方が早く周れるようになるそうだ。


 ゆっくり周ってるけどなかなか地面から手が放せない。周るとバランス取るのが難しいな。


「手を離したら両手を床に対して平行に伸ばすか両手でヘルメットを掴むんだ。最初はその方がバランスが取りやすい」


 言われた通りにやってみるがバランスが取れない。三分ほど周った後一度休憩を取り、また周りだし、三分周ったらまた休憩の繰り返しだった。正直かなり目が回る。


 これが三日続きなんとかバランスが取れるようになった。月曜日からは自分で周る練習だそうだ。この練習今までで一番きついかもしれない。


 ―――――――――――――――――――――


「デートしてみてどうだったの?」


 土曜日の午後、俺は一成・詩織ちゃんペアと某チェーン店カフェに来ていた。先週のデートの報告をする為だ。今週の昼休みはクラスのやつに捕まっていたので相談ができなかったのだ。主に平なのだが。


「デートは楽しかったよ。二人ともいいこだし、いろんな一面を見ることもできたし」


 土日のデートは成功したと言わざるを得ない。二人とは全然違う遊び方をしたのだが、どれも楽しかったし楽しんでくれてたと思う。


「それで? お前はどっちがいいんだ?」


 俺もそこに悩んでいる。清楚系の花とかわいい系の桜、二人とも全然違うタイプだがどちらにも惹かれるところがあるのだ。


「どっちがって言うのは決めきれないよ。花は見た目とは意外なことでダンスが好きで、笑うとこっちまで笑顔になる。ヤンデレ気質がありそうだけどね。桜は子供っぽいけどホラー映画が好きで、無邪気な天使みたいなんだ。まぁ小悪魔的なところもあるけどね。どっちかを選べなんて俺にはできない」


 可能であるならどっちも選びたい。だがそれはお互いにとってよくないことだ。桜は案外許してくれそうだがヤンデレ気質がありそうな花は絶対許さないだろう。


「お前なぁ……。素直なんだがはっきりしないな」


 頭を掻きながらため息をつく一成。こっちもため息つきたいよ。そんな中一人だけニヤニヤしている詩織ちゃん。


「青春してるねぇー。若いっていいねー」


 詩織ちゃんがなんだかおばさんみたいだ。同い年だよね。


「まぁまぁいいじゃないかー。高校生活もまだ始まったばかり、時間はまだまだあるんだしねー」


「先輩達は三年間なんてあっという間だから後悔しないようにしろって言っているよ」


「よそはよそ、うちはうちだよ」


 やっぱり詩織ちゃんおばさんみたいだよ。コ○ン君か?


「まっ、詩織の言う通りかもな。お前のやりたいようにやったらいいさ」


 一成までそんなこと言い出す。頭が回る。考えたら心苦しくなる。


 やりたいようにやったらいい、ね。高校生になってからよく考えていることだ。俺は冷めたコーヒーに口をつける。苦い。青春は甘酸っぱいともほろ苦いとも言う。今の俺の青春は甘酸っぱい後にほろ苦い、ジュースを飲んで甘い味を楽しんだ後歯磨きをしてもう一度飲んら苦くなる時の感じかな?まぁ甘酸っぱいともほろ苦いとも一様に言いがたいのだ。残ったコーヒーを一気に飲み干す。やっぱり苦い。


 ―――――――――――――――――――――


「じゃあそろそろ行こうか」


 そう言って席を立つ詩織ちゃん。俺達は揃ってカフェを出る。


 今日は詩織ちゃんの初ライブ。俺と一成は観客として一緒にクラブハウスに向かう。


 クラブハウスに到着した俺達は、詩織ちゃんと別れ中へ入っていく。


 クラブハウスの中は薄暗く、天井の中央にミラーボールがあり周りをキラキラさせていた。


 人の顔が見えにくいな。歩くときは気をつけないとと思いながらも余所見をして歩いていると胸元に何かが当たった。人の頭だ、それも小さめの女の子。余所見してた俺が悪いな謝らないと。


「すいません。余所見していました」


 離れようとした俺と下から見上げる女の子と目が合う。


「あれ、遼だ。何でここにいるのー?」


 桜だった。今桜は目線だけ俺を見上げるように、つまり上目遣いで目が合っている。かわいいな。


「幼馴染の彼女がこのライブに出るんだ。桜こそどうしてここに?」


「私のクラスメイトも出るから応援に来たんだ。偶然だね」


 にっこりと微笑む桜。今日も天使スマイルは健在。

 確か詩織ちゃんが隣町の高校と対バンって言ってたな。桜のとこだったのか。


「遼、どうかしたか?」


 俺が急に立ち止まったからか一成が声を掛けてきた。一成の位置からじゃ桜は見えないのか。

 俺は横に動くと一成は桜を認識する。


「一成、この子がさっき話した中田桜さんだ。で、桜、こっちのでかいのが幼馴染の小田一成だ」


 俺は二人に互いの事を紹介する。


「あぁ、小悪魔の」


「ん? 小悪魔?」


 おい、一成。お前何を言ってやがる。そんなことを視線に乗せて投げかける。一成もそれに気づいたようだ。少しバツの悪い顔をした。こいつに花を紹介したら『あぁ、ヤンデレの』とか言いそうだな。


「失礼。俺は遼の幼馴染の小田一成です。遼がお世話になっているそうで」


「私は中田桜です。今はまだ遼の友達です。こちらこそ遼がお世話になっています」


 桜、まだってどういうことかな? 俺気になっちゃうよ。そして君達は俺の親なのか?


 しかもこいつらなんかもう意気投合しているよ。内容からするに主に俺の話だな。

 話の邪魔をしたら悪いと思ったので俺は飲み物を取りにいった。俺が烏龍茶、一成にはコーラ、桜にはオレンジジュース。二人のところに戻り飲み物を渡し、桜が見えやすいようにとステージの近くまで行ったところで急に照明が消えた。しばらくするとステージの照明が付いた。ステージには四人組みのバンド。


「あ、あのドラムの子、私のクラスメイトだよ」


 桜のクラスメイトを確認。コスプレなのか衣装なのか知らないが某ホラー映画の井戸から出てくる髪が長く白いロングワンピースを着たあれだ。あんなんで演奏できるのか?そんなことを考えていると貞○が構えた。演奏が始まるようだ。


 演奏が始まるとおもしろかった。曲がどうではなく。桜のクラスメイトがだ。髪を振り回しながらドラムを叩く。うまいのかどうかなんてわからない。貞○が激しい動きをしているのだ。ホラー映画が好きな俺にとっては爆笑物だった。桜も同じみたいで涙が出るほど笑っている。貞○の髪がぶんぶん回る。それに合わせて俺達の頭も回る。ヘッドバンキングとはちょっと違う動きだ。


 演奏が終わった頃には俺と桜は息を切らし汗だくになっていた。二人とも笑っている。貞○があんなツボに入るとは思わなかった。


「はぁーおもしろかったね。貞○が激しかったよ」


「貞○ってあんな動きできるんだな」


 二人で笑いながら話していると二組目がステージに上がった。


 二組目は日本人なら誰でも知っている人気バンドのカバーだった。歌はうまいも演奏貞○に比べたらインパクトが弱い。そんな感想で二組目は終わった。


「さっきのに比べるとインパクトが弱いな」


 一成が呟く。ちなみに一組目のバンドの演奏中、一成は口を空けて呆然としていた。あれはインパクトが強すぎだった。


 三組目は詩織ちゃんのバンドだった。宇宙人とか未来人とか超能力者と友達になりたいあの子のアニメのコスプレだ。俺もあのアニメは見ており、文化祭で演奏する曲は好きだ。


「小田君の彼女はどの子かな?」


 俺も探してみるが見あたらない。まさかあのギターを持ってる魔女っ子か?よく見ると詩織ちゃんだ。しかし早弾きあれはチート能力があってこそ弾けるのだ。詩織ちゃんでは無理だ。もしかして詩織ちゃんは宇宙人なのか!?


「おい一成。お前の彼女宇宙人だったのか?」


「そんなわけないだろ。まぁ見てろって」


 演奏が始まった。詩織ちゃんは……弾けてる。あの早弾きを。嘘だろ。やっぱりなんか呪文を唱えてチート使ったのではないか?


「すごいだろ?でも詩織はこれしか弾けない」


 いや、二ヶ月でこれ弾ければ十分でしょ。


 一成曰く、詩織ちゃんもあの曲が好きらしくコードを覚えた後あの曲しか練習しなかったそうだ。よく誰も止めなかったもんだ。いや、止めたけど頑固な詩織ちゃんが辞めなかったのかな。詩織ちゃんかなり努力したんだろうな。


 演奏が終わり詩織ちゃんたちがステージから下がっていく。やりたいことをやって、努力している詩織ちゃんが俺にはすごくかっこよく見えた。


「小田君の彼女すごかったね」


「俺の彼女すごいだろ?」


 ドヤ顔をきめる一成。すごいのはお前じゃなくてお前の彼女の詩織ちゃんだからな。音痴でも頑張れば楽器は弾けるんだな、と呟いた。


「そういや、詩織の歌聞けるようになってたぞ」


 え?そうなの?てか音痴って直るんだ。


 ギターを始めてから詩織ちゃんの音痴は直ったというか良くなったが正しいかな。壊滅的から聞けるようになっただけで大きな進歩だ。ひたすら音と向かい合ってたら良くなるものなんだね。


 その後もバンドの演奏は続いたが、やはり一組目のインパクトを超えるものと詩織ちゃんの演奏を超えるバンドはなかった。


 全工程を終了し、詩織ちゃんと合流。詩織ちゃんにも桜を紹介した。ここでも『あぁ小悪魔の。』と詩織ちゃん。俺のイメージダウンに繋がる発言はやめてくれ。


 二人は雰囲気が似ていると思ったけど並べてみると似ているのは小柄って部分だけで桜の方が子供っぽい。桜の方が少し背が低いが胸は桜の方が大きい。


 その後桜はクラスメイトのところへ行くとのことなのでここで別れることになった。


「楽しかったね!今日も遼に会えるとは思っていなかったよ。次会えるのは約束の来週だね。小田君と詩織ちゃんもまたねー!」


 別れ際、手を振ってクラスメイトのところへ向かう桜。こらこら、余所見してると危ないよ。


「いい子だったな。でもあの子どこかで……」


 一成がそんなことを言って考え込む。人違いだろと適当に流しておく。


「ねぇ遼君、約束の来週ってどういうことかな?」


 ニタニタした顔で詩織ちゃんが聞いてくる。一成に助けを求めようと思ったが、こいつもニタニタしていやがる。これは話さないとダメですか。


 三人での帰宅途中に全てを打ち明ける俺であった。俺が話している間、このバカップルは終始ニタニタしていた。


 ―――――――――――――――――――――


 月曜日、俺は先週同様ヘッドスピンの練習をしていた。今週からは部長達の補助はなしで自分で回転力をつけて周る。


「篠崎、足が高いと安定させにくいから足はもっと開くんだ」


 ヘッドスピンは最初で回転を安定させなければならないので、バランスを取りやすいよう足を広げたほうがいいそうだ。周ったあとはバランスを取りつつ、回転が落ちてきたら足と腰をひねって回転力を出すようにする。周りながら様々なポーズを取ったりすることもできるようになるらしい。


 俺は三点倒立の状態から手と足を使って周る。このとき首を使って周る人もいるみたいだが、部長からは怪我するからやめておけと言われた。回転中も首を使って周ったり止まったりする技があるみたいだが部長は首を使うことは禁止した。大きな怪我だと後遺症も残るみたいなので気をつけよう。


 やっていく内に三週くらいは周れるようになったが、それ以上先へ進めない。


「篠崎、回転が安定する前に手足の動きがバラバラになっているから、回転したら手はつま先を掴んでみろ」


 部長からのアドバイス。言われた通りにやってみるとさっきよりも周っている。

「あとは慣れだ。しばらくはヘッドスピンの練習を多めにやっておくように」


 翌日もヘッドスピンの練習。部長からのアドバイスのおかげで結構周れるようになってきた。

 技の繋ぎとしてヘッドスピンから倒立状態で両手を重ね周る2000(ツーサウザンド)にいけたらかっこいいらしい。


 俺にはまだそこまでの技量はないのでとにかく周る。一時間ぐらいたったところで自分が安定して周っていることに気づく。そこで腰をひねりながら足を高く上げると回転がスピードを上げてバランスが取れなくなり落ちた。


 今うまく周れた気がする。もう一度だ。

 もう一度三点倒立から周ってみる。回転速度が上がっていく手を離しバランスを取る。

 ちゃんと周れてる。なんか楽しい。


 周れていることを実感したので、足を前後に開いたり、手を広げてヘリコプターのようにやってるがバランスを崩し倒れる。まだ早かったか。周れるようになっただけでもよしとしよう。周ってるときのコツを掴めば案外簡単なのかもしれない。


 部長に見てもらったところ、バランスが崩れら、そこからウィンドミルやAトラックス(ウィンドミルとヘッドスピンの中間のような技)に繋げたらいいみたいだ。その後も部長に見てもらい、ポーズを取る時のコツを教えてもらった。


「ヘッドスピンはもう大丈夫だな。練習は続けるように。では次はアクロバットをできるようにしてほしいのだがバク転はできるか?」


 九月の大会では多彩なアクロバットをルーティンに加えたいそうだ。バク転バク宙は昔からできることを伝える。これらは恐怖心さえ捨てれば特に苦労することなくできるようになる。


「ちょっとマットを準備するから見せてくれ」


 マットを準備する先輩方。ちなみに二年の先輩方はアクロバットが苦手らしくできなくはないがあんまりやりたくないそうだ。


 準備ができ俺はマットの上でバク転バク宙をやってみせる。体操選手みたいに高さを出し、両手両足を伸ばした状態で空中を周ることもできる。


「大丈夫そうだな。ではバッファローを教える」


 バッファローは片足で踏み切り、斜め後ろに宙返りする技。バク宙と違って斜め回転が加わるので着地後すぐ次の動きが取りやすい。


 まずは部長がお手本を見せる。バク宙よりも簡単でバク宙ができればすぐできるそうだ。バク宙ができなくてもできる人が多いそうだ。


 部長からやり方の指示を受け、マットから少し離れて助走をつける。左足で踏み切り、右足を大きく上に振りながら飛ぶ。空中で回転して着地……に失敗。周りすぎたようだ。背中から落ちる。マットじゃなかったら怪我してたかも。しかしバク宙ができるから感覚はすぐ掴めた。


 もう一度挑戦。さっきは高さと勢いが出すぎたので少し調整するが今度は勢いが弱く着地した時に前に倒れてしまう。これ次でできるな。そう感じ三度目の挑戦。今度はしっかり着地に成功した。最近はヘッドスピンで周ってばかりだったので、最初と比べるとあまり目が回らなくなってきた。慣れってすごいね。


「よし、篠崎は明日からは九月の大会に向けて今できる技のおさらいをするのだ」


 七月の期末テストが終わると夏休み。テスト期間中はテスト前から二週間、もう来週から部活が禁止となる。なので今週の残りは今までの復習ということだろう。


 この二週間は周ってばかりだったので、久しぶりにフットワークをひたすら行う俺だった。

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