第四十話 何も嘘は言ってない
「「ごちそうさまでした」」
結局最後のロールキャベツは俺が食べることになった。花においしく食べていただけたのでそれだけで満足ですと気を遣われてしまった。
食べ終わったので俺は食器を台所に持っていき片付けを始めた。
「遼さん、今回もすいません」
「いや、こっちはごちそうになったんだ。これぐらいでお礼になるとは思ってはいないよ。今日は花も疲れただろ? 休んで大丈夫だよ」
食事中も少し眠そうにしていたので今日は疲れたのであろう。きっと朝早くから出たのだろう。料理を作ってくれるのもわざわざ今日じゃなくてもな。
「疲れているなら寝ても大丈夫だからね」
「いえ、まだお風呂も入っていないので遼さんがいる間は起きています」
そう言われるとすぐに帰らないと花が休めないな。もう少しで洗い物も終わるし俺は帰るかな。
夕飯をごちそうになっただけで特に話もあまりできなかったが今日は仕方がない。それに首に塗っているファンデーションに感づかれる前に撤退しなければ。
「洗い物終わったよ」
「ありがとうございます。もう少しだけお話しませんか?」
「疲れているんだから休んだほうがいいんじゃない?」
「いえ、明日から一週間は遊べなくなるので今日は頑張ります」
花がわがままを言うなんて珍しいな。すぐに寝そうだし今日は付き合ってあげるか。
俺はさっきまで座っていた位置に戻り腰を下ろす。花が眠そうながらもニコニコしていてなんだかかわいい。こっちも笑顔になってくる。花の笑顔にはきっとそういった力があるのだろう。
「遼さん、さっきから気になっていたのですが首、どうかされたのですか?」
え? 気づいていたの? ちょっとまずいでしょ。なんとかして逃げ切らなければ。
「あーこれね。ちょっと痣が目立ったから藍にファンデーションで隠してもらったんだ。化粧ってすごいね」
苦し紛れだが痣を隠しているのは嘘じゃない。これで納得してくれるといいのだが。突っ込んだことは聞かないでほしい。
「怪我でもされたのですか?」
「い、いやー、今日起きたら痣が付いてたみたいだからなー……」
何も嘘は言ってない。嘘はつくのは嫌いだ。でもこれ以上は墓穴を掘りそうなので聞かないでお願いします。
「そうですか。ちなみに昨日は桜とお祭りに行ったのですか?」
あ、なんかまずい。ニコニコしている花が怖い。知ってて聞いているよね。もう正直に話すしかないのかな。いや、もう少し粘れるところまでは頑張ってみてからだな。
「そうだね。桜と約束していたからね」
「浴衣の桜かわいかったですか?」
「花、どこまで知っているんだ?」
昨日桜とお祭りに行くことは花には話していな。いや、もしかすると花も来ててたまたま俺達を見たの
かもしれない。
「桜から浴衣姿の写真付きメッセージが届きました。私は昨日別の用事があったのでお祭りには行けませんでしたので」
「へ、へぇーそうだったんだ」
「それで、桜の浴衣姿はいかがでしたか?」
「……かわいかったです」
もう逃げ切れない。俺は冷や汗ダラダラで水揚げされた魚のように口をパクパクしている。またヤンデレ化して走って逃げようとしたら後ろから刺されるに違いないぞ。
「いいですね、浴衣。私も着てみたかったです」
とりあえず会話を続けるしかないみたいだ。地雷を踏まないように慎重に言葉を選ばなければな。とりあえずキスマークから話をそらさなければ。
「花火大会の時着ればよかったんじゃないか?」
「イギリスの生活が長かったのでその考えに至らなかったのです」
「機会があれば花の浴衣も見たかったよ。そうだ、夏休み明けたら学園祭の準備が始まるから浴衣を着るような出し物をやればいいんじゃないか?」
話を違う方向に持っていけばきっと花も桜の話を忘れてくれるだろう。むしろ忘れてください。花のヤンデレ化は俺の人生に関わります。頑張って食い止めないと。
「それはいいアイディアですね。学園祭が楽しみです♪」
「そうだね。屋台とかでもいいし浴衣喫茶ってのもありかもしれないね」
「メイド喫茶ではなく浴衣喫茶ですか?」
花のメイド服と浴衣姿どっちがみたいと言われたら迷わずメイド服だ。だが今は浴衣を見たいって話をしているのであえて浴衣のほうに誘導する。
「遼さんはメイド服と浴衣どちらが好みですか?」
「もちろんメイド服です!」
あ、またやっちまった。うん、仕方ないよね。だって巨乳のメイドさんなんて最高じゃん? 巨乳のメイドさんにご奉仕されるなんて男のロマンだよね。ご主人様アーンをヨーグルトでやって胸元にこぼれてしまったらそれだけで抜けるよね! エロエロだよね! 他にも……
「遼さんどうかされましたか?」
おっと、妄想の世界にトリップしていたようだ。顔がだらしなくなっていたに違いない。少し顔を叩いて引き締める。
「大丈夫だよ。少し花のメイド服姿を想像していたんだ」
「あの、実はメイド服あるのですが……着てみますか?」
「お願いします! あ、いや、今日は花も疲れているからやめておこう。今度料理をごちそうになる時にお願いするよ」
正直今すぐにでも見たいけどさすがに疲れている子にご奉仕されたいと思うほど変態ではない。そう変態ではないんだよ。というかなんで花はメイド服を持っているんだ?
「それでしたら夏休みの最終日なんてどうですか? 課題も終わっていますし別のご予定がなければいいのですが」
「大丈夫だよ。それなら最終日よりもその前の日にして一成達も誘ってみんなでパーティみたいにやらないか? それならみんなでお泊りもできるじゃない?」
海以来みんなで集まることがなかったので最終日ぐらいはみんなで楽しく騒ぎたい。楽しい夏休みを締めくくるのにはいい提案だと思う。
「いいですね。それでしたらこの部屋では狭いのではないですか?」
「うちでやろうか。キッチンも広いしそのほうがたくさん料理を作れるしね。
「わかりました。早速詩織さんと桜に連絡します」
花はスマホを操作して二人にメッセージを送る。俺も一成と平にメッセージを送る為にスマホを取り出してトークアプリを起動する。藍と姉さんは帰ったら伝えよう。
「詩織さんと桜は来れるそうです」
あの二人は返信が早いな。さすがは女の子。詩織ちゃんがOKなら一成も大丈夫だろう。平も俺からの呼び出しに来なかったことはないからたぶん大丈夫だ。
「当日は何を作りましょう?」
数がいるから定番はカレーか鍋かな。いろんな料理を作ってオードブルみたいにするのも悪くないな。これは俺の腕の見せ所だな。
「時間はまだあるからみんなで決めようか。花は何か食べたいものはある?」
「いえ、私は何でも大丈夫ですのでみなさんが食べたいのに合わせますよ」
花のいいところであり、これは悪いところでもあるな。気を遣っているのだろうが、自分の意見を殺している可能性がある。そういうのはみんなで楽しむ場としてはふさわしくない対応だな。ここは少しおせっかいでもするか。
「わかった。俺はみんなが食べたいものを全部提供したいから当日はオードブル形式にしよう。花も自分が食べたいのを決めてくるんだよ」
花は目を大きく開き驚いたような顔をみせたが、すぐに微笑みを返してくれた。
「やっぱり遼さんは優しいですね」
「そんなことはないぞ。じゃあ細かい内容をみんなで話し合ってパーティを楽しめるようにしないとね。じゃあそろそろ帰るね」
花もウトウトして限界が近そうだったので腰を上げ玄関に向かう。花も立ち上がり俺の後ろを付いてくる。無視しないで眠っていいのに、律儀な子だな。
「今日はありがとうございました」
「お礼を言うのは俺のほうだよ。ごちそうさまでした。おいしかったです」
「はい。ではまた何かありましたら連絡しますね」
玄関で花に見送られて俺は帰り道を歩く。花が住んでいるアパートが見えなくなってきたところで立ち止まり、崩れ落ちるように地面に膝をつけた。
危なかった。冷や汗が止まらないよ。うまく話を誘導できたけど花の質問に答えるだけだったら間違いなく今俺はここにいない。少し話術のレベルが上がったかな。でも油断はできないな。今後もこういったことは何度もあるはずだ。
立ち上がり再び歩き出すのだが、冷や汗が止まることはない。切り替えて楽しくなるであろうパーティのことを考えないと。何もトラブルなく楽しく夏休みが終わるといいな。




