第四話 デートに誘う
季節は六月。この地方も梅雨に入り、最近では雨が多くなってきた。
ここの梅雨はいつもきつい。大雨ってか台風じゃないかってぐらい雨が降る。傘があまり役に立たない。
台風はもっとヤバイ。木は折れ、道路では停電の影響で信号は消え、雨風がとんでもなく強い。
俺は毎年この時期が嫌いだ。そもそもで、雨が嫌いなんだ。そんなのが毎日なのだ。憂鬱な気分になる。
「はぁ~、だるい」
休み時間そんなことを口に出し、ボーっとする俺。クラスのみんなは次の授業の準備をしている。平はいない。たぶんトイレだ。瀬戸内さんはさっき先生に呼ばれてたから授業の準備の手伝いだろう。
他に友達がいないのかって? もちろんいるさ。でも、この二人と話すことが多いんだ。
「篠崎君、ちょっといいかい?」
突然前の席のやつが話しかけてきた。なんだかパッとしない見た目のやつで、名前は……忘れた。話が合わないというか、なんか異世界の人と話している気分になるんだ。
「篠崎君、瀬戸内さんと仲がいいけど二人は付き合っているかい?」
はぁ? こいついきなり話してきたと思ったら何言っているんだ?
一成と詩織ちゃんみたいにラブ空間を作り出すようなは見ただけで付き合っているってのがわかる。あいつら周りが見えなくなるからな。
瀬戸内さんはかわいいし、俺に脈があるのかな?とか思ったりはするが俺達が一成達のような雰囲気を出しているとは思えない。いちお質問には答えておくか。
「いや、付き合ってないよ。よく話をするだけだよ」
俺の思っていることは告げず、ありのままを答えた。変な勘ぐりされても嫌だしね。
「でゅふ、そうですか。そうですか。お似合いだと思うんですがね」
そう言って前を向き直した。一体なんだったんだ?
お似合いか。確かに瀬戸内さんのような子が彼女だと誇らしい。かわいいしスタイルいいし、清楚系のお姉さんって感じかな。あとおっぱいが大きい。
かわいいと言えば中田さんもかわいい。こっちはかわいいしかわいらしい。守ってあげたくなるタイプだね。でも、中田さんとは一度会っただけでそれ以降はメッセージのやりとりしかしていない。
タイプの違う二人の女の子……
「昼飯の時にでも一成に相談してみるか」
―――――――――――――――――――――
昼休み、一成、詩織ちゃんと食堂に来ていた。
親子丼を食べる俺と詩織ちゃんの手作り弁当を食べる二人。手作り弁当……なんていい響きなのだ。うらやましい。
「で、今日はどうした?」
妬ましい目で二人を見ていると一成が聞いてきた。
「この前話した子のことなんだけど……」
「えっ何その話? おもしろそー!詳しく!」
やっぱり女の子ってこういう話好きなんだ。すげー勢いで食いついてきた。教室で考えていた事を二人に話す。詩織ちゃんの目がキラキラしてる。
「で、お前はその子達のこと好きなの?」
ストレートに聞いてくるな。そういうのがわからないから相談しているんだ。
「好きって感情がわからないんだ。二人ともかわいいし、話して楽しいし付き合えたらいいなーとか考えたりするけど……」
今まで恋愛に無縁だった俺がそういった感情に疎いことは一成も知っているはず。そこは経験者としての意見を聞きたかったのだが、一成は黙り込んだまま。
「それなら一度二人とデートしてみたらいいよ!」
詩織ちゃんからの援護射撃。まさかそう来るとは……
「デートしてみたら見えていなかった相手の部分が見えてきて考えが変わるかもよ!」
なるほど。今日の詩織ちゃんはまともな事を言っている。いや、いつもまともな事を言っているのか。
デートか。女の子と二人で遊びに行ったことがないから緊張するかも。
しかし他の選択肢がない以上これを選ぶしかない。
「わかった。デートしてみよう」
「お!いいぞー。頑張れ男の子!」
そう決めたからには行動しないとな、しかし問題がある。
「なあ、一成」
「何だ?」
これが第一関門なのだ。絶対に失敗できないから助言を求める。
「どうやってデートに誘えばいいんだ?」
―――――――――――――――――――――
教室に戻り午後の授業を受ける。社会科の先生は定年間近のおじいちゃんで授業が子守唄とかお経のように感じる。
これを乗り切れば部活だ。討論会後の俺の成長は目覚しく、まだ二週間しかたっていないもののウィンドミルとトーマスフレアをすでにマスターしていた。これには先輩達も驚く。俺ってもしかして才能あるのかな?
だが、部活前にやるべきことがある。最大のミッションだ。
授業が終わり放課後、クラスのみんなは部活に行く者、帰宅する者で人が散っていく。
俺は後ろの席の瀬戸内さんが先生に呼ばれて職員室に向かったのでその帰りを待つ。大丈夫かな?断られたらどうしよう?
そんなことを考えていると瀬戸内さんが戻ってきた。
「篠崎さん、まだ残っていたのですか?」
「あ、あのーえーっと」
挙動不審な動きをする俺に瀬戸内さんは頭にハテナを浮かべたような顔をする。
「瀬戸内さんっ!」
「は、はいっ!」
やべっ。緊張しすぎてでかい声になってしまった。しかも裏返ったし。あ~恥ずかしい。気を取り直して。
「あの瀬戸内さん、次の土曜日何かご予定ございますでしょうか?」
敬語になってるし! リラックス、リラックス。いつも通りに。
こんな時はふにゃ~を……いや、瀬戸内さんの目の前であんなだらしない顔はできない。
「土曜日ですか? 午前中は部屋の掃除をする予定なので、午後からですと空いてますよ」
とりあえずは空いてたか。まあ空いてなかったら日曜日にするつもりだったんだけど。
「午後は空いてるんだ。よかった。なら、俺とデートしない?」
ぽかーんとする瀬戸内さん。
やっちまった。"遊びに行かない"のつもりが"デートしない"になってしまった。意識しすぎだろ。
これは断られても仕方が無い。次の機会はいつになるかなぁ……
「デート、ですか。篠崎さんと」
あぁもうダメだ。絶対変なやつと思われた。瀬戸内さんの顔真っ赤だし俯いちゃったし。怒らせたかな。次の機会なんてもう来ないかも。
「いいですよ。デート、しましょ」
そうですよね。ダメですよね。……えっマジ?
「ではまた明日! 詳細はメッセージでお願いします!」
かばんを取り全力ダッシュで教室から出て行く瀬戸内さん。
あれ? 第一関門突破? 誘えちゃったよ、デート。もうダメかと思ったけど。
気の抜けた状態でかばんを持ち部活へ向かう。デート、デート、かわいい瀬戸内さんとデート。じわじわと沸きあげてくる何か。これはきっと感情は高揚感なのだろう。
「うおぉぉぉぉぉ! テンション上がってきたーーーーー!!!」
廊下で叫びながらガッツポーズを決める。
何しようかな、どこ行こうかな~。あ、昼飯は手作り弁当だといいなぁ。
その日の部活はいつもの二倍増しのスピードでウィンドミルを回っていたのであった。
―――――――――――――――――――――
帰宅後、俺は中田さんにメッセージを送ろうとして頭を抱えていた。
「瀬戸内さんとデートした後で違う女の子とデートする俺ってチャラい気がするぞ」
二人とデートしてみると決めたものの、なんだか二人をたぶらかしているみたいな気になって悪い気がする。
また一成に相談しようかな? でも頼ってばかりも悪いし、これ以上は自分でなんとかしよう。
そう、決めたからには行動せねば。有限実行! 男なら言い出したからにはやらなければ!スマホを手にし、トークアプリを起動。さて、なんて送ろうか……
『夜分遅くに申し訳ございません。拝啓中田桜殿。
本日は予定のご確認をさせて頂きたく、メッセージを送らせて頂きます。
来る次の日曜日なのですが、ご予定はございますでしょうか?
お忙しいとは思いますが、ご予定を確認の上、返信お待ちしております』
……うん。固いな。社会人が取引先とのやり取りのようだ。削除。
『やー元気かい?かわいい子ちゃん。今度の日曜空いてるかい?
返事待ってるよー♪』
チャラ男か! 削除。
『久しぶり。今度の日曜日なんだけど空いてるかな?
べっ別に空いてても返信しなくていいんだからね!』
男のツンデレなんて誰得だよ。削除。
『今度の日曜日空いてる?』
もうこれでいいや。送信。
メッセージ送るのってこんな疲れたか?あ、返信来た。
『空いてるよー。どうしたの?』
空いているか。よし、次だ。
『映画のチケットが余っているんだ。
よかったら一緒に見に行かない?』
もちろん余ってなどいません。これは作戦。さっきは失敗したので違うやり方で攻めてみようと思ったのだ。あ、返信だ。
『行く行く! ちょうど見たい映画があったの!
誘ってくれてありがとう!楽しみだなぁ♪』
あっさりOK出ました。明日チケット買いに行かねば。この後は軽く当日の打ち合わせをして、やり取りは終了となった。
これで次の土日は女の子とデートすることになった。初めてのデート。わくわくするなぁ。
あとは当日雨が降らないことを祈るしかない。梅雨だし天気が崩れる可能性のほうが高いが、その時は屋内で遊べる所もチェックしておこう。
何か忘れてる気がするけど……まぁいいや。
そう言えば服ってどうしたらいいのかな? 姉さんに聞いてみよう。そういうの詳しいし。
その後姉さんの部屋に行きデートに着ていく服の助言をもらおうと思ったのだが、舌打ちされて部屋を追い出され、妹にデートの事がばれて、とんでもなく拗ねたのであやすのに苦労した。
―――――――――――――――――――――
翌日、なんだか瀬戸内さんの機嫌が悪い気がする。
挨拶してもそっぽ向くし、目を合わせようとしないし、話しかけようとすると逃げるし。やっぱり昨日のこと怒っているのかな?
いやでもデートのお誘いはOKもらえたんだ。しかし、心あたりがない。
昼休み、今日は平と食堂に来ている。今日は俺がローストビーフ丼、平が魚介つけ麺だ。
「瀬戸内さん、なんか今日機嫌悪くない?」
朝から疑問に思っていたことを平に聞いてみる。
「別にいつも通りだぞ」
「でも挨拶も無視されたし、目を合わせてくれないし……」
「お前瀬戸内さんに何かしたのか?」
図星を突かれた。しかしポーカーフェイスでやり過ごさなければ。
「別に何もないよ」
こいつは馬鹿だから気づいていないはずだ。うん、きっと大丈夫。
「それより、俺の部活の事を聞いてくれ!」
なにやら農業部で進展があったみたいだ。
だがそれどころではない。平がなにやら話しているがそんなことより瀬戸内さんだ。昨日の事を思い返す。
瀬戸内さんに土曜日の予定を聞いて
デートに誘って
OKをもらった
その後瀬戸内さんはダッシュで教室から出て行ったが、
『ではまた明日! 詳細はメッセージでお願いします!』
あ、もしかして……瀬戸内さん昨日俺からのメッセージを待っていたとか?だとしたらまずいぞ。昨日は中田さんに送るメッセージと格闘してたから完全に忘れてた。
教室に戻ったら謝ろう。でも顔も合わせてくれないし、どうしたもんか。
平がまだ何か話している。仕方ない。こいつに協力してもらおう。
「おい、平。ちょっといいかな?」
クラスで頼れるのはこいつぐらいだ。俺は昨日のことと瀬戸内さんの機嫌が悪いと思われる理由を話した。何も知らずに協力させるってのも悪いしね。
「そんなことがあったのか。OK。放課後になったら瀬戸内さんを引き止めておくからお前はちゃんと話してきな」
「ありがとう、平。恩に着るよ」
事がうまくいったら、今度学食おごってあげよう。
「ま、俺から見てもお前と瀬戸内さんはお似合いだと思うしな、そこんとこは協力しようではないか!」
そんなことを言いつつ俺達は教室に戻るのであった。
―――――――――――――――――――――
放課後、平は瀬戸内さんの帰宅を引き止めてくれていた。
俺は一度内容を整理し気を落ち着かせるためにトイレに来ていた。
誠意をもって謝れば大丈夫だよね。でも忘れてたって言ったら余計怒りそうな気が・・・
あまり好ましくは無いが、ここは嘘を頼ってしまおう。
そう思い俺は教室に戻る。教室に入ると瀬戸内さんと平しかいない。俺に気がついた平が気を利かして出て行く。平、ありがとう。
ここからだ。まずはちゃんと謝ろう。
俺に気がついた瀬戸内さんが顔をそらしてかばんを持ち教室から出ようとするが、ここで帰すわけにはいかない。
「待って瀬戸内さん!」
俺は彼女の手を掴み帰宅を阻止する。まずはきちんと謝罪の言葉かな。
「昨日はごめん! 瀬戸内さんがメッセージを送ってって言ったのに送れなくてごめん!」
瀬戸内さんの体がピクっと反応して、力が抜ける。原因はこれであってそうだな。もう手を離しても逃げないだろう。
「理由を、聞かせてもらってもいいですか?」
ちゃんと言い訳は聞いてくれるみたいだ。正直な話をすると絶対怒る。違う女の子とメッセージのやり取りをやってて忘れたなんて言ったら俺のバラ色高校生活はそこで終わってしまう。
「実は昨日、デートのお誘いにOKを頂いた後舞い上がりすぎて、土曜日が楽しみすぎてどこに行くかを決めるために雑誌やネットを使って調べてたんだけど決めきれなくて……」
舞い上がってたのと楽しみなのは本当、調べ物は嘘。嘘つくことはよくない。でも関係を良好に保つためには必要だ。嘘も方便なんて言葉があるぐらいだしね。
「舞い上がって……?楽しみ……?」
瀬戸内さんが何か呟いている。
ダメだったか?こうなったら謝罪の最終奥義を使うしかないのか!?
「篠崎さん、私昨日どれほど楽しみに待ったと思っているんですか? そのおかげて今日は寝不足なんですよ。朝起きてもメッセージ着てないし」
「はい、すいません」
かなり悪い事してしまったな。でも瀬戸内さん楽しみにしてたんだ。
「でも……許してあげます」
ホント? よかった。なんとか許してもらえた。これをきっかけにちゃんと約束は守らないとね。次回からは許してもらえないかも。
「篠崎さん、あのー、うーんと……。私も楽しみにしているので土曜日はちゃんとエスコートしてくださいね。期待しています♪」
最高のスマイルでそう告げて去って行く瀬戸内さん。そんな笑顔に見とれて立ち尽くす俺。
その笑顔は反則なんだって。こっちまで顔が赤くなりそうだ。
まあ機嫌も良くなったみたいだし、しっかりエスコートできるように嘘を現実にしなければならない。帰ったらデートスポットのチェックだな。
その後俺は、映画のチケットを購入し帰宅。夕飯を食べた後、瀬戸内さんに土曜日に待ち合わせする時間と場所をメッセージで伝え、デートコースの作戦を練り始めた。
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