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第三話 ブレイクダンス踊ってみた

 月曜日、今日からダンス部の練習に参加することになっている俺は、いつもの学生バックと動きやすいジャージを持って登校する。

 

教室に入り席に着くと、瀬戸内さんが教室に入ってきた。今日もかわええですな。


「おはよう、瀬戸内さん」


「篠崎さん、おはようございます」


 いつも通り挨拶を交わし、俺の後ろの席に着く瀬戸内さん。


「篠崎さん、今日体育の授業はないですよね?」


 ジャージが入った袋を見て瀬戸内さんが問いかける。

 指を口元に当てて首をかしげるポーズ、いただきました。


「あーこれ? 今日から部活の練習に参加するからそのジャージだよ」


「部活、ですか。篠崎さんはどこの部活に入られたのですか?」


 そういえば一成と詩織ちゃん以外には話していなかったっけ?

 クラスのみんなに伝えるの忘れてたかも。後で平にも話そう。


「ダンス部に入ることにしたよ」


「ダ、ダンス部ですか!?」


 俺が理由を話す前に瀬戸内さんが食いついてきた。かなり前のめりで。瀬戸内さんも部活勧誘のステージ見ていたのかな?


「ちなみに篠崎さんはどのジャンルを!?」


 瀬戸内さんが興奮気味に聞いてくる。ダンス好きなのかな。


「俺はブレイキンをやることにしたんだ。あの動きがかっこよくて俺もやってみたいと思ったんだよ」


「ブレイキンですか! 世界でのダンス人口で一番多いジャンルですね。ブレイキンってパワームーバーの技が目立ってみなさんそこに注目しますが、私は音に合わせた軽快なフットワークが主体のスタイラーが好きなんです!」


 瀬戸内さんが熱く語ってる。こんな興奮して早口で話す彼女は始めてみるな。おっとりしている彼女からすると予想していなかった反応が新鮮だ。


「瀬戸内さん、ブレイキン好きなんだね。」


「私個人的には体が不思議な動きをするポッピンが好きなのですが、もちろんブレイキン、ロッキン、ヒップホップ、ハウスも好きです」


 瀬戸内さん詳しいな。帰ったら俺も調べてみよう。


 その後も瀬戸内さんの熱弁は続いた。こんな瀬戸内さんもかわいいな。


「ハウスというのはですね、……あっ! すいません、篠崎さん! 私ばっかりしゃべってて!」


「別に気にしないで。瀬戸内さんすごい詳しいんだね。意外だったよ」


「うぅー、なんだか恥ずかしいです。私熱くなると止まらなくなるんです」


 顔を赤くしてうつむく瀬戸内さん。そんな彼女を見て俺の顔はにやけているのであった。


 瀬戸内さんが落ち着いたみたいなので、俺は瀬戸内さんを勧誘してみることにした。


「瀬戸内さんも一緒にダンス部入らない。こんなに好きなんだし」


 すると彼女は少し困った顔をした。なんかまずいこと言っちゃったかな。


「えーっと、ダンス部はちょっと……私運動苦手なんですよね。あはは……」


 顔をそらして答える瀬戸内さん。


 なんだそういうことか。人には得手不得手あるしね。あまりしつこくして嫌われるのも嫌だし勧誘は諦めるか。


「それなら仕方ないね。瀬戸内さんは何か部活に入るの?」


「私は料理部に入ろうと思っています。一人暮らしなので、料理のレパートリーを増やしたいなと思っているんです」


 へぇー瀬戸内さん一人暮らしなのか。実際この学園の生徒は寮やアパートで一人暮らししている人多いみたいだしね。俺は実家が近いので親の脛をかじらせていただいています。姉もまだ実家にいるので、そろそろうちの親足が無くなっちゃうかもね!


「料理部かぁ~。家庭的だね。瀬戸内さんが作った料理食べてみたいな!」


 冗談っぽく言ってみた。さすがに彼氏でもないし作ってくれないだろ。


「はい!今度よろしければ作って差し上げますね♪」


 いや~やっぱ無理だよな~……え?まじっすか?


 瀬戸内さんが超笑顔でそんなことを。いや、社交辞令だろう。うん、きっとそうだ。あまり期待しないでおこう。


「家に帰っても一人で夕飯を食べるのが結構寂しいので、篠崎さんのご都合がよろしい日にでもうちにいらしてください。あ、連絡先を教えて頂いてもいいでしょうか?」


 ……………

 これって脈ありじゃね? 今すぐにでも行きたいです! とは言えずとりあえず連絡先を交換する。土曜日もそうだったけど、ついに俺のモテ期到来か!? 今度一成に相談しよう。


 ―――――――――――――――――――――


 昼休み、俺は平と食堂に来ていた。今日の昼飯は俺が牛丼、平が豚骨ラーメン。この学園の学食はうまい。さらに寮に住んでいれば無料でそれ寮以外の人でもかなり安い。さらには種類が豊富でいつも迷ってしまう。毎回決めきれずに丼物かラーメンになるんだよね。


「ん?俺は農業部に入るよ」


 昼飯を食べながら平と部活の話をする。この学園は農業部もあるのか……

 てかなんで農業部なんだ?


「ここ最近は農業女子が注目されていて、この学園の農業部も七割は女子生徒だぞ」


「お前まさかそれが目的か?」


「それ以外なにかあるか?」


 思ってても行動できる人ってなかなかいないんだが、こいつは自分の欲望の為なら何でもやっちゃいそうだな。将来が心配だ。


 俺が同じことを考えて農業部に入ることは詩織ちゃんから釘を刺されていることなので、そんなことやったら詩織ちゃんに何されるかわからない。


「ダンス部ってフラダンスか?」


「ブレイクダンスだよ。まあ他のジャンルもあるけど、俺はブレイキンにしたんだ」


「ブレイクダンスか! あれはかっこいいよな!そうかそうか」


 この学園の男はダンス=フラダンスなのか?俺も人のこと言えないが……


「ブレイクダンスかぁ~、ちゃんと踊れたらお前モテそうだな。踊れるのか?」


「いや、今日から練習参加なんだ。未経験だが運動は割と得意だから練習してすぐうまくなってやるよ!」


「頑張れよ。俺も農業女子との学園生活満喫するぜぇー」


 顔がにやけてるぞ平よ。まぁ俺も気持ちはわかるけどな。


 しかし女の子に囲まれる部活なんてうらやましいな、おい!こいつは俺より先に彼女作って、さらに部活では女の子に囲まれる三年間を過ごすんだろうな。今度女の子紹介してもらおう。


 ちょうど二人とも食べ終わったので食堂を後にした。


 ―――――――――――――――――――――


 放課後、俺は教室を出るとすぐに体育館のステージ裏のダンス部部室へと向かった。


 今日から練習!どんなことをやるか楽しみだ!


 部室に到着すると石田先輩が先に来ていた。


「おっ来たか遼! 着替えたらステージな。」


「はい! 今日からよろしくお願いします!」


 挨拶を交わし着替える。途中で他の一年の部員も来た。一年の部員は六人でその内一人は女の子だ。正直あまり好みではないんだよな……。みんなと少し話をした後、みんなでステージに集まった。


 今日は石田先輩が指導してくれるそうだ。優しい人だししっかり教えてくれるだろう。


「よーし、今日は最初だしジャンルに分かれる前に基本を教えよう。まずは柔軟からだ!」


 曰く、体が柔らかいほどいろんな動きができるので、毎日まずは柔軟をやることが必須だそうだ。怪我してもいけないしね。


 みんなで石田先輩の真似をしながら柔軟をやっていく。みんな体硬いな。お、あの女の子めっちゃ柔らかい!どんだけ曲がってんだ!それを見た男連中は負けじと柔軟に励むのであった。


「よし、次はリズムの取り方を説明する」


 そういって石田先輩は曲を流す。


「リズムの取り方だが、俺が手を叩くからそれに合わせて頭を動かしてくれ。まずは、音に慣れることからやっていこう」


 そういって、石田先輩は手を叩く。それに合わせて俺達も動く。


 後で知ったのだが、ブレイクダンスはほとんどの曲が8拍子で1セットになっているそうだ。


 リズムの取り方としては、ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト、ワン、ツー・・・のように8カウント取ったらまた1から取るそうだ。これが繋がって曲になり、その曲に合わせて踊るのが基本らしい。


「リズムが取れるようになったやつは今度膝を使いながら体を落とすようにやってみろ」


 これはダウンというらしい。イメージ的にはワンとツーの間にウンと入れ、ワンで体を落とし、ウンで戻す、ツーでまた体を起こし……のようにテンポが入る所で体を下げるリズムの取り方だそうだ。また、テンポが入る所で体を上げるリズムの取り方はアップという。


 先輩に言われた通りにダウンのリズムを取ってみる。


 ……ちょっと、遅かったかな?今度は早いかな?難しいな。


「みんな固くなりすぎだ。特に遼、さっきはリズムが取れていたがダウンを入れると全然できていないぞ!」


 な、なんですとー!


 みんなとそんな変わらないと思っていたのに俺だけダメだしを受けてしまった。


「そうだな……ちょっと固いからな、みんなふにゃ~ってやってみろ!」


 ふにゃ~? それってどんな感じだろう?


 そう思い石田先輩を見てみると、全身を脱力させ膝が落ち、変な顔になっているではないか! 昔の石田先輩からは想像できない姿だ。


 とりあえず先輩に言われたようにやってみる。六人全員で。これ何も知らない人から見たら危ない薬やってると思われないか!?


「よーし、じゃあそのままさっきのダウンをやってみろ」


 いや、無理でしょ! と思いつつも手を叩く先輩に合わせてリズムを取る。


 ん?なんかさっきよりもうまくいっている気がするぞ。おぉーなんかすげー! 楽しくなってきた! あんなことですぐできるようになるもんなのか? やっぱり先輩すげー!


 後日聞いたのだが、あのふにゃ~はみんながリズムを取ることに必死になりすぎて、固くなっていたからそれをほぐすためにやったそうだ。リラックスって大事なんだね!


「よーし! 今日はここまで! 上がる前に柔軟するぞー」


 終わったー! 途中からはリズムを取るのが楽しくなって、みんなで盛り上がった。なんだか踊っている雰囲気も出てたし、ダンスって楽しい!


「来週までに基本をしっかり叩き込んだあとにそれぞれのジャンルに分かれてもらう。しっかり地盤を固めるために今週はずっとこれの繰り返しだが、みんな頑張れよー」


「「「「「「はい! ありがとうございます!」」」」」」


 何事も基本は大事だしね。勉強もそうだ。四則演算が出来なければ数学もできないし、文字が書けなければ文章も書けない。何をするのもまずは基本をしっかり見に付けなければ何もできない。やるべきことはしっかりやらないとね!


「じゃあ、解散。気をつけて帰れよー」


 そのまま解散となりそのまま帰宅する。俺以外の一年はみんな寮住まいらしく途中で別れる。なんかジャンルもおれだけ一人だし、なんだか寂しいな。


 ―――――――――――――――――――――


 土曜日の休日、俺は一成の部屋に来ていた。今日は詩織ちゃんはいない。男二人だけの話だ。


「ってことがあったんだが、これって脈ありだよな?」


 月曜日の朝に瀬戸内さんとの出来事を相談するためだ。彼女がいるこいつなら女心ってやつがわかるかもしれない。そう思ったのだが……


「最近の女子はみんなそんな感じらしいぞー。詩織はそんなことないが友達がーってよく話しているな」


 漫画を読みながら俺の話を聞いていた一成はそんな無残な事を告げる。


 なん……だと……?


「その子がどんな子は知らんが気をつけろよー。お前ナイーブなんだしさ」


 いやいや待て待て。最近の女の子ってそんな簡単に男を部屋に入れるのか!?変態が入ってもしらないぞ!?ナニが入っても知らないぞ!


 だが、瀬戸内さんは見た目も心も清楚だ。あの子に限ってそんなことは無いはずだ。まさか清楚系ビ○チなのか!?いやしかし……


 考えが堂々巡りでまとまらない。頭を抱えている俺を見て一成はため息をつく。


「別に彼女作るのに焦っても仕方ないだろ。お前実はモテているんだぞ」


「彼女がいるお前になにがわかる! ……ってえ?俺モテているの?」


 ワケガワカラナイヨ。


 彼女なんてできたことないし女の子の友達も数えるぐらいしかいないんだぞ。


「いや、お前顔はいいんだけど、発言とにやけ顔の変態性であまり女の子が寄り付かなかったんだよ。中学の頃なんて女子の間では"残念イケメン"なんて呼ばれていたぞ」


 そうだったのかー! だが変態で何が悪い! 男の性分なのだ! 仕方ない! うん。そうなると俺が変な発言を控えるだけでモテるのか?


「あとは……まぁこれはお前に関係するけどお前自身のことじゃないから伝えても無駄だな」


「ん? なんだそれ?」


 なんだか含みのある言い方だな。俺に関係するけど俺自身のことじゃない?


「いや、このことは気にしないでくれ。まあでも、女の子が言い寄ってきた所でお前何もできないだろ?ヘタレだし」


 その通りでございます。妄想するのは楽しい。だが俺は自分から行動することが出来ないのだ。たぶん言い寄られても動けけなくなる。そう! 俺はヘタレなんです!


「その子がどういうつもりでお前を誘ったは知らないが、あまり期待しすぎるなよ」


 そうだね。社交辞令とか大人数でパーティーをやる感じで誘ったかもしれない。

 脈ありが確定するまではそういうことにしておこう。


「一成、サンキューな。俺、お前がいてよかったよ」


「おう。気にするな」


 いつもそうなんだが、こいつって昔からホント頼りになるよな。昔から感謝してばっかだよ。一緒の学園でよかった。


「それはそうと一成、お前詩織ちゃんとどこまでいったんだ?」


「……教えん」


「なんだそれぇ~。ヤったのか? ヤったのか?」


「……知らん」


 ―――――――――――――――――――――


 一週間ひたすら基本を行い、ついに今日からジャンルごとに練習する日が来た。

 ブレイキンのメンバーは部長と二年の先輩が三人だ。俺を入れて五人のチームになるのか。


「篠崎、今日はアップダウンのリズムを取りながらステップの練習をやるぞ」


 部長自らが教えてくれるとは、これは気合を入れなければ。


 ブレイキンチームのスタイルは部長がスタイラーで二年の先輩方がパワームーバーらしい。部長はスタイラーといってもパワームーブの技も得意らしく、現在のブレイクダンス界でのパワーもスタイルも両方できる流行を取り入れているそうだ。


「今日はサルサロックとブロンクスを教えよう。とりあえず、俺の腰から下の動きを見ててくれ」


 ステップの中でも基本となるのがこのサルサロックとブロンクスだそうだ。


 サルサロックは足を前に蹴り出した後、左右に細かく移動しながら、足を広げてステップを踏む。

 ブロンクスは走っているように見せるステップで、足を一周させて前に足を出すようにステップを踏む。


 これに上半身の動きを付け加えるとかっこよく見えるそうだ。


 他にもツイストなんてものもあるそうだが、この二つができたらできるそうなので、省かれた。


 部長の動きを見た後自分でもやってみるが、うまくいかない。


「難しいな。部長、コツとかってありますか?」


「コツね。相手を威嚇するように自分を大きく見せる感じ、あとは縮こまらずに堂々とする、かな?」


 ストリートダンスの根源が、ストリートの子供達が喧嘩の変わりにダンスで勝負する、というものらしい。うん、なんて平和的なんだろう。


 俺は強いぞ! ってアピールする感じでやってみればいいのかな? 部長の助言をヒントにやってみる。


「ん。さっきよりはよくなっている。動きはそんな感じで今度はそれにアップダウンのテンポと上半身の動きを加えてみよう」


 部長がお手本を見せてくれる。それに合わせて俺もやってみる。


 なんかいろいろ合わさると難しいな。


「うーん篠崎、アップダウンは苦手か?」


「石田先輩にも似たようなこと言われました。まだ固いですか?」


「固いね。もっと自由な動きをするイメージだよ。その前にふにゃ~をやっとけ」


 そう言われてふにゃ~とする俺。一年のみんなが言ってたがこの時の俺の顔は変態そのものになっているらしい。


「じゃあそのままで、また俺に合わせてくれ。」


 変態の顔のままでステップを踏む俺。ちゃんと真面目にやっているよ。


「いい調子いい調子!このまま上半身の動きも入れて!」


 変態の顔のままで先ほどの助言を取り入れてやってみる。これでストリートの子供達とバトルしたらそのままボコられそうだ。


「OK!まあ最初はこんなもんだろ。ステップができるようになったらいろんな技を教えるからな。まずはステップを極めるんだ」


「ありがとうございます!」


 ふにゃ~をしないでもきれいにステップを踏めるように練習しなきゃ。運動神経には自信があったが結構難しいな。ステップでこれだと技はもっと難しいよね。頑張らなきゃ!


「あ、篠崎。言い忘れていたが、来月末の学園討論会の審査待ち時間で学園のみんなの前で踊るからそれまでに技を最低3つはできるようにな」


 ……………

 まじっすか!あと一ヵ月半しかないよ。ちゃんとやれるかな俺……


 ―――――――――――――――――――――


 五月に入り、ゴールデンウィークも明け、俺はひたすら練習を続けてた。

 ステップはかなり上達したおかげで、今はフットワークを教わっている。


 フットワークとは、床に手をつけて体を軸にし足で回る技である。

 教わっているのはフットワークの基本の6シックスステップ、4スクランブル、2ベビースワイプスだ。


 6シックスステップは、その名の通りステップを踏む回数が六回であり、下半身が円を描くようにステップを踏むという基本技。


 4スクランブルは、手を地面に付けた状態で、足をクロスしながら円を描くように動く技。


 2ベビースワイプスは、体が180度回転するように移動する動きの技である。

 間の数字が抜けているのはとりあえず、この三つができればすぐできるようになるとのことなので省かれた。この三つに、足を前に出してリズムを取るキックアウト等を加えるといいらしい。


「篠崎、また体の軸がぶれているぞ」


「はい!」


「今度はスピードが落ちている。安定させるのに意識しすぎだ」


「はい!」


 三日前からフットワークを教わっているが、なかなか安定しない。それに加えて今日からはルーティン(振り付け)の練習が始まった。


 あまり時間が残されていないが、みんなに迷惑をかけないように早く上達しなきゃ。


 ルーティンでは、まずはエントリー(ステップ等を入れた立ち踊り)、そこから各個人の技を入れて、またエントリー、技の繰り返しとなっていた。


 エントリーは全員で行うらしく、もちろん俺はそこに加わる。途中には俺がフットワークをやる部分もあるのだが、ここは一人ではなく部長とやることになった。


「フットワークで軸をぶれないようにするにはどうしたらいいかな?」


 一人でフットワークを練習しているが、やはりぶれてしまう。逆立ちは出来るしバランス感覚はいいほうだと思うのだが、あまり関係ないのかな?

 いろいろ、考えながらやってみるもうまくいかない。さて、どうしたもんか。


「遼、うまくいかなくて悩んでいるのか?」


 気がつくと後ろに石田先輩が立っていた。


「あ、先輩。実はフットワークでどうしても軸がぶれてしまうんですよ」


「なるほどね。ちょっと見せてくれるか?」


 そう言われ、石田先輩に見せてみる。やはり軸がぶれてしまう。


「遼、手の位置がだんだんずれてきてるぞ。手の位置は最初置いた場所から動かさないようにやってみな」


 言われた通りにやってみる。手の位置を意識しながらフットワークをやったところ軸がぶれなかった。


「先輩ありがとうございます! うまくいきました!」


「足と体の動きしか教わってなかったみたいだな。軸がぶれるときは大体手の位置が原因の時が多いからそこを意識すれば自然と直るよ」


 流石頼れる先輩。悩んでる時のいいタイミングだった。あとはルーティンを覚えてみんなで合わせたら完成だ!


「じゃ、そっちもルーティン頑張れよ。みんなの動きに合わせるのも大事だが、堂々と自然に楽しく踊ってれば大丈夫だ」


 そう言って石田先輩は戻っていった。


 ―――――――――――――――――――――


 ルーティンも完璧に覚え、フットワークもうまく出来るようになり、ついに学園討論会の前日を迎えた。


 今回は大会じゃないので、明日はみんな楽しく踊るようにと部長から挨拶があり解散となった。


 夕飯後、俺は自分の部屋で明日の内容の復習をしていた。


 体が音を覚えている。大丈夫だ。でも大勢の前で踊るのがこれが初めてだし緊張するな。

 

そんなことを考えているとスマホの着信音がなった。瀬戸内さんからのメッセージだ。どうしたのだろう。


『夜分遅くにすいません。篠崎さん、明日のダンス頑張ってください。

 かっこいい姿が見れるのを楽しみにしています』


 俺明日頑張っちゃうよ。かっこいいとこ見せちゃうよ。今からテンションが上がってきた! 明日が楽しみだ!


 そういえば中田さんも俺が踊っているところ見たいって言ってたし連絡しとくか。


 瀬戸内さんにお礼を返信し、中田さんにメッセージを送る。すると、すぐ返事が返ってきた。あの子の返信スピード速いよね。


『私も見たかったー!私も同じとこに通いたかったよ。

 そっちの学園に侵入して見にいこうかな(笑)』


 侵入はやめてください。大問題になってしまいます。

 まあ冗談だろうし、とりあえず返信っと。


 さて寝るか。いい気分のまま寝よう。と思ってたら着信音。

 中田さんからだ。ホント速いな。


『ホントに見たかったもん!でも次の大会まで我慢する。

 頑張ってね!こっちから応援してるよ!』


 次の大会か。確か九月だったよな。それまでに今以上に上達しなきゃ!

 俺は中田さんにお礼を返信し、眠りに着いた。


 ―――――――――――――――――――――


 学園討論会当日、体育館には教師・生徒全員が集まってた。


 やっぱ人多いな。昨日、瀬戸内さんと中田さんから励まされたのにまた緊張してきた。


 討論会が行われている中、この後みんなの前で踊るのかと考えていたので、討論会の内容が全然入ってこなかった。「自然が~」とか「戦争は~」とか聞こえたがそれどころじゃない。


「そろそろ準備しなきゃな」


 最後の討論の番になり、俺はステージ裏の部室へと向かった。


 部室に着くと他の一年メンバーが揃っていた。やはりみんな緊張しているようで、顔がこわばっている。


 踊る順番は、ロッキン、ポッピン、ブレイキンの順番だ。最初じゃなくてよかったー。


 準備ができ、全員が集まる。部長から、一年にとって人前で踊るのは初めてなので失敗してもいいから楽しく踊って来いと告げられ、一年メンバーは少し緊張がほぐれたようだ。でも俺だけはまだ緊張していた。失敗したらみんなに笑われないか、メンバーに迷惑をかけないか等不安な気持ちでいっぱいだ。


「それではダンス部のみなさん、お願いします」


 いよいよ始まった! 始まってしまった! ヤバイヤバイヤバイ!


 ロッキンチームのダンスが始まった。一年の二人は楽しそうに踊っている。緊張していないのか?


「篠崎、まだ緊張しているか?」


 心配になったのか部長が声を掛けてくる。


「はい……あんな大勢の前だと緊張します」


「そうだよな。ちなみに大会はこんなに人がいないから、ここで自分を出せたら大会でも大丈夫だ」


 そんなこと言われても緊張はほぐれないですよ。なんだか逃げたくなってきた。


「……篠崎。ロッキンチームが終わってポッピンチームが始まったらその間お前ずっとふにゃ~をやっとくんだ」


 部長がそう言ってすぐ、ロッキンチームは舞台裏に下がってきた。


 緊張をほぐす為だし、やらないよりはましかな。そう思い俺は全身を脱力させ、だらしない顔をした。


 ポッピンチームの一年がどんな様子かわからない。ちょっと覗こうかなと思い顔を下げると、俺の目に映ったのは部長のとんでもなくだらしない顔だった。てか部長白目向いてません?


「ぶっははっはははははははははっははっははっは!」


 俺は笑った。めちゃくちゃ笑った。今まで一番笑ったんじゃないか?


 そこにいたみんなが驚き俺を見た後、部長に目を移すとみんな笑い出した。


 部長のその姿を見るのはみんな始めてだったらしい。

 このふにゃ~を取り入れたのは石田先輩のようで、緊張をほぐすために取り入れられたのが去年。三年生は場数慣れしてる為これをやることを見たことないそうだ。


「む、これで緊張はほぐれたか?」


 部長は笑顔で俺に語りかける。無愛想だけどこの人も面倒見がよくいい人なのだ。


「はい! ありがとうございます。これで楽しく踊れそうです!」


「そうか。そろそろ始まるぞ」


 ポッピンチームが舞台裏に下がってきたので、入替代わりで俺達ブレイキンチームが舞台へと出る。

 舞台から見るとやっぱり人が多い。でもさっきので緊張はほぐれた。もう何も怖くない!


 曲が始まる。みんなが馴染みやすいようにと使われている曲は、日本ヒップホップグループの曲だ。五人が揃ってステップを踏む。周りから見ると五人とも動きが揃っていてきれいにかっこよく見えるだろう。


 そして、二年の先輩がパワームーブの技を繰り出す。足を大きく広げ背中と方で回るウィンドミル、体操の技でよく見る手をついて足をつけずに足を大きく広げて回るトーマスフレア、さらに、倒立状態から足をつけずに横に回るエアートラックス。技が決まった後は大歓声。


 その後はステップ、部長の技と来て、次のステップの後は俺のフットワークだ。


 そして、やってきた俺の出番。部長も一緒だし大丈夫と強気に行き、フットワークを決める。


 やってる時に気づいたのだが部長が一緒じゃない。後ろでみんなとリズムを取っていた。


 最後はフリーズ、倒立状態で片手でポーズを取るジョーダンで決めた。


 まだ終わりじゃない。最後はみんなで決めポーズを取り、曲が終了。


 大歓声。


 俺はやりきった。満足感に満ち溢れている。こんな感情は今まで経験したことのないものだった。

 楽しかった! ダンスをやってよかった!


 今までやりたいことがわからなかった俺が、初めて自分からやりたいと思ったものがこれでよかった!


 舞台裏に下がった後、よくやったと部長から一言を頂いた。


「しかし、ジョーダンなんていつ覚えたんだ?」


 実は最後のジョーダンは元々の予定には無かったものだった。


「実は俺、逆立ちは得意なので前にできるかなぁと思って試したらできちゃったんですよ。ぶっつけ本番でしたが、テンションが上がってたのでついやっちゃいました」


 みんな唖然としていた。コツがわかっても一週間はかかると言われているジョーダンを俺は一日で完成させ、さらにぶっつけ本番で取り入れたのだ。


「今度からはちゃんと前もって相談するように」


 それだけ言って部長は自分のクラスに戻った。


 今回のことは相談しなかった俺が悪いな。もしこれが大会で失敗したら迷惑になるし。報告・連絡・相談はきっちりしないといけないね!


 討論会はこれで終了となり、みんな自分のクラスへと解散となった。


「俺も教室に戻るか。」


 制服に着替え終わり教室へと向かう。瀬戸内さんちゃんと見ててくれたかな。


 ―――――――――――――――――――――


「篠崎!かっこよかったぞー!」


 教室に戻ると平が抱きついてきた。

 男の抱擁はいらん! 離れろ!


 他のクラスメイトもぞろぞろと集まってくる。なんかヒーローになった気分だな。これで女の子からもモテモテかな?


「あのっ!篠崎さん!」


 ハーレムを妄想していた俺に瀬戸内さんが声を掛けてきた。いかん。変な顔していないかな?


「篠崎さんすごかったです! まだダンスを始めて一ヶ月半であそこまで出来るなんて! 最後のジョーダンなんてびっくりです!」


 興奮気味の瀬戸内さんがどんどん詰め寄ってくる。うん、今日もいい匂い。


「あの、篠崎さん……かっこよかったです」


 顔を赤らめ俯きながらつぶやく彼女。

 ねぇこの子抱きしめていいですか?


 俺の中の悪魔が囁く。


「へっ、この女ちょろいぜ!抱きしめてやったらさらにメロメロだぜ!」


 そうだよな。今の俺なら大丈夫だ。


 そんな時俺の中の天使が囁く。


「いけません!今はみんながいます!後で誰も見てないところでやりましょう」


 ふむ一理ある。そして抱きしめるのことは確定事項なのか。


 そんな俺の中の天使と悪魔が闘っている中、教室に先生が入ってきた。


「おーい、席着けー」


 その一言でみんな自分の席に戻っていく。


 まあ一成も言ってたし、そんな焦ることもないかな。


 俺もみんな同様自分の席に戻るのであった。

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