第十三話 期末試験
母さんから衝撃告白があった次の日、昼休みに一成と詩織ちゃんと昼食を食べていた。今日はカツ丼とざるそばのセットだ。
昨日の話を一成にしてみた。あの結婚式には一成の家族も同席していたので桜の事を覚えているか聞いてみた。桜の家に泊まった件は伏せておく。ちなみに詩織ちゃんはずっとニヤニヤしている。
「やっぱりあの子だったか。雰囲気は変わっているが名前と目元がな」
あの後俺も思い出した。確かに今の桜とは似ても似つかない女の子だった。具体的に言うとその子はぽっちゃりしていたのだ。太っているではなくぽっちゃりだ。今の桜はぽっちゃりどころかむしろ痩せている。確かに目元は同じだがあそこまで痩せるとわからないよね。
だがそれなら桜も俺もことわからないのでは? そのころの俺はデブだ。今の俺からは想像できないはずだ。そのことを一成に話すと。
「いや、中田さんには初さんがいたのだ。初さんが話しているか家族が話しているだろう」
姉さんが話すとは思えない。おそらく家族の人が俺の姉さんと紹介をいれているはずだ。桜も俺と姉さんが兄弟ってことを知ってたみたいだし。そういえば俺が昔太っていた件も触れてこなかった。桜は全部知っていたのか?知らなかったのは俺だけ?なんだか嫌になってくる。
「なんだかロマンティックだね~。昔将来を約束したもの同士が数年後再会! なんかドラマみたいだよ」
いや、詩織ちゃん。将来の約束していないよ俺の記憶では。キスは約束にならないと思うたぶん。それに昔のことだ。ノーカンだよ。桜もきっと気にしていないだろう。婚約者ってことでもないそうだし。そこはお互いの気持ち次第と母さんが言ってた。まあこのご時勢なかなか親の都合で婚約ってのも少ないでしょ。でも少し桜と会うのが怖くなってきた。あまり意識すると変になってしまう。今まで通りに接しなければ。
ちなみに姉さんが俺に教えてくれなかったのは付き合い始めたら話すつもりで今はまだその時ではないと思っていたそうだ。
「ま、こういうのは時間がなんとかしてくれるよ」
考えて解決することじゃない。その件については一旦置いておこう。一成にはもう一つ聞きたいことがある。
「一成、昔姉さんと三人で行った植物公園のこと覚えている?」
「お前が迷子になった公園だろ。それがどうした?」
昨日姉さんに話したことを一成にも話す。夢にまで出てくる女の子だ。何か大切な約束をしたのかもしれない。
「あの子か。すまんが俺はあの時お前を探すのに必死であの子のことはそんなに覚えていない」
そうか。ここで手掛かりがなくなってしまう。あの子を感じたのは二度だ。一度目は大会会場で桜と会った時、二度目は桜の家で泊まった時。桜かと思ったのだが、昔の桜とは違うし姉さんもあの子は桜ではないと言っている。あの子は一体……。
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放課後、期末テストが近く部活は禁止となっているので俺は図書館で一成と詩織ちゃんと勉強する。平も呼んだのだが、あいつは農業部の仲間と勉強するそうだ。女の子に囲まれてうらやましいとか思っていないからね。全然思っていないんだからね!
俺と一成は成績優秀だ。苦手だった古文は花に教えてもらったおかげでかなりできるようになった。一成も現代文が苦手みたいだがそれ以外は完璧だ。さすがは医者一家。問題は詩織ちゃんだ。国語と英語は大丈夫なものの理系科目が絶望的だ。数学にいたってはほとんど理解できていない。この子はよくこの学園に入れたな。俺と一成は二人で詩織ちゃんに勉強を教えるのだが……
「もうギブ。数学は諦める~」
机にうなだれる詩織ちゃん。やってるところまだ基礎なんだけどな。それにこのままだと間違いなく数学は赤点だ。赤点を取ると夏休みに補習があるよ。詩織ちゃん頑張れ。
「詩織、このままだと夏休みは海に行けないぞ」
「う~み~。行き~た~い~。でも勉強はもうい~や~だ~」
駄々をこねる詩織ちゃん。俺は苦笑いを浮かべ一成を窺う。一成は頭をかきながらため息をつき仕方ないと詩織ちゃんの耳元で何か囁いた。なんか恋人同士って感じなことやってるな。俺がいるところではホントにやめてほしい。突然詩織ちゃんが背筋を伸ばした。顔が真っ赤だ。何を言ったんだ一成?
「さ、さてと。勉強頑張るぞー!」
急にやる気を出した詩織ちゃん。一成に何を言ったのか聞いてみたが教えんと一蹴された。恋人同士の秘密ですかい。俺もまぜてくれよ。
ふと遠目に花を見つけたので手を振ってみる。花も気づいたそうでこちらに歩み寄ってくる。
「遼さん、とこちらの方は?」
花が一成達を目にしたので二人を紹介する。たしか花は詩織ちゃんのことを一度見かけていたはず。次に二人に花の事を紹介する。二人は花と会うのが初めてのはずだ。
「「あぁ、ヤンむぐっ!」」
俺は手で二人の口をふさぐ。こいつら桜のときみたいに「あぁ、ヤンデレの」っていうつもりだったな。言わせないよ。花が不思議そうな顔をしたので笑ってごまかす。
「花も勉強?」
「はい。ただ席が空いていないので帰ってうちでやろうかと思っていました」
この学園には自由に利用できる自習室もある。そこは席ごとにしきりがあり誰かと勉強するのには向いていないが一人で勉強するには最適の空間だ。自習室はテスト前になると放課後は満席だ。そうなると次の候補である図書館が込むことになる。自習室よりは少し騒がしいが勉強する分には問題がない。
「俺の横の席が空いているからよかったらこっちでやる?」
「お邪魔でないのでしたらご一緒させていただきます」
一成と詩織ちゃんに目配せすると頷いたので、俺は隣の席のスペースまで広げてた教科書や参考書をしまい花のスペースを確保する。
「そう言えば花は藍と仲良くなったんだってね」
昨日藍から聞いた話を伝える。一成が驚いた顔をしている。確かこいつも藍からいやがらせを受けていたな。俺が一成とよく遊んでるせいで藍に構ってやれない時期があったのだ。詩織ちゃんは藍と仲がいい。詩織ちゃんは藍的に害がないからだろう。おそらく藍の友達の基準は俺に付きまとうかどうかだと思う。兄離れしてくれよな。
「花は帰国子女なのか? 藍から聞いたが英語ペラペラみたいじゃないか」
「はい。幼いころはこの辺りに住んでいたのですが、小学校上がった最初の夏休みの後から父の仕事でイギリスで住んでいました。こっちに戻ってきたのも学園の入学のタイミングです」
なるほど。それで一人暮らしで部屋に物が少ないわけだ。実家がイギリスとなると物を運ぶのは大変だろう。イギリスか。海外旅行の経験がない俺にとっては未知の領域だ。英会話はできるが藍ほどではない。しかし機会があれば行ってみたいな。
「一成は海外に行ったことあるよね。詩織ちゃんは?」
「夏休みにハワイに行くわよ」
そう言いながらチラチラ一成を見る詩織ちゃん。ん? こいつらまさか二人でハワイに行くのか? ひと夏のアヴァンチュールか!? これだからリア充は! ……もういいや、勉強しよ。
その後は数学が苦手の花と詩織ちゃんに俺と一成が教える形になった。花は詩織ちゃんほどできないわけではないのだが、解答までのスピードが遅いのと計算が雑だ。俺はそこを踏まえて問題を出していく。詩織ちゃんは教科書からだ。一成が丁寧に説明しているがわかっているのか不安だ。花が問題を解いている間、俺は歴史の問題を暗記していた。花が解いているところをチラチラ見ながら指摘するところがあれば教えてあげる。そんな感じで進めていたら下校時間が近くなってきた。
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「ねえ花ちゃん、夏休みはイギリスに帰るの? もし予定が合えばみんなと一緒に海に行こうよ!」
下校時間になったので、図書館を後にした俺達。下駄箱前で詩織ちゃんが花を海に誘っている。
「夏休みは両親がこちらに来ることになっているのでいつでも大丈夫ですよ」
「じゃあ期末テストが終わったら一緒に水着を買いに行きましょー!」
花の水着姿だと……? この前桜の水着姿を見たが花の場合はボリュームが段違いだ。桜の胸は小さくはないがあの水着姿はどちらかというとかわいいのだ。もう一度言う、花のボリュームが段違いだ。男なら誰でも目が釘付けになるに違いない。あの溢れんばかりの乳を間近で見られる日が来るとは! これは海が楽しくなってきた。どんな水着かな? 普通のビキニ? いや際どいマイクロビキニ!? そこはあえてのスク水か!? ポロリもあるかな? ポロリもあるよね!?
「ねえその買い物俺も……」
「ダメ。遼君顔がスケベになってるよ」
何だと!? 考えが読まれた!? いや、顔に出てたのか。一成に援護を頼むが全力で拒否された。なぜだ一成!? あそこには男の夢と希望がつまっているのだぞ!動かないということがあるだろうか!?
「遼、俺の好みを忘れたのか?」
花達に聞こえないぐらいの小声で一成は呟く。一成の好み? それって確か……あ、こいつ貧乳派だ。こいつの好みの具現化が詩織ちゃんと言ってもおかしくはない。だがそれがどうした! あれを見て気にならないとは言わせない。貧乳なんて見てて何がおもしろいんだ。垂直落下じゃないか! 男ならおっぱいに大志を抱くものだ! 将来垂れそう? それは未来の話であって今ではない! 今を楽しむ為に共に行くのだ! さあ一成! おっぱいを見に行くぞ!
「あ、そうだ遼君」
「なんだ貧乳!?」
……………。
あ、やべ。つい口に出てしまった。詩織ちゃんが笑ってる。後ろに般若様が見えるよ。指をポキポキさせるなんて女の子らしくないよ。いや貧乳もいいんだよ。決して悪くないよ。将来垂れる心配がないからね。それにまだまだ成長期だよ。これからきっと大きくなるよ。だから詩織ちゃん落ち着いて、落ち着いて、おちつあぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
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「それで遼君、いいかな?」
「はい、すいませんでした」
俺はひたすらボコられた。誰も詩織ちゃんを止めなかった。一成はともかく花ですら俺をジト目で眺めていたのだ。そんな目で俺を見ないで。現在俺は詩織ちゃんの指示で正座している。
「夏休みの海の件なんだけど桜ちゃんも誘っててくれないかな?」
「桜? わかった。誘ってはみるけどなんで桜なんだ?」
桜と詩織ちゃんの接点はあのライブの時の一回だけのはず。何で急に?
「いや~だって~? 折角の海じゃん? 大勢のほうが楽しいと思うんだよね~」
なんかニヤニヤしている? でもそういうことなら平も誘っていいか聞いてみたら一成がすでに誘っているそうだ。ちなみに姉さんと藍も来る。
「じゃあ帰ったらメッセージ送ってみるよ」
よろしくねぇ~と一成と詩織ちゃんは帰っていった。あの、俺正座したままなんですけど。もう崩していいですか?
「遼さん、桜さんとはどなたなのでしょうか?」
この感じは……振り返ると顔は笑っているが目が怖い花だ。ヤンデレモード。下手なこと言ったら刺されるか桜の部屋で監禁される! 俺は再び姿勢を正す。
「桜は親同士が仲がよく家族ぐるみの付き合いなんだ」
嘘は言ってないが真実でもない。真実を告げて俺は生きていられるだろうか。
「どのようなご関係……なのでしょうか?」
まだまだヤンデレモードは解除されない。さてここで選択肢が出てきたら楽だったのだがそういうことはない。無難にただの友達と伝えておこう。
「私以外の……女友達……ですか」
あれー? まだ解除されないぞー? 間違えたこと言ったかなー? 選択肢出てこーい。俺ここで死ぬのかな? さようなら、俺の人生。可能であれば次は剣と魔法のファンタジー世界にチート能力を持って転生してハーレムでうはうはしたいです。
「まあいいでしょう。海でしっかりと見定めます」
それって下手すると桜が殺されますよね。花さん落ち着いて。てか俺と花は付き合っていないただの友達なのにどうしてここまで嫉妬するの?
「では遼さん、帰りましょう」
いつもの花に戻った。いつもの笑顔を見せて。うん、なんか海に行くのが怖くなってきた。
帰宅後俺は桜に海の件についてメッセージを送ったら二つ返事でOKが出た。
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その後はテストまでの間、俺・花・一成・詩織ちゃんの四人と時々平を加えて勉強した。一成の指導のおかげか詩織ちゃんはどうにか基礎までは理解してくれた。花も問題を解くスピードが結構伸びたのでテストは大丈夫と思う。
テストが全てが終わり結果が張り出される。うちの学園ではテストの十位以内の結果をを掲示板に張り出すのだ。一成が一位、花が五位、俺が八位だ。詩織ちゃんはギリギリで数学の赤点を回避する。他の科目は問題ないみたい。平は全ての科目が平均点だった。ある意味それもすごいよね。
今日から部活も再開される。二週間振りの部活ということもあり、柔軟をいつもより気をつける。感覚を戻すために基本から始める。アップダウン、ステップをやってフットワーク。体が温まってきたらパワームーブの感覚を戻す。大丈夫そうだ。今日の部活はみんな体の鈍りを解消するだけで解散となった。
来週からは夏休み。そして九月には大会が待っている。気合をいれていこう。
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