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序文:童心の魔女「エミリア・クラムクラン」
目の前が赤に染まる。
泥と鉄の匂いに包まれながら、倒れ伏す。
いずれこんな日が来るだろうとは、どこかで思っていた。
だから、何も恐れるものなど、ないはずだった。
「しかし、まさかこんなにも、あっけなく終わってしまうとはな……」
自嘲気味に呟く。腹を裂かれ、流れ出る血を止める事も出来ない自分を、まるで他人事の様に嗤う。
「良い戦いだった」
薄緑の鎧の男は言う。
「童心の魔女よ、貴君に敬意を」
「……ああ、息子によろしくな」
男は返事もせずにその場を離れていく。
少しずつ足音が遠ざかっていき、そして、何も聞こえなくなる。
もはや手足の感覚すら無く、地面の温度すら感じられない。
どうやら、もうここまでの様だ。
目を閉じ、愛しい息子の姿を思い浮かべる。
泣き顔、笑顔、怒り顔、困り顔。可愛くてしょうがないその顔を、思い出す。
(ああ、アレン。どうせ殺されるなら、お前に殺されたかったなあ……)
そうして、微かに笑みを浮かべながら、エミリアは死んだ。