第3話 初見殺し
キャラクターエディットには記録機能があるらしく、三回目のエディットにはそれほど時間を要することはなかった。
ただ、ヒントにあったように職を剣士とすることはなく、あくまでフリーターで押し通すつもりであった。
「だって、フリーターの方が将来的には特技もすごいのが得られそうだし」
そういったものだ。
親からもらった慄英雄という勇ましい名前に反して石橋を叩いて叩き壊すような人生を歩んできた結果の結論である。
現実世界でフリーターな時点でその選択が正しかったのかどうなのかは甚だ疑問ではあるが。
画面の中の黒髪の女神様がお約束の一言を告げる。
「それでは勇者『候補』様。幻想世界エメンガルドを魔王の手から救いだしてくださいますよう貴方様の無事を心より祈願しております」
降り立つのは勿論、草原。
今度は不意をつかれまいと周囲を警戒し、確かにリスポーン地点の背後にオオカミのような小型の生物がいることが確認できた。どうやらコイツが『はぐれオオカミ』らしい。
『はぐれ』という名前にレア感を抱いていたが、本当に群れからはぐれてしまったオオカミのようで、身体は細く、今にも倒れてしまいそうな細いオオカミの姿がそこにはあった。
「こんな奴にやられたのか。我ながら情けない。まぁレベルが低いうちはそんなもんか」
『はぐれ』の『はぐれ』的要素は逃げ足の速さにもあったようで、僕と目が合うなり一目散に逃げだしていった。どうやら群れからはぐれてしまった非常に憶病な生き物らしい。
とはいえ、一体どうすればいいものか。周囲には町のようなものも建造物のようなものもない。果てしなく草原であった。
『はぐれオオカミ』以降、そのようなモンスターの姿もなく、この世に僕一人のようなそんな嫌な予感がした。
そしてその予感は的中した。
歩けども、歩けども草原。モンスターの姿すら見えない。誰にも会えない。何もない。イベントすら起きない。天候も変わらない。えっナニコレ?
小一時間程無駄に歩いた後に気が付いた。あっこのゲーム、クソゲーだわ。そりゃあ圧倒的に不評ですわ。バランス調整どうなってんのよ。
「おーい、誰かいませんかー!!」
何度目かの祈りを込めた叫び声を挙げた瞬間、僕の首はポロリと地面に落ちた。
そして、その姿を右斜め後ろの少し上空から眺めていた。
首が離れた胴体は力なくその場に倒れてしまい、僕の遺体の上には血文字で『GAME OVER』と表示されていた。
前々回は落下死。前回は『はぐれオオカミ』の攻撃による死亡。そして今回は『人食いプラントの根っこによる即死』らしい。
通りがかりの唯の木と思っていたが木は根っこをウネウネと器用に使いこなし、僕の胴体をシュルシュルと丸め込み地中に飲み込んでいった。
妙にリアルだ。そして絵面が実にシュールだなコレ。
ヒント『人食いプラントの弱点は火属性です。根っこによる不意打ちがあるから夜寝るときには注意が必要です』
と白い文字でメッセージが描かれているのをその後に発見した。
……このゲーム。初見殺しも大概である。
次のリスポーン地点は素直に街にしようと決意を固める僕であった。