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最弱の勇者候補は『理不尽』が少し楽しい  作者: 田中ヒロミチ
第二章 初めての泥棒→捕まる→脱獄→イベント報酬
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第47話 レベルアップと剣士と獣使いと

 その日はログインした時点でネイさんとアケミさんが同位置にいるようであった。

 ログイン直後に視界の左端から引っ張り出したステータス画面、その中でもフレンドリストを確認する。


 癖のようなものではあるが、幻想世界エメンガルド内においては僕一人で行動すること程の自殺行為は存在しない。

 あるいはそういった生存本能的なものが働いて無意識のうちに確認しているのかもしれない。


 テッテレー。ヒイロのレベルが上がった。

 

 視線の右上にビョロンとトロフィーが表示される『純粋な花嫁クリア』と。

 どうやら昨晩のイベント報酬に経験値が含まれていたようである。イベントクリアの度にログアウトしてログインしなければ経験値が加算されないという点はどう考えてもゲームの不具合だと思うのだが……目の前に白文字でメッセージが現れる。

 『ヒイロの力は1上がった。素早さが1上がった。運の良さが2上がった。新たな特技アビリティを覚えた』


「……相変わらず」


 ステータスの伸びが酷い。

 運の良さだけ徐々に上がっているようであるが、このゲーム内において、それがどのような効果を及ぼすのかは定かではない。

 一つ、間違いなくいえることは、身体能力は横ばい。ということだけであろう。


 フリーターはレベルを重ねても大した意味はないという現実世界に対するアンチテーゼとも捉えることができる。本当にいつの日にか運営とは話をしなければならないようだ。


 ちなみに会得した特技アビリティは『視認』であった。また地味な使い道のハッキリしない特技である。

 視認って。まだスコープアイ的なものであれば「おっ?」とも反応できるものであろうが、視認って……。


「おっ、フリーター君レベル上がってんじゃん! 調子良さそうで何より」


「こんにちは、ヒイロ……」


 背後から元気に声を掛けてきたのは赤髪にそばかすの獣使い(モンスターテイマー)アケミさん。それにネイさん。少しテンションが低いようにも見える。

 何か気がかりなことでもありそうな、そんな感じ。

 

 そんなネイさんから話を切り出す。


「今日あたり、ヒイロさんのレベルが5に上がりそうでしたから。そろそろ『いざないの祠』にチャレンジしてみてはどうかと思いまして、こうやってアケミさんと一緒に参りました」


「『いざないの祠』ですか?」


「ええ、このゲームのプレイヤーの皆さんはこの『迷い草原』での適正レベル5に達するとダンジョンにチャレンジするという風習のようなものがありまして……それが無事に終わると皆さん冒険に出られるのです」


「あぁ、なるほど。初心者向けダンジョンってことですか。お二人は引率みたいなものってことですね。アケミさんは……あのサーベルタイガーの姿が視えませんが?」


 僕の下半身を引きちぎった牙の鋭い猛獣である。あの時の惨状を僕は忘れない。

 いずれレベルが上がれば狩りの場にサーベルタイガーが出てくることもあるだろう。……覚えて置け。その時に恨みを晴らしてやるからな。という憎悪の念を抱きながら尋ねてみると、ダンジョン探索には向かないから連れてきていないとのことであった。


「まぁ、ダンジョンっていっても本当に初心者向けの低レベル向けのものだから。たったの三階層しかないし」


 このゲームの難易度というものを未だに計り切れていない僕にとってはそんな言葉に安心感の欠片すら抱けないのではあるが。

 この二人もレベルが5になった時点で同じように『いざないの祠』に向かったらしい。

 何事もなくクリアできたとのことであったが、それは彼女らが剣士であったり獣使いというジョブであったから為し得たことなのであろう。


 このゲームの世界のフリーター職を舐めてはいけない。現実のフリーターでも体験することはできない死という名の終わらない苦痛を味わうことになるのであるから。

 

 現実もHARDモード、ゲームはHARDどころかHELLかもしれない。


「そういえばアケミさんのレベルってどれくらいなんですか? 聞いたような聞いていないような……」


 『いざないの祠』へは『迷い草原』を決まった順路で進まなければならないらしく、彼女達に先導を任せていた。

 最近、天気がよく晴れている。陽が眩しい。現実世界とリンクしていることを考えると、夏場と冬場は地獄なのかもしれない。

 そんな、気持ちに余裕が持てるくらいに悠々と歩を進めることができた。

 それは二人のレベルによるものであろう。

 モンスターといえども高レベル帯のプレイヤーには恐れおののいて姿を見せないものである。ともすれば、僕がネイさんの狩りに付き添っていたのは僕を餌にモンスターを引き寄せていたとも……いや、ない……ともいいきれないか。


 この間、盛られたばっかりだし。


「言ってなかったっけ? レベルは11。ちなみに『63番目の勇者候補』獣使いとしてモンスターが付いてくるようになったのは丁度今のヒイロと同じレベルが5の時くらいだったと思う。なんだかんだいって実用的な特技アビリティを覚え始めるのがそれくらいのレベルだったりするんだよ。このゲーム」


 ……レベル5の特技アビリティは『視認』だったのですが、これは実用的なのでしょうか? 使い方というか、使いどころがよく分からないのですが。

 高レベルのフリーターなんてプレイヤーがいるのかどうかはわからないけれど、居たら色々と聞いてみたいものだ。その先に待っているものが絶望のようなものであっても知っていれば気が楽というものであろう。


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