第19話 レベル4になりました。
僕が装備しているのは短剣。
ショートダガーと呼ばれるものである。
ネイさんはといえば、レイピアみたいな形をした鋭い刃が特徴的な実にファンタジー色の強い格好のいいものをブンブン振り回しているが、僕はショートダガーである。
まぁ小回りが利くと言えば聞こえはいいのかもしれないが、射程が狭いというか、ほぼ素手。
思いの外ズッシリと重く感じるのは職がフリーターであるからなのか、単に力のパラメータが低いからなのかはわからない。
「例えばですよ、ネイさん。昨日の吟遊詩人が手にしていたタクト。あんな棒っきれであれば僕にも装備できると思うんですよね。そこのところどうなんでしょう?」
「あぁ、それ私も思う。私は剣士を選んだ手前、魔法を覚えることができないし、必要性を感じなかったのだけれど、一度だけ魔法職の杖を借りしたことがありまして」
この間、休憩をしている訳では無い。
僕は倒せそうな『ジャイアントマウス』と『はぐれオオカミ』を見つけてはペシペシと叩いては逃げ叩いては逃げ。
ネイさんはズバズバと襲い来る『オオカミ』と『隠れ角ウサギ』を千切っては投げ千切っては投げている。
「なんか新鮮な感じですね。ネイさんにもそんな時期があったなんて。なんか安心するなぁ」
「いや、だから私もそんなにこのゲーム長くはないんですって。……それで、話を戻すとですね。『振れない』んですよ。うーん、ちょっと違うな。効果が無い。って言った方がわかりやすいかな」
つまりは、武器を装備するということは、武器が持つ特性を利用できる。ということのようだ。
魔法使いが一振りで火を放つことができる魔法の杖であってもネイさんが振り下ろした所で火の粉すら起きない。
吟遊詩人の持つタクトも同様に風を巻き起こす効果を持っているタクトであったとしてもフリーターの僕が振ったところで、その辺に落ちている木の棒と何ら変わらない。
そういうことのようだ。
逆説的に考えれば物理攻撃タイプの武器は無理をすれば使えないこともない。ともとれるが、ショートダガーを両手で持っているような体力ではどのみち使いこなせないだろう。
なんにしてもフリーターに幸あれって感じだ。
テッテレー。ヒイロのレベルが上がった。
レベルがようやく4になった。
個人的にはそろそろ実用的な特技を覚えたいところではあるが、2と3の時には『逃げる』『盗る』ことを思い出すとあまり期待し過ぎるのもよくないのかもしれない。
白文字でメッセージが現れた。『ヒイロの力は1上がった。素早さが1上がった。運の良さが2上がった。新たな特技を覚えた』
「全ッ然ステータス伸びないんですけど!」
中空に浮かぶ文字に対して怒りをぶつけるがネイさんからの「フリーターだからね」の一言にとても心が傷ついた。
フリーターだからという理由で成長が阻害されるのはナンセンスではないでしょうか。僕は運営に対して声高らかにそう伝えたい。
「それで、特技は?」
まるで悪びれる様子も素振りも見せないネイさんは果たして天然なのか辛辣なだけなのか、今後のお付き合いの中で見極める必要がありそうだ。
という至極個人的な思惑はさておき、視界の左端。厳密に言えば視界の外であるが、左手を添えて右へ引き出すようにしてステータス画面を表示する。
「ええと、特技、特技、っていってもまだ三つしかないから迷いようがないのだけれど……『使う』ってありますね。なんでしょう。文字面だけで言えばアイテムを使うって感じですかね?」
「うーん、それって特技なの? 私が剣士職を選択した時にはデフォルトでアイテムを使うってあったんだけれど」
ネイさんの一言が心に痛い。
涙を流すという悲しみを現すようなアクションがこのゲームにないのは、ある意味で正解なのかもしれない。
それは、フリーター職を選んでしまった人は一様にそれを多用するであろうから。
体力の概念がない。というこのゲームの特徴ではあるが、疲れというものは存在する。
一定時間走り続けた場合に減少していくようなゲージがある訳ではなく、恐らくはプレイヤー本体が長時間PCゲームに没頭することによる疲れを指すのだという。変なところがリアル指向だなぁ。
そんなところで迷い草原では見かけないようなモンスターが姿を現した。『ジャイアントマウス』の巣穴からニュルリと出てきたそれはどのゲームでも有名なあのモンスターであろう。
『スライム』
液体のような生物で物理攻撃が『効きづらい』というのがこのモンスターの一般的な特徴であるが、果たしてこのゲームではどうなのであろうか?
「ヒイロは戦わないで。あれは私でも倒せないから」
返り血で蒼髪の地の色と赤が斑になったような物騒な格好でネイさんはそう告げた。
その表情はいつになく真剣なものであった。




