第11話 吟遊詩人とフリーター
牛も大勢のNPCも吟遊詩人が奏でるハープの音色に酔いしれているようであった。
たった今までの地獄絵図が嘘のようである。
とはいえ、いつまでも死んでいる訳にもいかないので、さっさとリスポーン地点で復帰するのであるが、牛追い祭りを行っていた通りは既に『いつものような』閑散とした通りへと変貌してしまっていた。
まるで夢を見ていたような感覚である。腹に穴を開けられたNPCもウロウロとしていたが、衣服にダメージはあるものの何食わぬ顔でケロッとしているあたりにホラーを感じざるを得なかった。
「もし、先ほど牛に上半身と下半身を割られた御仁ではありませんか?」
えらく丁寧な口調で馬鹿にされた気がしたが、振り返るとそこには先ほどまでハープを奏でていた吟遊詩人が立っていた。
物腰は柔らかそうな細身に緑色の外套、似合わないテンガロンハットを被った金髪、金眼の実に中性的なイケない雰囲気を醸し出した人。ギターなんかを片手にボロロンと歌っていそうなその人は何やら僕を探しているようであった。
「何やらひどく失礼な事を考えていらっしゃいませんか? 私は女ですよ。こう見えても」
「いえいえ、何を仰います。貴女の方こそ酷い言い草じゃあないですか。僕が引き裂かれるのを黙ってみていたのでしょう? 助ける力があるなら助けてくれてもいいじゃないですか」
思わず敬語になってしまう辺り僕の人間としての器の小ささの表れといえよう。なんとも気恥ずかしい。
「ああ、見事な引き裂かれっぷりでしたよ。暴れ牛を引き付けていただいたおかげで私は無傷で景品を手に入れることができましたしね。ありがとうございます」
軽口を叩かれているのであるが、NPCがやられ放題だったタイミングでハープを奏でればよかったのでは? という質問はあえて控えておいた。
どうにも性格が捻くれていそうだと感じたからだ。こう見えても人を見る目には自信がある。コイツは性格が悪い。
「なんて顔をしていらっしゃるんですか。……あぁ、自己紹介がまだでしたね。私はクロウ。吟遊詩人を職としています。21番目の勇者候補です。ちなみにレベルは25。貴方は?」
レベル25? 上級者だわ。これは上級者で間違いないわ。そりゃあ初心者狩るわ。
あぁなるほど。
「昨日から始めました。昨日から始めたのでレベルはまだ2です。名前はヒイロと呼んでください」
ふて腐れながらそう呟くように伝えると、本当に身体が腐食を始めた。クロウの方へ視線を戻すと何か演奏している。演奏している楽器から黒い何かが出てきている。そして僕の身体を侵食し……。
ボロボロの肉片に朽ち果ててしまった僕の身体の上に『GAME OVER』の血文字が浮かび上がっていた。下には白抜きの文字で『即死効果の特技を回避するにはあるアイテムが必要だよ』と描かれていた。
少し上空から朽ちて地に散らばっていく自分の身体を見下ろしながら他人に対しては下手にでなければ酷い目にあってしまうという教訓を得るのであった。




