第8話 現実戦線異状有り
「は、初めまして、熊谷美里と申します。い、一日でも早く仕事を覚えて仕事に、仕事を……あ、あれ、仕事は、が、頑張りましょう」
結局、頑張りましょうに落ち着いてしまった。
「熊谷さん、よろしくお願いします。慄と申します。ここに(コンビニバイト)丸一年くらいお世話になっていますので、何かわからないことがあれば気軽に聞いてくださいね」
「は、はははははひ。おののののきさん。初めてのアルバイトということで少し緊張していますが、何卒よろしくおねひゃいいたしますい」
店長から紹介されたのは今日からの新人バイトの熊谷美里さんという度の強そうな眼鏡を掛けた三つ編みの女の子であった。
おどおどしているというかなんというか、店長の知り合いのお子さんらしく、今年、大学生になって初めてのアルバイトなのだそうだ。
今日日コンビニのアルバイトでここまで緊張する人も珍しい物だと思ったが、それよりも何よりも胸が大きいことが気になった。
勿論、視線をそちらに向ける訳ではないが、どうしたものか、男の子として生まれてきてしまったが故の性ともいえよう。視線を顔にもっていっても、自然とズームアウトして胸部から上を見るような形になってしまう。
「じゃあ、慄君。後のことは任せたからね。よろしくお願いね」
店長はそう言い残してバックヤードへと戻っていった。
事前に聞いた話では前もってマニュアルの一式は読み込んでいるらしく、後は実地で教えてあげればいいから。と引継ぎを受けていた。
それなら、と、いきなりレジは可哀相だと思い、今日のところはわかる範囲で動いてもらって、深夜帯のお客さんが並ばないタイミングでレジ打ちの練習をしてもらうように提案をするのであった。
「レ、レレレレレレジ打ちですか! しょしょ初日からハードルが高くはないですか?」
「あ、いや、コンビニのレジ打ちってそんなに難しいものでもないのよ。なんなら慣れるまでは横に着いていてあげるから、ね。実際にやってみるとすぐに慣れるよ」
「ひゃひゃい。わかりますた」
「うん。とりあえず、その緊張をどうにかしようか」
勉強はできる子。
とは聞いていただけあって確かにマニュアルをよく読んでいるようであった。
コンビニのアルバイト程度で緊張してしまう辺りのアガリ症さえなんとかなってくれればなんということもないだろう。まぁ慣れだな。慣れ。




