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パレストロの場合



 レジナ・エレナ級戦艦が順調に起工されていく中でふと、イタリアの歴史について調べてみた。

 パソコンの資料によると、新世紀に入る直前の1896年にエチオピアへ侵攻し、敗れるという事態が起きていた。


 しかし、この世界では敗戦に至っていない。エチオピア軍との決戦を終始回避しながら漸減に努め、エチオピア側の旧態依然とした動員兵の復員や疲弊を待って有利な形での講和に持ち込んでいた。

 エチオピアにはフランスから多数の武器が渡っていたことから、フランスによる代理戦争の側面もあった。そして、イタリアが優勢勝ちという形で幕を下ろしたため、エチオピアはイタリアの保護国という形になっている。


 一応の自治は認められているが、外交権や軍の指揮権はイタリアが持つ形となった。このことで、史実よりも軍の評価は高く維持され、英国からの支援もより豊富に受けられる状況にあった。もちろん、それは対フランスへの備えである。


 こうして史実よりも海軍の予算があり、技術的にも多少の改善がみられる状況で、建造中の戦艦より効率的な艦の建造が模索されていた。

 もちろん、俺は答えを知っている。他の技官たちはドレッドノートモドキをデザインしているが、その中で俺は当然のように背負い式配置という正解を出している。最小限の砲塔を用いて最大限の火力を発揮させる。

 この時代はしかし、その運用が正解とは思われていなかった。動力の脆弱性もあり、後の戦艦のように迅速な砲塔の旋回が難しい。場合によっては一々砲塔を指定位置まで戻して砲弾を装填するなんて方式まで存在した。そのため、砲塔が多い方が発砲機会が多い。なんせ、まだ斉射という戦術も確立されておらず、各砲塔が任意に照準や砲撃を行うような状態なのだから、とにかく敵を叩くためには多数の砲が各々に発砲し敵に打撃を与えることが必要とされていた時代だった。

 のちの公差射撃や統制射撃なんて言うものを知っている身からすれば、そんなバラバラな撃ち方で有効に敵を撃破できるのか?と疑問にも思うのだが、交戦距離は短く、それでいて毎分1発程度のの発砲となれば、用意のできた砲から順次発砲という考えも悪くはないのだろう。

 そして、この時代、確かに新型艦は毎分一発、砲塔を指定位置まで戻すなんて事はなくなっていたが、少し古い艦となると話は別だ。

 弾薬庫から砲弾を取り出すのにすら数分を要し、装填は艦首尾方向に砲塔を戻して装填するという行為を毎回行う必要があった。当然、発砲から次の発砲までに5分や10分かかるのは常識で、そんな砲を使うくらいならば、どんどん撃てる8インチ以下の副砲で勝負した方が良いという日清戦争のやり方が有効な時代だった。

 今現在、主砲は毎分1発程度、砲塔は敵に向けたままでの装填も出来る。そうなると、副砲を多く積むよりも主砲を増やした方が破壊力が上がる。主砲を増やすならば、各砲がバラバラに撃つよりも統一した指揮で同じ目標を狙う方がダメージをより引き出せることになる。命中率も上がる。こうして生まれたのが、主砲を一斉に発射するという斉射戦術、それを行うためには、艦がどの敵を狙うのか決めなければいけない。その目標を指示する装置も必要になってくる。

 そこで、英国から最新式の器具を取り寄せ、艦橋で射撃指揮を一元的に行う斉射法を採用することにした。

 海軍内でも様々な意見があり、なかなか採用が決まらない。この辺りは史実と何も変わりがなかった。

 遅々として進まない議論の間にも戦艦の仕様自体をかため、12インチ連装4基を見慣れた背負い式配置にした戦艦に仕上げてしまっていた。


 議論が紛糾する中で日本海海戦が起きる。イタリアにとっては英国式戦艦で戦う日本の状態というのが気になるところだった。日本戦艦には射撃指示装置や測距儀が装備されている。日本海軍の大勝利という報を受けて俄かに議論は結論を導き出すこととなり、すでに設計を終えていた俺の案が採用されることとなった。


 まだまだ試行錯誤の段階であり、建造するのは1隻とされた。


パレストロ

排水量 15800t

全長    145m

幅    24.6m

出力 20000馬力

速力   20ノット

武装 12インチ連装砲4基、4インチ単装砲14基他


一隻だけの試験艦要素を持った艦として1905年後半に起工され、完成は1910年、英国の技術支援もあって工期も大幅に短縮されている。のだがやはり、この背負い式配置を米国のサウスカロライナ級戦艦が採用し、わずかに早く就役していたりする。

 単一巨砲艦の栄誉をドレッドノートに取られ、背負い式配置もサウスカロライナ級に明け渡した。

 このどうしようもないイタリアらしさってのはこれからも変わりなく続いていくことになるんだろうか?さすがに困ってしまう。


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