1章/コードネーム
アクセスして頂きありがとうございます。
「今日はまず風間さんのカードを作りましょうか。風間さんの持っているカードは来賓用なので」
「わかりました。あの、富司峰さん」
「はい、なんですか?」
「御堂さんって、どんな人なんですか?」
風間は幸音への怒りへの気持ちを抱いたが、ふと疑問に思ったのだ。
能力対策特務一課と能力対策特務二課。
この二つの組織は、一般人には知られておらず、政府直下の組織である。
特務一課は、主に立てこもりへの対処や犯罪組織を壊滅させることに特化した「強襲、殲滅」のための組織。
特務二課は、主に要人の護衛、犯罪組織への潜入と救出に特化した「護衛、殲滅」のための組織。
両組織ともに目的には殲滅という項目があるとおり、どちらの組織にも能力のエキスパートが所属している。
そして、特務一課、二課へは主に引き抜きによって勧誘される。
行き場を無くしたランクの高い能力、利用価値のある能力を持つ子供を勧誘し育てる場合。
高校や大学等で好成績を残し、かつ人格的にも問題の無い人間を勧誘する場合。
つまり、必然的にエリートが集まる組織となる。
風間の場合は後者での勧誘である。
風間の大学三年の始まりに、家に突然黒服の人間が訪れ、一つの大きい封筒を渡されたのだ。
封筒には特務二課への誘いが書かれた書類と選考日時が書かれた紙、特務二課について簡単に書かれた書類が封入されていた。
もちろん、特務二課について詳しく学んだのは、選考を通過した者のみである。
「一週間後にお答えをお聞かせ下さい。それと、このことは他言無用でお願いいたします。
勿論、家族にもです。では一週間後にまた。失礼します」
黒服の人間はそう言って立ち去っていった。
その後、風間はインターネットで調べるなど、あらゆる方法で特務二課を調べたが、
全く情報は得られなかった。
特務一課と特務二課の情報は政府に隠蔽されている。
そのときの風間が情報を得られなかったのは必然であった。
そして、風間がどんな選択をしたのか。
それは今、風間が特務二課に所属していることからわかることである。
特務二課へ所属しているということは、つまりはエリートの一人であるということである。
御堂 幸音も特務二課の一人であると思い直し、御堂 幸音について知りたいと考えたのだ。
「幸音さんですか? そうですね……」
「………」
「後から自分で調べてみてはどうでしょうか?
これから端末や訓練施設等、この場所の設備の使い方などを案内していきますので、
設備使用の練習として、幸音さんのことを調べてみてはどうでしょう」
「そんなことできるんですか?」
「まー、深くは知れませんけどね。あくまで公開されている情報だけです。
人柄などは、お互いに会話などをして知っていくほうが良いと思いますから」
「そうですか……」
風間にとって幸音に対する第一印象は悪印象である。
会話だけではお互いの関係は良好にはならないと風間は考えるが、ここは富司峰さんの言う通り、
自分で調べてみることにした。
「では、案内の前にカード作成に使う顔写真を撮影しましょうか。行きましょう」
「はい、よろしくお願いします」
その後、写真撮影から施設案内、さらに端末から自分の情報を登録するなど、
次々と初日の内容を終わらせていく。
特に施設案内で風間にとって驚くことばかりであった。
最新のトレーニング装置が配備されたトレーニングルーム。
警察の情報などを見ることができる端末。
多数の書物と特務二課が関わってきた案件をまとめたファイル群が置かれている書庫。
日替わりで変わる食事が用意された食堂。もちろん栄養管理がきちんとされている。
地下に行くと、特訓用の施設がたくさんあった。
施設を見ていくうちに、風間は「自分はとんでもない場所にいるのだ」と実感していた。
------------
「これで初日の内容は終わりです。なにか質問はありませんか?
なにもなければ今日は解散となりますが」
「一つだけ……。朝のことで、御堂さんのことを調べるには、なにを使用すればいいですか?」
「あー、それでしたら書庫のファイルを探すといいですよ。
特務二課に所属してきた人間の情報がまとめられたファイルが集まっている区画がありますから」
「わかりました。調べてみます。今日はご指導ありがとうございました!
明日からもよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いします。では私は自分のデスクに居るので、なにかあれば聞いてください。
7時までは帰宅していないので」
「わかりました。では書庫に行ってきます。失礼します」
富司峰に挨拶をした後、風間は書庫に向かうために特務二課の扉を開こうと、
首から提げている今日できたばかりのカードキーを手に持つ。
挿し込もうとしたとき、
「風間さん!」
「?、はい、なんですか?富司峰さん」
風間が振り向くと、そこには真剣な目をした富司峰さんがいた。
「風間さん、一つだけ注意しておくことがあります。
………能力や学力、見た目などで人を推し量ろうとしないでください。」
「いきなり、なんですか?富司峰さん」
「あなたの幸音さんを見るときの表情はどこか危うく感じました」
「なにを言って……」
風間は自分の心の片隅に抱いていた感情を見抜かれたようで、バツが悪そうに目を反らす。
その様子を見て自分の考えが合っていたことを確信した富司峰は、さらに言葉を続ける。
もちろん、風間は新人であるため、最初から厳しくしたりはしない。
富司峰は真剣な表情から、いつもの微笑みを浮かべた表情に戻った。
「いいですか、風間さん。幸音さんはね。ここ特務二課のエースの一角なんだよ」
「………へっ?」
「コードネームは「鳥籠」。「鳥籠」の御堂 幸音。特務二課戦闘要員の中でも指折りの実力者です」
「コードネーム?鳥籠?富司峰さん、一体なにを言ってるんですか……」
急な中二病ワードに風間は思考が追い付いていかない。
(富司峰さんはなにを言ってるんだろう……御堂さんが特務二課きっての実力者?)
「幸音さんはね、初対面の人には冷たいけど、仲良くなると可愛い女の子な一面が見れるいい子なんだ。
だからね、能力とか見た目で人を判断しちゃだめだよ。いいね?」
「は、はい……」
富司峰から出てきた言葉で風間は少し混乱していたが、「先輩の言葉である」と受け入れて、
自分の暗い感情について反省を始めたのだった。