1章/はじまり
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「ここで、合ってるよね?」
髪を肩付近で切りそろえた女性は受付で案内された道順通りに移動し、
辿り着いた扉に記されている文字を読む。
扉には「能力対策特務二課」と書かれている。
「ごくっ」
緊張によってガチガチになっている女は、
受付で渡された来賓用のパスカードを扉横にある穴に差し込む。
挿し込むとピピッと電子音が鳴り、扉が開いていく。
「挨拶はきちんとしないと。大丈夫…頑張れ私…
第一印象が大切……一杯練習したんだから……」
扉が完全に開き切ると、緊張した女の視界には想像とは違う光景が広がっていた。
扉の先は広い空間だったが、その中は……
「泰恵、お茶頼む」
「わかりました、ふふっ」
「………笑ってないで早く入れてきてくれ」
「わかりました、京冶さん♪」
「……ったく」
無精髭を生やす屈強な男が新聞を広げながら不愛想にお茶を要求し、
その要求を嬉しそうに受ける眼鏡を掛けた女性。
「爺さん、今度また釣りしに行こうぜ!ルアーも糸も高いやつに新調したんだ!
次は負けないね」
「ふむ、いいだろう。次もこの老いぼれが勝たせて貰うぞ。
ふっふっふー」
「くっーー!前回は場所が悪かっただけだ!今度はガッポリ釣ってやる」
「楽しみにしておくぞ。それはそうと、橋見よ。実は先週儂も釣り具を新調したぞ」
「なっ!?ずりーぞ!勝ち越す気満々じゃねーか!」
白髪のお爺さんと髪を金髪に染めた青年が釣りの話で盛り上がっていた。
会話内容は勝負事のはずなのに、二人とも気の合う友人のように会話に興じている。
「これなら……どうです」
パチッ
「ふむっ、良いところを突いてきたじゃないか」
「ありがとうございます」
「しかし、攻めばかりで守りに欠けている」
パチッ
「むっ……………長考させていただきます」
ズズーー
とある隅では白髪混じりのお婆さんと切れ目で長身の男がお茶を啜りながら将棋に興じている。
二人が座っている空間にはゆっくりとした時間が流れているようでありながら、厳かな空気も感じる。
真剣勝負といった形相で盤面を眺めている青年と厳しい目付きで将棋を指導するお婆さんの
二人には師弟関係のような雰囲気を感じるのだ。
「ふんっ!ふんっ!ふんっ!」
「その鍛え抜かれた肉体、美しいわー♪」
「お前も一緒にやらないかっ、このっ、筋トレをっ」
「いやよー、乙女じゃなくなるじゃなーい、もう」
上半身裸の男がバーベルを上げ下げし、汗を流しているその横でオカマ口調の人が
筋トレ姿を観察している。汗と筋肉とオカマ口調で構成された異様な空間が形成されていた。
「こら!ダメじゃない、ユキ!捜査資料ファイルの上にプリンのカップを置いちゃ」
「……大丈夫、中身落としてないから」
「落とす落とさないの問題じゃありません!いいですか?これは後から皆さんが見ることになるんですから、
丁寧に扱わないと」
「面倒くさい、ミカ、オレンジジュース頂戴……」
「だーかーらー!まずはファイルを直してから……」
身長の低い女の子が綺麗なお姉さんに食事時のマナーについて叱られている。
叱られている側が無表情で複数のファイルを読みながらおやつを食べているようだが、
デスクの上がファイルだらけになっており、とても食事できるデスクだとは思えない。
真面目なのか不真面目なのかわからない様相を呈している。
逆にお姉さん?は真面目そうではあるが、手に女の子から指定されたオレンジシューズを持って用意しているのだから、
叱っている意味はあるのか?と聞きたくなる。
これらの人間たちを見て、風間すみれの中で育んてきた能力対策特務二課へのイメージは
粉々に砕け散った。
「な、なに…これ」