囚われ星女 2
「お嬢ちゃん、おかわりは自由だからね」
それなら安心して食べられるわね。
食事は美味しかったが、彼の取り分けてくれる量が足りなかったので、明日はもう少し食べたいと思った。
けれどローダスが隣にいるのに、彼よりお腹いっぱい食べたいなどと食い意地を張るわけにはいかない。
「眠れない?」
「ええ……」
すると彼がよく眠れるおまじないといって頭をなでてくれた。
それにしても彼はどうしてこんなにも私に優しいのかしら。
彼は私よりも疲れているはずなのに、朝まで起きていると言ってくれた。
その優しさに申し訳なさなのか、胸が苦しくなる。
もしもこの旅が終わった時、彼にお礼の気持ちを伝えたい。
けれど、それはかなわないないことかもしれない。だって捕まったらどうしよう。
ベッドに入ったものの、不安で目が冴えてしまった。
けれど、眠らないと体力が回復しないのに……。
そんなことを考えていたからか、私はいつの間にか眠りに落ちていった。
翌朝になりローダスにドアのノックで起こされ目を覚ますと、朝食の準備ができていた。
昨日と同じように私の皿を彼が取り分けて用意してくれたのだが、今度はパンもスープも普通の量だった。
「昨日は君の好みの量がわからなくて、少なかったよね」
「やっぱり小食のほうが可愛い……?」
「そんなことは思ったことないさ」
きれいに完食して彼に微笑むと、笑みを返される。
それから私たちは粗野でありながら秘密は洩らさなそうな、誰も使わないであろうボロ馬車に乗り込んだ。
しばらく揺られながら、見つからないように祈っていると、やがて村が見えてきた。
村は木柵で囲まれていて、その中に家々が立ち並んでいる。そして広場には子供たちが遊んでいる姿が見えた。
カーテンの隙間から私達が見ていることに気が付いたのか、男の子たちがこちらに向かって手を振っている。
顔が見えないように気をつけて、それに静かに手を振り返す。
いつの日か、表を歩けるようになったら、こんな心配せずに笑顔で手を振り返したい。
そのためには、王子ヴェルダースのいる宮殿へたどり着き、フラワーの悪事を白日の下にし、星女任命の負のシステムを壊す。
今はまだその時ではないけれど、いつか必ず……。私は彼を見ながら、自分の心にそう誓った。
やがて私たちを乗せた馬車は村を通り抜けていく。
このまま進めば、あと二時間ほどで首都に着くはずだ。
首都に着いたらまず飲食店を探してそれから昼食を食べようと彼が言う。
けれど食事よりまず王子の元へ助けをねがったほうがいいのでは?
そう思うけど、おなかが鳴ったら恥ずかしいし頭がまわらないかもだ。
首都に近づくにつれて民家の数が増えてくる。
建物は土造りやレンガの建物が入り交じり、畑が広がっているところもあれば、牛や馬がいる牧場もある。
途中、大きな川にかかった白い橋を渡ると、そこには大勢の人が行きかう。
あぁ、懐かしいな……。景観は少し違うのにこの風景を見るとどうしてもフラワーの外れの田舎を思い出す。
私が生まれ育った国はフラワーだが、普通の女の子なら見られたのはこんな景色だっただろうか……。
きっととても平和な国だったんだろうと思う。
そんなことを考えていると、馬車が急停車した。
何事かと思って外を覗くと、一人の男性が道端に座り込んでいたのだ。
彼は膝を抱えて座っていたのだが、私達を見て立ち上がると両手を広げた。
ローダスが剣に手をかけ警戒する中、男性はこう言った。
「殿下がお待ちです。あなたがたのことはフラワーから他国にも隠密的な通達の情報がありました」
「引き渡すおつもりですか?」
ローダスの後ろに不安になりながら隠れた。
「あいつはそんなことしない。友を信じよう」
そういわれて、使者についていくことにする。意外と早く国王と謁見できるらしい。
「ローダス! お前、姫君をかどわかすなど、とんでもないことをしたな!」
王子は友との再会を喜ぶより早く、開口一番にとても怒り狂って叱責した。
「それは……誤解だ」
ローダスはさすがに父親に先手を打たれて、ヴェルダースの父王から援助はとがめられることだろう。
「父上のお手を煩わせるわけには、お前たちを地下牢へ送る!」
「そっ……そんな……」
もう二度と外へ出られないかもしれない。やはり高望みだったの?
「私……教会に閉じ込められていたんです! 彼は悪くないのです!! お姫様でもなければ普通の村の子で、星女なんて言われる器じゃありません!」
思わず叫ぶと、王子の顔色が変わった。
そしてヴェルダースは父王に確認をとってくると言い残して去っていった。
ローダスはホッとした顔をして、大丈夫だと私の手を握ってくれる。
「星女とされ選定されたものは本来外回りや民へお披露目があるはずなのだが、閉じ込められていたというのはおかしい」
ヴェルダースの父王が部屋に入ってきて、王子に告げる。
けれどその疑問はすぐに氷解することになる。理由はローダスの父親による一方的な独断選出だった。
「ローダスの父はある女に好意があった。それがそなたの母親であろう」
スターリリーの母は彼女を生んですぐ死んでいる。
彼女は貴族の娘ではあれど当時王太子であったヴェルダースの父とは身分の違いから結婚はかなわなかった。
そんな彼女に友人の男、つまりローダスの父、フラワー大公が迫った。
彼女はすでに誰かとの子を身ごもっておりスターリリーを隠れて生んだのである。
「そなたはおそらく、余の娘だ」
「え?」
それはつまり、ヴェルダース王子が母親が違う兄妹、あるいは姉弟ということだ。
「この国では星女などはいないが、能力の有無を判定する魔石感知はある」
その石をヴェルダース王子が私の額にかざして、光具合を確認する。
「ふむ……光らない。星女ではないな」
私は大公にそんな選定をされていない。やはりあの男による不正だった。
「それをフラワー大公、そして民の前で白日の元にしよう」
「でもローダス。あなたの父親よ……あなたにも被害が……」」
「かまわない。君を開放できるならこの身がどうなってもいいさ」
「父上……妹が早くも嫁にいってしまった」
「これ、ヴェルダース。王子が泣くでない」