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三男と災難な村娘 1

朝起きて、リビングに行くと、胃を押さえる父とにこにこと機嫌の良さそうな母がいた。

嫌な予感しかしない。両親が笑顔のときはいつも碌なことがない。


「縁談が来たわよ!しかもお金持ちよ!」

突拍子もなく何度も縁談がきたと言い続ける母に寝起きから覚めた私が呆れる。

金持ちが庶民に縁談を持ちかけるわけがないだろう。


「お城も持っていたのよ~」

「え!?なにその笑顔…嫌な予感がする」

城を持つほどの金持ちなら尚更あり得ない。


「ふふ…魔王の息子さんよ!」

「魔王の息子ですって!?やだ!!絶対やだ!!」

縁談が嫌なわけではないが、森に城を構え、怪しげに暮らす恐ろしい魔王の息子など持っての他すぎる。


「父さんも反対だ!!」

普段は話さない父がだらだらと汗をかきながら言った。

「反対したいならあなたが魔王にでもなったら?」

父は母に言い返せない。


「もう仕方ないじゃない、魔王よ魔王、断れないわ案ずるより産むが易しよ」

そんな適当な考えで一人娘を魔王の城に売り飛ばすなんて楽観的すぎる。


「なんでそのお偉い魔王様が平民の庶民の代表ともいえるあたしなんかと大事な息子を結婚させようとしてんのよ!」



「なんかね、貴族の娘さんに縁談持ちかける筈が失踪しちゃったらしくって」

「はあ!?そのお嬢様を見つけたら済む話よね?」


お嬢様が失踪中に亡くなったならまだわかる。

生きているなら探し出せばいい。

そんなに直ぐに結婚をしなくてはいけない理由があるわけでもないだろう。


「うーん魔王様の息子さん、三男坊なんだけど、なんとご令嬢は長男といいかんじになっちゃったのよ~」

「はあ!?」

こうしてあたしは魔王の城へ強制連行された。


城に到着した後、相手は会いにこなかった。


「逃げた!?」

「奴までもが姿を消した…となればこの話はなかったことにする」

あたしは何をしに来たのか、まるで道化のようである。


しかたなくあたしは村に帰る。

「無事でよかった…」

皆涙ながらに迎えてくれた。



「湯が温いな…ちょっと薪を見てきてくれ」

「はーい」

暗くて見えにくい家の裏にまわる。


暗闇にキラリと何かが光った。

そこに誰かがいるのだけはわかる。

「誰!?」

「しっ」

叫ぼうとしたけど後ろから両腕で羽交い締めに近い形で口を覆われて息がつまる。


「大丈夫、別に怪しいものなんかじゃないよ」

この男が怪しいかそうでないかなんて今はどうでもよかった。


「とにかくはなしてよ!」

悪気はなさそうだけど弁解に気をとられてまったく放してくれそうもないので自力で抜け出した。


「あ、ごめん許してこの通り!!」


ぱん、と音がしたから手を会わせて謝っているんだと思うけど、ここは暗闇で普通なら光る物なんてないはず。


「あの、気になってたんだけど、なんでそれチカチカ光ってるの?」

「…宝石のこと?」

宝石が暗闇で光るわけない。

宝石とは縁のないあたしでもわかる。


「これは特別な石だからあまり気にしないで」

「気にしないで、じゃないわよ余計気になる!!」

しかし男は話してはくれない。


「実は俺結婚させられそうなんだ」

「おめでとう!私は今日結婚相手にすっぽかされたけど!」

のろけではないとわかっていたけど、気がつけばついこの男に八つ当たりをしていた。


「すごく親父に怒られる!君を結婚相手に連れていけば帰れそうなんだよ!」

さすがに頭にきて男のいる場所を探り、肩あたりを掴んだ。

そこから手首のある位置まで特定して手首をつかんで明かりのある家まで引いていった。


「サレイナ、おそかったな」

「これ裏でコソコソしてた獲物なのよ」

「獲物って…」

父の前に怪しい男をつきだした。


よく見ると金髪で金持ちそうな服を着た優男。

女をだまして稼ぐ類いのようにも見えてくる。


「その肉は脂がのってないじゃないか…」

父の視線の先にある後ろを振り替えると、母が肉の脂身を取り除いていた。


「なんで俺を豚扱いするんですかお父さん」

うさんくさい男は自分のことと勘違いしている。

「誰だ!お前にお父さんと呼ばれる筋合いはない!」

普段温厚な父までキレた。


「じゃあ焼いてソースをつけましょうか!」

獲物の件は冗談のつもりだったのにが母が悪乗りして男にソースをかける。


「いやあ、すまないね君名前は?」

よごれた服を着替えた男が少し沈黙した。


「…リンドです」

「本当の名前かどうか怪しい薄情しなさい」

「本名だって」

とりあえず話が進まないので追求はやめた。


「しばらく家で畑仕事をやって貰うのはどう?」

「はあ?」

母が突拍子のないことを言い出した。


「部屋もあいていないだろう…」

「じゃああなたと彼を相部屋にすればいいわ」

さすがの母でも男と相部屋にしようなんて言わなくてよかった。


「普通にリビングの床で寝ますよ」

この男が私の部屋で寝るなんて言い出さなくてよかった。




早朝、サクサクと土を耕す音が聴こえてくる。あの男に畑仕事が勤まるかしら。


どれどれ。お手並み拝見と――――

なぜだろう。クワがひとりでに動いている。


「あ、おはようサレイナ」

「おはよう……ってなによこれは!」


畑が綺麗に耕されているじゃない!


「魔法でやったんだ」

これが世に聞く魔法か、初めて見た。


「ってことはあなた。やっぱりただの浮浪者じゃないわね」

魔法なんて使える人間はこんなド田舎村にいない。


「バレちゃった?」

「大バレよ。こんな田舎で魔法なんか使ったら普通じゃないわ。隠れてるんじゃなかったの?」


「そうだとは知らなかったなあ、魔法なんて誰でも使ってるかと思ってたよ」


リンドはため息をつきながらクワを下ろした。


「そろそろ、どうして結婚から逃げ出したのか聞いてもいい?」

「――結婚相手は自分できめたいからだよ」


リンドから腑抜けた表情が消えた。


「うちの一番上の兄は家を継ぐのを止めて、貴族のお嬢さんと運命的な恋に落ちた。

二番目の兄は放浪して消息がつかめない。だからオレが家を継ぐしかないんだ。

それはもうしかたないし、どうせ結婚するなら好きな相手がいいからさ」

リンドはクワを壁に立て掛けて、家の中へ入っていった。


彼の家の事情は私には関係ない。どうせ貴族はお気楽に優雅な生活をしているんだろう。

なのにどうして彼は、家を継ぐのがいやなのだろうか―――



『運命的な恋で――』


――運命的な恋とかそんなのあるわけない。

本気で信じているやつは頭がフワフワのケーキか綿の庭園に違いない。


「お貴族さまって政略結婚でしょ。相手が貴族だからって普通は長男が後継ぎなんだから探して別れさせたら?」


平民の場合は利益とかはそんなにないので大体が近所の幼馴染とかと結婚する。

だがお姫様達は隣国に嫁いだり、釣り合う身分で纏まるものだ。


「君は村娘なのに、案外シビアなんだね」

「村娘だからよ」


隣村の少女が騎士になり良い家に嫁いだり、魔王になったとか、妖精の国へ失踪しただの、うさんくさいような私には縁のない話は信じない。


――ついこの間の魔王の息子との結婚がなくなったことも含めて狐につままれたのだから。


「それに勘違いしてるみたいだけど僕の家は貴族じゃないんだよね」


――じゃあ長男は婿にいったようなものなのだろうか?


「お金にこまってはいなそうだし、豪商?」

「まあそんなところかな」


言いたくないならまともな嘘くらいつけばいいのに、変にはぐらかされたら気になる。


「よーサレイナ」

「久しぶり~」

「いがいと元気そうね」


幼馴染のジョンとハンス、その従妹ジェシカがやってきた。


「みんな、今日はどうしたの?」

「えーっと結婚すっぽかされてへこんでると思ってさ」

「ジョンったら喜んでたんだよ~」

「え……」


私が惨めな思いをして喜んでたですって!?


「でもサレイナ、魔王の息子と結婚なんてなくなって無事に帰ってこれただけでもよかったじゃない!」

「それは……」


たしかにジェシカのいうように魔王の息子と結婚なんて怖くて嫌だった。

村の為に犠牲になるだなんて真顔で言えるような聖女様ではない。


「ところでそいつ誰だ」

「なんか都会って感じの人だね」

「かっこいいけどヒョロっちいしベブ=サット様には負けるわね!」


ジェシカはゴリマッチョ男がお好きらしい。

彼女等とは10数年の付き合いだが今日はじめてしった。


「あーえっと」

「押し掛け婿ってやつかな」


――リンドが背後から私に抱きついた。


「新しい恋人が出来てよかったじゃない!帰りましょせっかくの新婚を邪魔したら悪いわ」


ジェシカとハンスは何か言おうとしていたジョンを引っ張りながら去った。


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