偽兄の狂愛 1ある青年と少女の話
ある村の小さなレンガ作りの家に優しい青年と八歳の少女が住んでいた。
「どうしてお外に出てはいけないの?」
幼い少女は青年に尋ねる。
少女は外に出歩けない立場である貴族のお嬢様でもないし、怪我や大きな病すらかかったこともなく健康で、育ち盛りの少女は他の村の子供達のように外で同じ年の友達と遊びたいのだと言う。
「外の世界は危険だからだよ」
『うわあきれいな街だね父さん!』
無口な父は笑ったままこくりと頷く。
少年は自分の住んでいる田舎とは違ってきらびやかな観光地の街を走り出す。
『あまりはしゃぎすぎないでねー』
母親は少年が転ばないか心配そうに見ている。
一人で走り、疲れて立ち止まった少年は、両親の姿がないことに気がついて不安になる。
知らない場所で道に迷ってしまった。
こんな広い都市で見つかるだろうかと泣きそうになる。
『ボク、どうしたの?』
女性が今にも泣き叫びそうな少年に優しく声を掛けた。
少年は迷子になったと目に涙を溜めて話す。
『そっかじゃあおばさんと一緒に探そう?』
差し出された手を繋ぐ。
『美人なのにお姉さんじゃないの?』
『最近姪っ子が生まれたからね~』
女性は明るく笑っている。
少年も一人ではなくなって落ち着いた。
『あ、私エルシアって言うんだ。ボクは?』
『一体誰がこんな…』
ついこの間まで美しい外観だった街中がおぞましい火に包まれている。
何者かが火を放ったことは確かだ。
中流家庭の少年は家族と共に大きな都市へ遊びに来ていた。
しかし到着した大都市で残酷な光景を目の当たりにした。
年も十ほどで、まだあどけない少年は、燃え盛る炎に包まれている人々や家を目に焼き付けてしまった。
少年は家族と安全な場所に引き返す。
『うっ…』
近くには赤子を抱えて必死に逃げる若い女性がいた。
火の手の弱い場所に着くと女性は倒れた。
『…お姉さん大丈夫?』
よく見ると少年とは顔見知りの人だった。
赤子の両親は逃げ送れて、たまたま外で赤子の面倒を見ていた叔母である彼女が赤子を連れて逃げてきたのだと言う。
『どうか…この子を安全な場所に…お願いします…』
煙を多く吸ってしまったのか女性は咳混じりに今は自分では育てられないと少年の母に赤子を手渡す。
理由は言われなくても察することが出来た。
女性は煙を吸い過ぎてこのまま放ってしまえば永くは生きられない状態だと。
『わかりました』
父は自分達が代わりに育てると神妙な面持ちで女性に言った。