#7:大変! ママになっちゃう!
寒い季節になってきた。
吐いた息はまだ白くならないが、毎朝少しずつ起きるのが辛くなっていく。もうしばらくしたら、本格的に寒くなるだろう。
冬に備え、彩芽は編み物を始めた。
自分で使うものではない。これは修司に渡すためのものである。
実は、修司の手袋は四月に降った季節外れの雪で遊んだ際に汚れてしまい処分してしまったのだ。
だから今、修司は手袋を持っていない。日本の冬に対するにあたり手袋を持っていないのは、辛いだろう。
だから彩芽が、修司のために手袋を編んでいるのだ。授業中先生の目を盗んだりはしていない。教科書を立てて必死に編まずとも、彩芽は器用なので空いた時間にチョチョイとできてしまう。なので、何回もやり直して毛糸がボロボロになったりもしない。
しかし、なんだ。
修司のことを考えながら手袋を編んでいると、鼓動が早くなってしまう。彼がこの手袋をはめて生活すると考えると、何か言葉にしがたいときめきを感じるのだ。これが、恋する乙女心というものなのだろうか。
前の人生でまともな恋をしたことがないので、多分、前の人生も含めてこれが初恋だ。
彼は、一体どんな顔をしてこの手袋を使うのだろうか。この手袋を、どんな気持ちではめるのだろうか。考えるだけで、心が躍るし、不安にもなる。受け取ってもらえなかったら、どうしよう。
そんな感じで胸をときめかせながら、手袋は完成。初めてのわりにかなりうまくできていると思う。
かわいくラッピングして、完璧。どこに出しても恥ずかしくない出来だ。
ちらりと時計を確認。もう二時間ぐらいで日付が変わる。この時間ならまだ修司は起きているだろう。
果たして受け取ってもらえるだろうか。
※
まあ別にノックはいらないだろう。
「修司、ちょっと――」
「!?」
扉を開けると、修司は机に向かっていた。左手で何やら布を顔に押し当て、右手で……これは!
あれ、なんかデカくない……? 前の人生で自分のモノがどれぐらいだったかちょっと思い出せないが、ここまで大きくはなかった気がする。
本当にあんなの入るのかちょっと怖いが、よく考えたら今はそれどころじゃなかった。
いや、なんでそれどころではないのかすらわからないが、とにかくそれどころではなかった。
身体が、動かない。
弟の怒張から、目が離せない。
それにこの胸の高鳴り。症状からすると多分、ものすごく緊張しているのだと思う。だが、なぜ?
自らのパンツが弟のオカズにされる。それは自ら仕組んだものだ。それに今弟がやっていることは、前の人生では自分が毎日していたことだ。
自分でするのと他人のを見るのとでは違うのかもしれない。だが、それでもここまで緊張することではないはずだ。
そんな激しい緊張の中、弟の一言で我に返った。
「お、おい、クソッ、勝手に入ってくるなよ!」
「あ、ご、ごめん……」
謝りつつも、出ていこうとはしない。更に踏み込んで、後ろ手で扉を閉める。
この胸の奥にある抑えきれない衝動が、彩芽の歩みを止めることを許さない。
「修司……もっと見せて……」
気づけば彼の顔は目の前まで来ていた。
※
「もっと見せて」 が 「手伝ってあげる」 になり、その後 「私のも見て」 までエスカレートし、遂には 「私にもちょうだい」 になった。
あと、どさくさに紛れて 「ずっと前から好きだった」 って言ったら 「俺もだ」 って返ってきた。これは合意と見てよろしいですね?
想いを伝え合ってからは、より激しく求め合った。初めてだというのに、お互い何度も達した。
両親が今日明日と家を開けていて助かった。確か、社員旅行と出張が重なったんだったか。
因みに明日は創立記念日で学校が休み。巡り合わせの奇跡である。
「もう動けない……今日はここで寝る」
腰を抜かした彩芽は、修司のベッドでそう言った。
身体は、正直言ってとても疲れた。マラソンなんかよりよっぽど疲れた。
だが、心は満たされていた。
愛する修司と一つになれたことが、本当に嬉しかった。
致した余韻に浸っていると、不意に修司がぶち壊しなことを言い出す。
「そういや姉ちゃんはなんで入ってきたんだ?」
なんかこう、もっと気の利いた言い回しはないのかとも思ったが、まあこいつはモテないので許してやることにした。
「ああ、そうそう」
修司の机に放置してある紙袋を指し示し、言う。
「アレをあげにきたの」
「なにあれ」
「……手袋」
折角のプレゼントだというのに、情緒のない会話だ。もう少しロマンチックな言い回しはないものだろうか。
まあ、でも、いいか。
いろいろすっ飛ばしたが、目的は達せたのだから。
いや待ってまだ責任取るって言ってもらってない。
と言うか今妊娠したらまずくないか。