#4:不法侵入! お姉ちゃんに構いなさいっ!
夏だ! 海だ! 水着だ!
しかし、特に修司との仲は進展しなかった。
修司は姉の彩芽を差し置いて、自分の友達とずっと遊んでいた。朝から晩まで家を開けていたことも多く、一日中口を利かないどころか顔すら合わせない日もあったほどだ。
これは気に入らない。
非常に気に入らない。
姉というものがありながら、放ったらかしにして友達とばかり遊ぶなどと、断じて許せることではない。
これは正当な怒りなのだ。
なので、勝手に修司の部屋に入り、盗まれたパンツを回収しておいた。
修司はパンツ窃盗がバレていないと思い込んでいるようなので、ここで横っ面を叩いてやるのだ。
取り返したのは、端がレースになっているピンクのパンツ。お気に入りなのだが、しばらく盗まれたままだったため、最近穿いていない。
白濁液で汚れていたりするかと思いきや、目立った汚れなどはなく、綺麗なままだった。見つけた時も綺麗に畳まれていたので、それなりに大切にされていたであろうことが伺える。
まあ盗んだ時点で最低なのだが。
汚れていないということは、多分、修司はこれを掴んで臭いを嗅ぎながら、彩芽の事を考えて……致しているのだろう。
集中して嗅いでみると、クロッチの部分にかすかに修司の匂いが染み付いている。まさか彩芽の匂いだと思っていたものが次第に自分の臭いになりつつあるとか、夢にも思うまい。哀れな奴だ。
「修司の匂い……」
嗅いでいると、自然と心拍数が上がっていくのが感じられる。
この彩芽のお気に入りのパンツを用いて、修司が毎晩致している。そう考えると、不思議と体の芯が熱くなっていく。
「はぁー……、はぁー……」
体が熱い。
息が荒くなっていく。
左手が、修司の匂いが染み付いたパンツを、必死で鼻孔にこすりつける。
手持ち無沙汰な右手の指が、行き場を求めて彷徨う。
その指が行き着く先は、男も女も同じだった。
※
やらかした。三回ぐらい。
自分のパンツに染み付いた弟の匂いでするとか、ただの変態だ。
しかもなんか、やたら媚びた声で 「愛して」 だの 「抱いて」 だの漏らしてたし……死にたい。
あ、やっぱり駄目だ。ここで死んだら多分もう次はない。一回死んでいるのだし、迂闊なことは言わないほうがいいだろう。
それにしても、なんだ、この体たらくは。
こっちは誘惑しているはずなのに、これではまるでこちらが恋焦がれているようではないか。
自分の目標は、飽くまで前の人生の目標の達成。弟に中出し孕ませックスされて責任をとってもらうことだ。そこを取り違えてはいけない。
決意を新たに、とりあえずパンツを洗濯カゴに放り込む。よだれで汚してしまったのだ。
※
今日も修司は日が暮れるまで帰ってこなかった。
こんな時間まで、一体誰と遊んでいるのだろうか。
まあいい。
とりあえず普通に接して、修司が習慣的に致そうとする時間帯――午後九時以降の数時間を待つ。いつものように致そうとした修司が、パンツがないことに気づく……という寸法だ。
焦った修司の反応が楽しみである。
にやけつつゲームをしながら時間を潰すこと数時間。
なんだか修司の部屋から物音が聞こえてきた。パンツを探しているのだろう。
愉快痛快。焦った修司の顔が目に浮かぶ。
どれ、その姿を直接この目で見てやろうと、修司の部屋まで遠征することにした。
すぐ隣の修司の部屋。とりあえずノックはするが、返事は待たない。
「どうしたの、こんな時間に」
そんな白々しいセリフを吐きながら、遠慮無くズカズカと上がり込む。
「ね、姉ちゃん!?」
彩芽の姿を見た修司は、パンツ丸出しの情けない姿のまま固まっていた。多分、下半身を丸出しにしてから彩芽のパンツがないことに気づき、パンツだけ穿き直したのだろう。
普通はその姿に突っ込むところだろうが、ここではあえて触れないことにする。
「なんか探しもの?」
訊ねると、修司はオロオロとしながら否定する。
「い、いや……べ、別に……」
「ふーん……」
部屋の中をわざとらしく見回してやると、修司はビクリと身を震わせた。やばい、超楽しい。
そのまま、何も知らない姉のフリを続ける。
「すぐ使うなら、貸してあげよっか?」
これは我ながら秀逸だったと思う。
「……い、いや! いいから! とっ、とっとと出てって!」
過去最高に取り乱した修司は、彩芽の背中を押し、部屋の外まで押し出そうとする。まあ特に抵抗する流れでもないので、素直に押し出されてやった。
ドアが閉められると、こらえていた笑いがわずかに漏れる。
「ふふ……」
ああ、楽しかった。
あの慌てっぷりは傑作である。
その上、明日辺りに干してある彩芽のパンツを見て絶望するというコンボ付きだ。修司視点では、母にバレたのか姉にバレたのか、はたまた父にバレたのかわからないところもポイント高いだろう。
いやあ、実にいい気味だ。スッキリした。
姉を放ったらかしにしていたのだから、当然の報いであろう。
これに懲りたら、もう少し姉に構うのだな。