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#3:テスト勉強! お姉ちゃんに任せなさい!!

 風呂あがり、ユルユルのタンクトップ一枚と短パンで扇風機を浴びていると、修司にこんなことを言われた。

「……勉強教えて」

 中学時代には勉強を拒否していた修司だ。こんなことを言うのは、正直、意外である。高校生活二度目のテストが近づいたからだろうか。

 まあ、改めて考えれば、心当たりはある。

 恐らく、最初の中間テストの成績を母に咎められたのが原因だろう。なかなかの進学校であるこの学校は、勉強をサボれば当然のように成績も落ちる。

 その上、彩芽が最初の中間テストで学年八位をとっているのも効いているのだろう。

 これは好機。これまで勉学に励んできた甲斐があったというものだ。

 人生やり直したら勉強は楽になるというイメージがあるが、実際にやってみたら案外そうでもなかった。前の人生よりも難しい学校に入ったことと、結構細かいところを忘れていたこと、そもそも前の人生が高校生で終わっていることとが相まって、普通に頑張らないと全然ついていけなかったのである。人生なかなか甘くない。

 しかしその結果がこれなので、結果オーライと見ておくべきだろう。弟に勉強を教えるというのは、一緒にお風呂に入るのと同じぐらい王道を往く姉イベントだ。

「わかった。いーよ。オッケイ。いつでもこい。今からでもいいよ」

 二つ返事どころか五つ返事した。表面上は平静を装っては居るが、内心はテンションマックスだ。

 それもそのはず。一緒にお風呂はこちらがアクテイブに攻めたのだが、今回は別にこちらから持ちかけた話ではない。前世で恋い焦がれたシチュエーションをパッシブに引き寄せる……感慨深いものである。

 生きててよかった!

 まあ一回死んだけど。

「今から……そうだな、頼む」

 かくして、家庭内家庭教師イベントが始まったのであった。



「そう、そこは式の展開。よくできました」

 受験時にこってり絞っただけのことはある。基礎ができているので、少し教えただけでも結構できるようになっていた。

「これぐらい余裕だ」

 少し褒めただけで、修司は調子に乗り始めた。

 座った椅子をグルっと回転させて彩芽の方へ向き、自慢気に言う。

 その得意げな顔は、久々に見た褒められた時の顔だった。

 そんな彼を見下ろし、考える。

 思えば、スパルタお姉ちゃんをやっていた頃はあんまり褒めていなかった気がする。あの時は焦りからかこちらも余裕がなかった。その反省を活かし、これからは飴と鞭をしっかり使い分けていこう。

 それはそれとして、増長されるとムカつくので釘を差しておく。

「その余裕の範囲で母さんに怒られたのは、一体どこの誰かな?」

「う……」

 今やっているのは、期末テストの範囲であり、同時に中間テストの範囲でもある。もっと言えば、ちょうど修司ができていなかった部分だ。

「まったく……。ちゃんとやればできるんだから、これからはキチンと勉強しなさいよね?」

「うう……」

 鞭の次は飴。

 修司のデコに指を立て、少しかがんで目線の高さを合わせる。

「わからなかったら、お姉ちゃんが教えてあげるからさ」

 一体これのどこが飴なのか、わからない人も居るだろう。

 ヒントは、今の彩芽の服装である。察しのいい読者は、既に気づいているかもしれない。

「……」

 修司は無言で、わずかに視線を逸らす。逸らす、が、チラチラと彩芽の胸元を見ている。

 ここまでくれば、ほとんどの読者は気づいただろう。

 ここで言う飴とは、つまり胸チラである。タンクトップがユルユルなので、チラどころかモロの可能性も、あるにはあるのだが……彩芽には確認できないので、わからない。

 胸チラを、チラチラと覗き見る修司。初い奴め。全て彩芽の掌の上だというのに。

 修司に今晩のオカズを提供してやったところで、次の問題に移る。

「さ、次の問題。このページの問い五、やってみて」

「……ヒントは?」

「例題三」

 こうやってすぐにヒントを求めるのは、修司の悪い癖かもしれない。ただ、これは彩芽が教育方針を間違えたのも一因だったりする。

 彩芽は、勉強については効率主義者である。本当にわからないものをずっと考えているよりは、答えを見てやり方を学ぶタイプの人間だ。無論、ただ機械的に答えを見るだけでは無意味なことも知っている。だから答えの冊子に正答しか載ってないワークブックは燃やすね。

 というわけで、受験勉強をさせていた時、修司が本当にわからなさそうな顔をすると、あっさりヒントを教えていたのだ。

 受験勉強なんて大したものではないし、早く仕上げる必要があったので、その時はその方式を採用することに何の抵抗もなかった。

 だが、今は違う。

 ヒントから答えを導き出し、その過程をモノにすることも、確かに重要だ。

 だが、それ以前に、自分でヒントや手がかりを探しだす技能も、同じぐらい、あるいはそれ以上に重要なのだ。

 彼の将来を考えれば、その技能を習得しないまま成長させるのは決して良いことではない。

 そろそろ、ヒントを出し渋るべきだろう。

「うーん、ここがわからん。どうするんだ……」

 そう、彼はいつもこうしてヒントを求めるのだ。学校の成績だけを見るならば、ここでさっさとヒントを与えるのが手っ取り早い。

 が、ここは心を鬼にする。

「自分で考えてみなさい。大丈夫、ここまでの範囲でできるから」

 夏の香りが近づく頃、弟の将来を憂い、姉は教育方針を改めるのだった。

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