#2:お風呂に乱入!? お姉ちゃんが背中流してあげる!
彩芽は、優しい姉だった。
過去形なのは、無論、今は違うからである。
あんなに優しかった姉は、ある日を境に急に口うるさくなった。多分、母よりもしつこく勉強しろと言ってきたと思う。
まあ、そんな姉のおかげで圏内でも良い方の高校に入れたので、多少は感謝しているが……しかし、素直に礼を言う気にはなれなかった。
※
同じ高校になったまでは良かったものの、修司はあまり口を利いてくれなくなった。
まあ、あれだけ口うるさく勉強しろと言ってきたのだから、当然だろう。反感を持たれるのは、当たり前だ。
だが、彩芽としてはそれでは困る。
なので、彼の入浴中に突撃することにした。
両親の夜勤が重なり、二人しか居ないある日の夜。
「私もお風呂入る」
何も隠さずに風呂場に突入すると、修司は慌てて身体を隠した。
「なっ!? ね、ねねね姉ちゃん!? なんだよいきなり!!??!」
そう、この反応だ。
「背中流してあげる」
「しなくていいよそんなの……」
「入学祝い、あげてなかったでしょ?」
まあ口実はなんでも良かったのだが、あまりにも雑すぎると変に訝しまれてしまうので、飽くまで自然なものをチョイスする。
「い、いや、いらねえから……」
拒否する修司は、目を伏せている。どうやら姉の裸を観るのが恥ずかしいようだ。初い奴め。
だが、だからこそこの作戦が効く。
「いいからっ」
修司の手から、無理やり洗いスポンジを奪う。その際、彼の背中に豊満なバストを押し付けることも忘れない。我ながら完璧な作戦だ。
そして、スポンジを奪われた修司は、当然のようにこちらを向く。スポンジを奪う手の動きで視線を誘導し、絶妙なタイミングで彼から離れる。
修司の目に映るのは、一糸まとわぬ彩芽の肢体である。
彩芽は知っていた。男子高校生は、生おっぱいを見たら三日はそれをズリネタにするのだ。
そして、男子高校生は性欲と恋愛の境も非常に曖昧である。
このぐらいの年齢の相手に、逆セクハラは非常に有効なのだ。
加えて今回はおねえぱいの感触も味あわせてやったので、多分一週間ぐらいはズリネタにするだろう。
「あっ」
姉の身体をガン見してしまった修司は、慌てて視線を戻す。そして、音の反響する風呂でなければ聞き逃してしまいそうなほどに小さな声で、こう言った。
「……ごめん」
どうやら罪悪感があるらしい。どこまでも初心なやつだ。
謝罪は聞こえなかったことにしつつ、奪ったスポンジで修司の背中をこする。
「こうして二人で入るの、何時ぶりだろうね」
不意にそんなことを口走っていた。
計画にないセリフだが、まあ定番なので良しとする。
「し、知らねえよ……」
修司は顔を伏せたまま、ぶっきらぼうに答える。
対して、彩芽はグイグイと掘り下げていく。
「小学校……いや、中学校だったかな……」
修司が小学五年生になる前ぐらいまでは毎日一緒に入っていたはずだ。だが、中学の時一度だけ一緒に入った覚えがある。確か、土砂降りでずぶ濡れになった時だ。どちらが先に風呂に入るか決めかねていた時、母がなら一緒に入ればいいと言ったのである。まあ誘惑チャンスではあったのだが、彼の精通を確認していなかったので控えた。
「覚えてる?」
訊ねるも、修司の反応は芳しくない。
「いや」
「そっか」
残念。
まあ、ごめん、覚えていないとか言われるよりはマシだが……。
(待てよ、もしかすると覚えてるけど照れ隠しで言ってる可能性があるな……)
人間は必ずしも本音を口にするわけではない。時として、悪意のない嘘をつくものだ。もしかすると覚えているかもしれないし、しつこく迫れば漏らすかもしれない。
だが、これ以上追求しても、思い出を共有どころか逆に嫌われそうなのでやめておくことにした。
会話が打ち切られたので、無言で背中をこする。
(背中おっきくなったな……)
多分、やり直す前の自分と同じぐらいには成長している。もう既に記憶が曖昧模糊どころか霧散しつつあるので、比較はできないのだが。
姉モノなら惚れるきっかけになるところだが、それはそれ。彩芽は逆に惚れさせる側なのでこんなことでは動じない。
前までしっかり洗って (ただし股間は拒否された) から、彩芽はいたずらっぽく笑みを浮かべる。
「よし、終わり……っと」
「……ありがと」
小声だが、しっかりと聞き取った。まだお礼を言われるぐらいには好かれているようだ。
ならこれも行けるかと、五段ぐらい次のステップ。
「次は修司の番ね」
言いながらスポンジを渡すと、しかし修司はそれを投げ捨てた。
「自分で洗え!!」
駄目でした。
余談だが、後日、お気に入りのパンツが紛失しているのを、無事に確認した。