別話2 後始末
私とタタさん達はリニックの街へと急いで向かった。早く行かないとワズさんが旅立つかもしれないからだ。かなりの早さで動いていたと思うのだが、タタさんも大きく呼吸を乱し、疲れているはずなのだが懸命に足を動かした。彼女も早くワズさんに会いたいのだろう。それは私も同じだ。だからだろうか、私は彼女への手助けも怠らなかった。魔法で足に風の補助を掛け、少しでも楽に動かせるようにしている。ライバルなのに変な感じだ。多分、真っ直ぐワズさんを求めている彼女の事が嫌いじゃないんだろうと思う。だから私達は互いのワズさんに助けられたエピソードを語り合った。
かなり時間を短縮してリニックの街へと辿り着いた。街へ入るには検問を通らないといけないのだが、まず私達エルフとタタさん達は目立たないように旅衣装のマントに付いているフードを被る。タタさんはこの街出身なのに何故被るのかを聞くと、どうも、前領主によって甘い蜜を吸っていた馬鹿な連中がワズさんへの仕返しのためにタタさんを探しているかもしれないと言うのだ。愚かな自業自得と言いたい。検問はギャレットさんの顔パスで通され、私達も特に調べられる事は無かった。そのまま、リニックの街へと入り、先ずは冒険者ギルドへと向かった。そこのマスター・レーガンならワズさんの行方を知っているはずだと、ギャレットさんは言う。だが、私やユユナ、ルルナの意識は別にあった。この街に入ってから、こちらを見ている視線を感じるのだ。ギャレットさんも気づいているみたいだが、今は気にするなと声を掛けられた。そのまま私達は特に邪魔される事もなく冒険者ギルドへと着いた。
「ワズの行方を知りたいだぁ?」
私達がギャレットさんに導かれるまま着いた部屋には頭に髪の毛がない男性が居た。その人物がこの冒険者ギルドのマスターであるレーガンだという。レーガンさんは私達の事情を聞くと困り顔になった。
「まいったな……アイツは今王都マーンボンドに居るはずだから、ここには居ないぞ」
既に旅立ったようだ。レーガンさんの話によると、オーランドという青年と共に王都に向かったという。共に居るのが女性ではない事にほっとし、ここに居ないという事に少し落胆してしまう。ただ、徒歩で向かったと言っているので、これから急いで馬車で向かえば王都で会えるかもしれない。今日はここまで旅の疲れを癒すために一泊して、明日の朝向かう事にした。私達は今すぐでも平気なのだが、タタさんは少し疲れているための処置だ。それに私1人が先に会うのは、なんというか抜け駆けしているようで嫌だった。会う時は2人揃ってじゃないと。宿の方はレーガンさんの奥様が運営している「風の光亭」を紹介されたので、そこで一泊するつもりだ。ワズさんもそこを利用していたので、なんとなくワズさんが泊まって居た部屋を利用したいと思うのは私だけだろうか?
これからの話が決まり、私達は宿へ向かうため冒険者ギルドを出たのだが、出た瞬間、私達は数十人の見るからに粗野な連中に包囲される。冒険者ギルドの扉の前にも人が配置され、逃げ場を封じられた。
「よぉギャレット!テメェが居るって事はその中の誰かがタタって事だろ?おとなしく差し出せば痛い目みなくて済むぜ!!」
連中のリーダー格だろうか?一番身なりがきちんとしている男がギャレットさんに言葉をかける。きちんとしていると言っても下品な顔までは隠せない。私達を値踏みするような視線には不快感しかなかった。おそらく、この連中がギャレットさんが言っていた前領主の甘い蜜を吸っていた者達なのだろう。
「タタを渡したら、どうするつもりだ?」
「決まってんだろうが!!俺達で散々可愛がって、あのくそ野郎の前に引き摺り出すんだよ!!」
まさか、くそ野郎というのはワズさんの事ではないだろうな……私は自然と体に力が入るのがわかった。持っている細剣へと手をかける。
「そんでなんつったっけ?……そうそう!あのくそワズをボッコボコに痛めつけて生きてる事を後悔させてやるんだよ!!」
私はワズさんの名前が出た瞬間、ゆっくりとその男へと向かって歩いていく。
「あっ?なんだテメェ?もしかしてテメェがタタか?」
「生きてる事を後悔するのは……」
「あ?何だって?」
私はその男の前に立ち、細剣を抜き放った。怒りを込めて。
「生きてる事を後悔するのは貴様だ!!!!!」
一瞬で私に斬られた男は血を撒き、その場に沈むように倒れる。私は細剣に付いている血を振り払うと、フードを取り、連中へと怒りの視線を向ける。
「自らの愚かな行動の結果を知るがいい!!」
その後は蹂躙劇だった。ネニャさんとルルナはタタさんを守るように戦い、ユユナは槍をもって連中を串刺しにしていき、ギャレットさんは剣で斬っていく。私は駆け回るように動き、細剣と魔法で一瞬の内に連中を1人1人斬り殺していく。気が付けば騒ぎを聞き付けた冒険者達も加勢し、マスターであるレーガンさんも嬉々として連中を殴っていた。連中はあっという間に誰も戦える者が居なくなり、この街の警備兵に連れていかれる。この街出身の冒険者達はワズさんに街を救って貰った恩を少しは返せたと皆喜んでいた。この騒ぎを見ていた住民からも歓声が挙がり、後の事はレーガンさんとギャレットさんに任せ、私達は宿へと向かい、そのまま一泊した。
翌日、私とタタさんはワズさんが泊まっていた部屋から出て朝食を取ると、ギャレットさんが用意してくれた馬車で王都へと向かう。レーガンさんの姉であるレライヤさんに会えば、ワズさんの動向がわかるかもしれないという情報と共に。
正直、宿屋道はきつかった……
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この後、リニックの街の新領主は住民の後押しを受け、レーガンがなった。善政をしき、元マスターとして冒険者ギルドと協力体制を作り、リニックの街の平和を守っていく。後に生まれるフレボンド王国から独立し、世界一小さな中立国となるのはもう少し後の話……
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