毒はおいしい
レーガン達にどうにか出来るかもしれないと伝え、俺は再び沼地へと赴いた。どうにかする方法を聞かれたが、その方法を伝える事はちょっと出来なかったので、曖昧に誤魔化した。レーガン達も森を焼くのが回避されるのならと深くは聞かれなかったが、念のため失敗した時の事を考え、結界は張って欲しいとだけ言っておいた。多分、上手くいくと思うけどね。程なくして沼地に着くと結界が張られていくのがわかる。大きな半球体状の結界が森を覆うと、俺は視線を沼地へと向ける。やだなぁ。やっぱやめようかなぁ。けど、森が焼かれるのはなぁ……よし、覚悟を決めるか。
俺は毒の沼地に顔を突っ込んだ。
……ゴクゴク……ぷはっ。
うまっ!!なんだこれ!!味は柑橘系の果物100%って感じで濃厚なんだけど、すんなりと喉を通って後味も悪くない。うん、いける。体のどこにも異常はみられないし、このまま飲み続ければ……飲み続けられるかなぁ……頑張ろ……
俺が試した方法は、完全に俺にしか出来ない方法だ。スキル「極食人」で毒の沼地を無くなるまで飲み続ける事だ。先程試したが「極食人」によって毒をおいしく感じるようになり、いくらでも飲める。ゴクゴク……量的な限界はあるが……ま、まだいける……また、おいしく感じるといっても飲んでいるのは毒だ。だけど、俺にはスキル「状態異常ほぼ無効」で毒は効かない。だから俺はこの方法を取った。周りに被害を出さず処理出来ると思ったからだ。ゴクゴク……ゴ……ゴクゴク……ウプッ。
ぐっ……ま、まだまだ~!!ゴクゴク……
ウプッ……へへへ……なかなか……うっ……
……ゴク……まだこんなに……
……ハァハァ……もうこの味飽きた……
……ゴクゴク……
……ゴク……
………………
……ズズ……
……ハァハァ、やった……俺はとうとうウプッ……とうとう飲み干してやったぞ。沼地があった部分は毒がかなり弱まっているのがわかる。俺は膨れ上がったお腹をさすりながら、満足感と満腹感を感じていた。後はレーガン達に言って処理してもらえばウプッ……大丈夫なはずだ。これで森を焼かずに済む。
俺がほっとした時、唐突に地面が光だした。光は粒子となり俺を包み込む。反射的に身構えたが、悪意のようなモノは感じられなかったので、そのまま暖かな光は俺に触れると俺の中に溶けるように消えていく。しばらくそのままで居ると、不思議な事に沼地を飲んで膨れ上がっていた俺のお腹がしぼんで、通常の状態へと戻る。おぉ!スッキリした。光の粒子はしばらく空気中に漂うと急速に動き、俺の中へと消えていった。なんだったのだろうか……
その後、レーガン達の所に戻り上手くいったと伝え、数人の冒険者と共に毒が弱まっている事を確認をし、後の処理を任せた。皆森を焼かずに済んで喜んでいた。レーガン含め何人からもどうやったのかと、かなりの熱量で聞かれたが、俺にしか出来ない方法だから聞いても意味ないと言って絶対に言わなかった。さすがに全部飲みました、なんて言えない。
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数ヵ月後、森に薬草採取に来た新人冒険者によって、毒の沼地があった場所に温泉が湧きだしている事がわかった。当初、毒の沼地があった場所だけに誰も近付こうとはしなかったが、勇気あるハゲが先陣を切り、それ以降リニックの街の住人に頻繁に利用される場所となった。この場所を救った者の名を借り「ワズの湯」と名付けられ、再びこの街を訪れたワズに恥ずかしすぎるから名を変えろと言われたが、住人達は決して変えようとはしなかったとか。
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森の清浄化は冒険者達に任せ、俺とレーガンとエマさんはギルドへと戻ってきた。現在エマさんは受付に戻り、俺とレーガンはギルドマスター室でのんびりとくつろいでいる。
「しっかし……最近おかしな事が立て続けに起こりすぎだぞ。山にドラゴン、街に魔人が向かってくるわ、森に毒の沼地が発生するわ……一体なんなんだろうなぁ……」
レーガンのつぶやきに俺はドラゴンは夫婦喧嘩だけどな、と言いたくなったがぐっとこらえ、先程見た赤い玉を思い出す。そういえば、あの玉にそっくりなのをエルフの里で見たなぁ……玉を飲んだ奴は化物に変貌したっけ……そういやあの化物と魔人って似てたなぁ……
……ん?待てよ。もしかして『黒炎』の連中も赤い玉を飲んで魔人になったとしたら……たしかレーガンがこの辺りに魔力溜まりは無かったはずと言ってたし、沼地に居た何かも形は獣のようだった……何かを倒した後に出てきたのは赤い玉……全ての原因は赤い玉なのか?……もしそうならあの赤い玉は一体なんなのだろうか。考えてもさっぱりわからん。憶測でレーガンに言うのもなぁ……もし違ってたら恥ずかしいし。せめて赤い玉が手元にあったら調べて貰うんだけど消えちゃうしなぁ……はぁ……
俺は一息つくと寝転がっていたソファーから立ち上がる。いい寝心地でしたよ。
「じゃあ、俺はそろそろ宿屋に戻ります」
「おぅ!今日もお疲れさん!!今回の件はもしかしたら緊急依頼っつう事で報酬が発生するかもしれんから、そん時は受け取りに来てくれぃ」
「わかりました。では失礼します」
ギルドを出て宿屋へと戻った俺は残っていたメアルと共にルーラから宿屋道の続きを御教授された。勘弁して下さい。何か疲れてるんで休ませて下さい。




