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番外話2 DIYって楽しいと思う今日この頃

 書店員シロスさんを加えた俺達は、地図を頼りに森の中を進む。

 現在進んでいるこの森は“迷いの森”と呼ばれる場所で、何やらこの中を歩む者の方向感覚を狂わせ迷わせる結界が張っているらしい。

 らしいというのは、俺にはそのあたりが分からないからだ。

 どうやら、“神邪人”になったとは言っても、元々の能力が変更されている訳ではないようで、俺の魔力を見る目は人限定で、物やそのあたりに流れている魔力に関しては見る事が出来ないようである。

 まぁ、別に困る事もないし、今の俺には心強い奥さん達が居るので問題ない。

 そして、ここの結界に関しても、抵抗力が強すぎる俺に作用が効かないようで、全く意味を成していないとは、魔法に詳しいカガネの意見だ。まぁ、その通りなんだと思う。

 それに、こちらにはいくらか力が落ちているとはいえ、創造神であるフロイドも居るし、ギルドカード内には5柱の女神様達も居る訳で、完全に過剰であると言える。


 ……あっ、そういえば、女神様達の事を完全に忘れていたな。

 今、どうなっているのだろうか?

 確認しなきゃ確認しないで、後で色々問題が起こっても困るし、ちょっと見てみるか。


 ギルドカードを取り出し確認してみる。

 スキル欄に書かれている項目がじわじわと現れ、恒例の文面が表示された。



「光の女神は愚痴をこぼしている」

 ちょっとくらい私に相談してくれてもいいじゃないですか。

 いつでもなんでも受け答えするのに……。

 スリーサイズだって……脱がなきゃ分からない黒子の位置だって……。

 ……あっ、でも、性感帯は確認してもらわないと。


「大地母神は何かの準備をしている」

 えっと……。後何が必要だったかしら?

 ろうそくに、鞭に、猿ぐつわに、三角木馬に……。

 あっ、そうだ! ワズ様が恥ずかしがって力加減をしないように、仮面を用意しておかないと……。


「戦女神は自己鍛錬をしている」

 ふっ……ふっ……。

 いいぞ! 乳酸が溜まってぷるぷるしてきた!

 ここからだ! ここからの追い込みが明日の筋肉に繋がる!

 ふっふっふっ、そして私からワズに夜這いを……。


「海の女神は肌を気にしている」

 この海藻パックいいわね。私の肌に合ってるわ。

 次はこの海藻を使って全身パックを作らないと。

 ふふふ……。そして、すべすべの肌を撫でてもらって……。

 これからは大人の女の時代よ!


「空の女神は心地良い眠りを味わっている」

 むにゃ……。く~……。

 ……こんなに食べていいんですか……。

 ……え? 私を食べちゃうんですか? ……ワズのエッチ……。

 ……好きなだけ味わって下さ……く~……。



 ……よし。俺は何も見ていない。

 は~、空が青いなぁ……。まぁ、木々で遮られてるけど。


 俺は特に問題は無いと判断し脳内から先程確認した文面を華麗に排除してから、ギルドカードは懐にしまい込んだ。

 この神達――フロイド含む――は、いつになっても平常運転過ぎる……。



     ◇



 そうこうしている内に、翌日には目的の場所へと辿り着いた。

 もっと時間がかかるかなと思っていたのだが、思いの外早く辿り着き、それまでの間に時折獣やら魔物やらも襲いかかってきたのだが、こちらは既にその程度の存在にやられるレベルではないので、特にこれといった問題無く進んだ結果である。

 獣や魔物の肉は休憩がてら美味しく頂き、他の素材類は次の街に着いたら売り払う事にした。

 シロスさんは俺達の強さに驚き、世の中上には上が居るんですねと、しみじみ呟く。

 まぁ、ある意味頂点のようなものなので、俺より上が居るとは思えないが……。

 それに、シロスさんも元Bランク冒険者という事もあり、充分戦力として数える事が出来た。

 ただ、シロスさんが使っていた武器が「紙」だった事には驚いたのだが、


「紙は切れ味抜群ですから」


 と、その言葉通りにスッパスッパと獣や魔物を切っていくありえない姿は、どこかの執事を彷彿とさせて苦笑いしか浮かばない。

 やっぱり、この人もどこかおかしい……。

 背負っていたリュックには、回復薬や毒消し、着替え等一般的な旅支度の他に、ここに来るまでに手に入れた本が大量には収められており、休憩時間の時はそれらの本を読ませてもらい、楽しい時間を過ごさせてもらったので、代わりといってはなんだが倒した獣や魔物の素材をお裾分けしておいた。

 元々俺達は素材や金には特に困っていないので、お裾分けしても問題無い。

 楽しい時間の代価として素材を差し上げたのは、奥さん達も了承している。


 そうして、今目の前には大賢者が住んでいたという屋敷があった。

 森の中の開け放たれた場所で、手作りかと思われる木の柵が周囲を覆い、その中に屋敷が存在している。

 その屋敷は外観だけで言えば、2階建てでそこまで広くはなさそうだ。

 しかし、どれ程の年月が経っているかはわからないが、外壁の至る所が朽ち果てており、森の中という事も考慮してある種独特というか違和感を覚える光景であった。


 ……なんか、スケルトンとかゴーストが出てきそうだな。

 とりあえず、まだ日の光がある明るい内で良かった。


「ここで大丈夫ですか?」


 俺は確認するようにシロスさんへと尋ねる。

 シロスさんは無言で頷き、やっと辿り着いた事で逸る気持ちを抑えきれないらしく、屋敷へと向かって行く。

 俺もその後に付いていこうとしたのだが不意に服が引っ張られたので、そちらの方へ視線を向けるとハオスイが居た。


「……」


 どうしたのだろうか?

 俺はハオスイに目線を合わせるように屈み、頭を優しく撫でながら尋ねる。


「ん? どうした?」

「……お化け怖い」


 おぉ! まさかのお化け怖い発言。

 まさかハオスイの口からそのような言葉を聞く事になるとは。

 ちょっと嬉しい。


「そっかそっか。大丈夫だよ。俺が傍に居るから」


 俺はハオスイと視線を合わせるように屈み、安心させるように優しく頭を撫でる。


「……なら、今からずっとこうしてる」

「おっと」


 ハオスイが俺にしがみついてきた。

 ただ、その表情は安心感に満ちていて、俺としてはこれでも問題なかったのだが、そうそう世の中思い通りにはいかないらしい。


『ちょっと待ったぁっ!!!!!!』


 他の奥さん達が一気に詰め寄ってくる。

 どうした? どうした?


「お化けが怖いなど初めて聞くな、ハオスイ」

「そうですよ。魂胆が見え見えです」

「出し抜くのはいただけませんよ」

「ずるいぞ! ハオスイ!」

「しまった! 出遅れてしまった!」

「いいなぁ……。私もひっついちゃ駄目か?」


「……私が一番最初。譲らない」


 ……どうやらお化け怖い発言は嘘だったようである。

 まぁ、可愛い嘘なので別に怒る気はないのだが、ハオスイさんや、ちょっと俺を目を合わそうか?

 ぷいっと逸らしても逃げ場は無いんだよ。

 だって、目線は逸らしても体は俺にくっついたままなんだからさ。

 しかし、このままの状況はよろしくない。

 早急に解決しなければ。


「最初はグー」


 俺は奥さん達に宣言するように声を上げる。

 その声に反応して、奥さん達は瞬く間に戦闘態勢へと突入した。

 ハオスイは早い者勝ちの精神で、俺にひっついたままである。

 後で怒られてもしらないよ?


「ジャンケンッ!!」

『ほいっ!!!!!!』



     ◇



 結果、頭の上は不戦の勝者メアルが常に居り、今回は左にサローナ、右にマオが俺と腕を組む事になった。

 ハオスイは背中におんぶである。

 ジャンケンに参加しなかった事を皆から怒られた結果であった。

 ただ、満更でもないのか、ハオスイは俺に全体重を預けてご満悦の表情を浮かべている。

 まぁ、本人がこれでいいなら構わない。

 それに今回に限って言えば、これで良かったと思う。

 屋敷は見るからに何か出てきそうだからだ。

 そうなると、このような状況で即座に動けない以上、周囲に結界を張って動く事が出来るタタとナミニッサに、前衛を任せられるナレリナと後衛を任せられるカガネの配置は万全と言ってもいいだろう。

 ……そもそも、腕を組まなければいいんじゃないかと思うのだが、それは奥さん達から抗議の声が上がり、そうなると俺が勝てる要素は一切無いのである。

 まぁ、いざとなったら神邪人全開の一瞬で終わらせる事も出来るので、そこまで深刻に考える必要はない。

 フロイドは仮にも神なのだから自分でなんとかするだろう。


 そうして準備が整ったので、いざ突入である。

 シロスさんには待たせる結果になってしまったので申し訳ない気持ちだが、本人は気にしていないと笑みを返された。

 出来た人である。

 どこぞの執事に見習わせたいと思ったが、シロスさんも本質はその執事と同じようなので、結局変わらないんだろうなと思った。


「では、参りますか。いざ、大賢者の屋敷の中へ」

「そうですね。行きましょう」


 どこぞの執事と書店員が並んで屋敷の中へと入って行く。

 何故だろう。その2人の後姿を見ていると不安しか思い浮かばないんだが……。

 俺は1つ溜息を吐くと、2人の後を追って屋敷の中へと向かった。



 しかし、予想に反してとでも言えばいいのか、屋敷の中で何かが起こる事は無かった。

 いや、実際は外観同様、内観も非常に朽ち果てており所々床に穴が開いている始末である。屋敷内を歩くのも大変で、ドア等も触る箇所がぼろぼろと崩れていく。

 人の手が入らなくなった家というのは、ここまで脆くなっていくんだなと思う。

 こうなってくると、いつ崩れてもおかしくないので、俺達の周囲にはタタとナミニッサが常に結界を張って移動する事にした。


 目的の魔法書がどこにあるかも分からない以上、そこまで広くない屋敷なので1部屋1部屋手当たり次第に調べていく。

 リビングや食堂等の他に執務室のような部屋や客室もあったが、ある程度部屋を見て行って分かった事がある。

 細かく見ていくと置かれている調度品や食器、日用品にまで至る所というか、この屋敷全てが手造りであるという事が分かった。

 芸が細かいというか、細工も細かく品位が非常に高い物まである。

 大賢者の器用さに驚いた。

 いや、さすが大賢者とでも言うべきか。

 もしかしたら、これら全て大賢者の魔法で造り出された物なのかもしれない。

 屋敷1軒を造り上げる大賢者の魔法か……。

 正直感嘆するというか、素直に凄いと思う。


 だが、いくら中を調べても目的の魔法書は見当たらなかった。

 本自体は色々な部屋の中に置かれているのだが、普通に物語本が多く、それも大賢者自らが書き記した本のようで、それだけでも価値があるんじゃないかと思う。

 シロスさんもそう思ったのか、そのあたりの本は全て回収している。

 中には料理のレシピ本も書かれていて、この辺り一帯に群生している野草や木の実、獣や魔物の肉や特定部位の調理方法が記されており、これは失敗だったとか、これは成功したとか、直筆で書かれていた。

 これを読めば、大賢者なのに何か苦労してるなと思うのは、きっと俺だけじゃないだろう。

 レシピ本ももちろん回収した。


 そして、残るは1部屋だけとなった。

 今まで入った部屋の中に目的の魔法書が無い以上、この部屋の中にあるのだろうか?

 ここまでくると、もしかして無いんじゃないだろうかと考えてしまう。

 俺としては無ければ無いでそれは構わないのだが、シロスさん的にそれは困るだろう。

 出来れば見つかって欲しいという気持ちを持って、部屋の中へと入る。

 最後の部屋は、どうやら書斎のようであった。

 窓際に立派な書斎机とその上にランプが置かれ、壁一面に設置されていた本棚には様々な本が置かれている。

 俺達は手当たり次第に本を手に取り中身を確認していくが、それらしい本は見つからない。

 やはりここも、ほとんどが大賢者の書いた物語であった。

 中には「大賢者に学ぶ魔法理論」や「大賢者が教える基礎魔法」等の魔法に関する本もあるにはあったのだが、そのタイトルが示すように魔法に関しての持論や基礎知識ばかりであり、究極魔法と呼べるような魔法が記されている本はどこにも無いのである。

 屋敷のどこを探しても、目的の本は見つからなかった。

 さて、どうしようか。

 これは困った。

 まさか、本当に見つからないとは……。

 これからどうすべきか考えていると、フロイドから声がかけられる。


「ワズ様、少々よろしいでしょうか?」


 呼ばれた方へと視線を向けるとフロイドは書斎机の方に居た。

 そちらの方へ歩み寄ると、フロイドは1冊の本を俺へと渡す。


「それは?」

「書斎机の引き出しに入っておりました。どうやら、大賢者が記した日記のようです」

「日記?」


 フロイドが差し出す本を受け取る。

 皆も興味があるのか俺の周りに集まってきた。

 もしかしたら、この中に何か手掛かりがあるのかもしれない。

 少しだけ希望を込めて、俺は大賢者の日記を開いた。

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