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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

36色の色鉛筆

孤独の白

作者: 仙崎無識

「色シリーズ」一日目「孤独の白」を加筆・修正した短編版です。

――――――――――――――――――――生まれたときから、僕、こと「白」の世界は白一色だった。



――――――――――――――――――――否、その言い方には語弊があった。


正確には、白とそれによって作り出されざるを得ない色のみであった。



壁一面、天井までを覆う白。


訪れる人々の衣服は勿論のこと、顔までも白い仮面で覆われていた。


僕の居住空間は全て白色の光で覆われ、鏡などというある意味では粋な、また別の文脈(コンテクスト)からは無粋なものは存在しなかった。



僕の周囲に居た人間は皆口を揃えて僕を「白様」と呼び崇めてはいたものの、自分たちの本当の顔を晒すことは無かった。



僕は一生をこの白い空間で過ごすものだと思っていたし、自分自身がどういう容貌をしているのかには興味がなかったし、また所謂「外の世界」が存在することも知らなかった。










―――――――――――――――――――『あの時』まで。











そうして過ごしてきたある日、物凄く激しい揺れがこの白い空間を襲った。


周囲に居た人間は動揺を隠せず、静かだった空間内部は俄かに慌ただしさと騒々しさに包まれた。



最初は本で知った(その本も全てが白かったが)「地震」というものかと思ったが、どうも違うようだ。






再び、揺れる。






揺れが収まった時には、いつもは何処からともなく現れ、食事などの世話をしてくれる人間たちが、急に切り取られた場所から現れた。






白以外の色(・・・・・)の何かを流して。






現れた人間のうち、先頭の者は、そのまま倒れ伏し、動かなくなった。


僕の眼は、その人間が流した色に、目を奪われる。






この色は、何だ。






そう感じたのも束の間、すかさず後ろから伸びてきた手――――――恐らくは人間のもの――――――が僕の眼を覆った。



目の前が闇に閉ざされた瞬間(それは睡眠以外では初めてのことだった)、大音量で何かが破裂するような音が響いた。






一度、


二度、


三度、


四度、


五度。



揺れの次は音である。


今まで生きてきた中で、これほど騒がしかったことは無い。



音が止むと、不意に僕の目の前が明るくなった。


暫し白色の光の眩しさに目を閉じる。




眩しさに、白さに目が慣れると、目に入ったものは、目を疑うような光景だった。






倒れているのだ、人間が。






それも全て、仮面に大穴を開けて、白以外(・・・)の何かを流して。






ざり、という音がしたので、目の前の状況から視線を外し、人間たちが入ってきた方を見遣ると、白くない(・・・・)人間が、これまた白くない(・・・・)何かを持って、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきていた。





誰、とも何、とも訊きようがない。



直感的に、――――――――――とはいえ、その直感というものでさえ僕にとっては初めて扱うものだったが――――――――――これらの人間が、白い人間を殺めたのだと理解した。





部屋に居た五人の白い人間を弑したとは思えないほど優しく、気遣った所作で僕を立ちあがらせると、侵入者は僕の手を引いて、十数年間僕が居続けた世界から連れ出した。






白い部屋から出て、白い通路(此処でも所々に倒れ伏す白い人間を見た)を歩いている途中、侵入者は滔々と語りだした。



自分たちが「叛逆者(トリーズナー)」と呼ばれる存在であること。


白い人間たちが「為政者(ガバナー)」と呼ばれる存在であること。


僕は、生前に白い部屋に監禁されていた女性から生まれたこと。


白い人間たちの身勝手な行動に憤り、僕を白い部屋から連れ出そうと思ったこと。


先程の揺れは「爆破」、白い人間を殺めた道具は「銃」というものであること。






「叛逆者」と呼ばれる侵入者たちは、僕の質問には全て答えてくれた。


・・・・・・・・・・(もっぱ)ら、色に関するものしかなかったが。






長い長い通路を出ると、更に多くの色に溢れた世界が僕たちを待っていた。



「叛逆者」の皆は日常茶飯事に混乱状態が膠着している、と笑っていたが、僕にとってはどんな色でも新鮮だった。




僕は「叛逆者」の皆を煩わせることになると分かっていたが、色々な色について尋ねて回った。


煙の煤色、牧草地の緑、遠方に見える海の青、路傍に咲く花の黄色、盛んに燃える火の橙・・・・・・





ただ、昔絵本で見た「空」というのは、「叛逆者」の皆曰く「今は曇りだから灰色」ということだった。






辞典や絵本で、空が時と場所と天候によって表情を変えることを僕は知っていた(説明はすべて白かったが)。

僕はどうしても「晴れた空」が見たかったので、道中晴れないかな、と頻りに空を見上げていた。





* * * * * *




「叛逆者」の皆は僕の居た白い部屋のある街の外側に拠点を置いているらしく、そこまでは歩いていくことになった。


街が「為政者」の手から離れた時から「英雄」になったので、道すがら他の人々に祝福されていた。


僕もそのことを我が事のように喜んだ。白い人間が居なくなったおかげで、僕は他の色を目にすることが出来たからだ。




街の外縁部に辿り着いたとき、不意に曇っていた空が少しだけ晴れ、太陽の光が射した。僕は念願の「晴れた空」が見られると思っていたが――――――――――――――――――――











瞬間、総てが「白」に塗り潰された。











一瞬で街の風景も「叛逆者」の皆も消え去り、同時に総ての「色」が消えた。






僕だけがその空間に存在していた。


そして、空間は再び白に戻った。





















「―――――――――――――――――――――大佐。惑星「トルストイ」が「孤独化」されました」




某宇宙空間にて。一瞬で白く塗りつぶされた惑星を眺めていた一人の士官が上司に報告した。





「ああ。報告ご苦労大尉。引き続き、観測し続けるように」




「大佐」と呼ばれた上司は、その「報告」に満足したらしく、非常に機嫌が良かった。




「――――――惑星兵器「孤独の白」はやはり制圧、初期化にはもってこいだな」




今日は早めに業務を切り上げて宴会でもするか。


そう呟き、「大佐」は自分の居た部屋を後にした。



「大佐」の実子が「僕」であるという裏設定。

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