requiescat in pace
目が覚めると君は隣で死んでいたので、とりあえずベッドの真ん中に寝かせ直してから、それを跨いで避けて、歯を磨きに行った。
顔も洗って、家の窓を開けて、新聞を取りに行ったけれど、やっぱり君は死んでいた。向こうの窓を開けるのにベッドに上がると、バランスを崩した。指を踏んでいたらしい。そうして、やっぱり君は死んでいた。
日光が白く君の顔を照らしていて、風が髪を遊んでいた。少しばかり開いた目は、ベッドの上に立つと丁度それと向き合えた。やっぱり君は死んでいた。
ベーコンをふた切れに、卵を二つ落として、トーストが二枚、音を立てて飛び上がった。けれど、君は死んでいる。
残りものにラップを掛けて、淹れあがったコーヒーを注いで、新聞の端から端まで目を通す。やっぱり君は死んでいる。外はいい天気だ。鳥の声がする。
ようやくパジャマから着替えて、君の上から布団を剥いだ。駆けだしていきそうな格好だった。しかし、やっぱり君は死んでいる。
腕の下に頭を通して、担ぎあげる。ずしりと重い。君の爪先がカーペットと玄関マットを巻き上げながら、玄関までの動線をなぞる。やっぱり君は死んでいる。
庭は朝露の匂いがした。菜園の前に君を寝かせる。君は死んだ。
納屋にスコップを取りに行って戻ると、鳥が君の上着のボタンをつついている。近づくと、鳥は逃げた。君の目は雲を見ている。君は死んだ。菜園のすぐ隣に穴を掘る。土は思ったよりもやわらかかった。途中で梯子を下ろして、君の背よりも深く掘った。
穴の中は温かかった。梯子をあがると、君の喉の上をテントウ虫が歩いていた。喉仏の上で、それは羽根を広げて、飛んでいってしまった。脱がせたパジャマは、露でびしゃびしゃだった。転がすように君を穴の底に落とす。君は死んだ。
覗き込むと、君と目があった。優しい目だ。とてもとても優しい目だ。土を掛けて、君が見えなくなって、少しだけ盛り上がった土を、よく踏み固めた。靴のあとがくっきりとして、そこは平らになった。
君は死んだ。君は死んだ。
夏になってトマトが熟れて、摘んだそれはとてもおいしかった。君が生きていた。