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1話◆世界終末同盟本部

 アレフはギルド〈平穏への道〉のメンバーだが、クラン〈世界終末同盟(ワールドエンド)〉のメンバーでもある。ギルドが百人単位の同業者の組合だとすると、クランとは心許せる少人数の仲間の集まりである。〈世界終末同盟〉はこの街、ルパガイ無政府王国の首都(自称)、エリデルラントを支配するクランだ。国から支配を認められているわけではない、勝手に主張しているだけである。だが、街の住民に「街を支配しているのは誰?」と聞けば、ほとんどの人が「〈世界終末同盟〉だ」と答える。

そして、ほとんどの住民が〈世界終末同盟〉が何をしているのか、誰が所属しているのか、何人の集団かは知らない。そんな、謎の集団〈世界終末同盟〉、メンバーはたったの七人である。そんな彼らが一つの街を治めているのは力と金と権力があるからだ。七人全員が戦闘能力は一個師団並であり、国中の鉱脈を手中に収め。全員が主要ギルドの幹部に収まっている。

アレフが世界終末同盟本部に到着した。様々な建物が混沌と建ち並ぶ区画である。豪奢な宮殿の様な建物や工場のような建物、神殿や闘技場まである。この区画すべてが〈世界終末同盟〉の本部である。すべての建物が地下でつながっている。この区画に住む同盟のメンバーも多いが、アレフは愛する妹がすむ、普通の一軒家(自分の家を持っているだけで普通ではないが)に寝泊まりすることが多い。

アレフは宮殿のような建物の入り口に立ち、ドアの横にある機械に手をかざす。明朗な音が鳴ったあと扉のロックが外れる。静脈認証である。エリデルラントは科学技術が発展している。他の大陸ではボタンホールやフォークが発明されていない。この国は科学技術が一〇世紀ほどほかの国に比べ進歩している。ただし、普及しているわけではなく、一部の金持ちなどしか買えないほど値段が割高な物が多数を占める。戦闘機がある中に馬車が走り、機関銃を持つものがいる中に大多数のものは剣や槍を持っている。という、何とも奇妙な状態となっている。

広間に入ると真ん中の方に、司祭服を着た一人の女性が倒れていた。同盟のメンバーの一人で神職のへーだ。二四才でたれ目が魅力的なかなりの美人なのだが、とても怠惰な性格をしている。今も歩いている途中で歩くのが面倒になり倒れているのだろう。

「へーさん……何やっているんだい?」

 話しかけるとヘーが尺取り虫のようにこちらに移動してきた。

「だるい……」

 とだけ言ったあと、ヘーはなぜかその場でごろごろと転がっている。「だるい」はヘーの口癖で彼女が喋る言葉の半分は「だるい」である。

「ああ、そういえば、アレフくん……お仕事だよ」

 転がり続けながら話す、へー。

「何ですか?」

「話すのが、だるい……」

「話せよ!」

「かみさま~。後よろしく」

 ヘーがだるそうに告ながら一差し指で十字を描く。そうすると、アレフの目の前にいくつかのウィンドウが表示された。仕事の内容が書いてあり。画像も付いている。神術(スポンシング)である。世界を監視している神々(ロム)の力を借り奇跡を起こす術だ。使う者を神術師(スポンシンガー)という。神々は暇つぶしにこの世界を作り、この世界の住民に混じって暮らしたり、この世界を監視したりして、楽しんでいるらしい。神術はこの世界を覗いている神々の注目を得ることによって使える。神々にとっては奇跡も暇つぶしに使う。あまりに規模が多いと神々も〈カキン〉という儀式が必要らしいが、簡単なのは気が向いたら軽くやってくれる。ヘーほどに神々を便利な道具として使っている神職も珍しいだろうが。

 今回の仕事はまとめるとこんな感じだ。この街より南に存在する首都(自称)のガルテットを追い出された悪徳クラン〈ガイウス〉がこの街で勢力を広げようとしているらしい。そのクランを懲らしめておけと言うことだ。画像はそのクランの主要メンバーだ。つまり「オレの縄張り(シマ)を荒らしてんじゃねぇ」と立場を解らせてやる、ということだ。

「で、そいつらはどこにいるんだ?」

「だるい……」

「おい!」

「自分で調べてちょ」

「はぁ……」

――僕、戦闘以外はからっきしなんだけど――と思いながらもアレフは文句を言うことなく〈ガイウス〉を探しに行く。だるいだるい病のヘーを動かすことは不可能に近い。

「あ、画像の元になった写真は、ボクの家のテーブルにあるから~」

 ヘーはそれだけ話すと、いつもより内容が長めだったので力尽きた――いや、別に長くないと思うけど――

地下道を通ってヴァヴの家に向かう。ヴァヴは同盟の一人でジュエリーデザイナーの魔術師(コーディネイター)だ。魔術(コーディネイト)というとオカルトのようだが実際は科学の一つともいえる。世界を構成する〇と一の数列(コード)を書き換えることによって森羅万象を起こすのが魔術だ。誰でも勉強すれば使えるようになる(ある程度には、だが)。この国にはしっかりとした教育を受けられる者は希少である。

ヴァヴの家に着いた。同盟のメンバーは勝手に他のメンバーの家を出入りしている。部屋中にショーケースがあり、べらぼうに高そうなジュエリーが輝いている。

「ヴァヴさーん、いるかーい?」

「いないわー」

 一番近い部屋から声が聞こえた。

「いや、いるでしょ……」

 扉が開き一人の女性が現れる。全身をジュエリーで飾り立てているがけばけばしくなることもなく、ジュエリーに本人の美貌が負けていない。

「仕事を手伝って貰いたいんだけど」

「いやよ」

 きっぱりと告げるヴァヴ。

「ですよねー」

 ヴァヴは人に命令するのは好きだが、自分が相手の言うことを聞くのを激しくいやがる、という性格をしている。

「ちょっと、人の場所を調べて貰うだけなんだけど」

「いやよ」

「ですよねー」

「それぐらい自分でやりなさいよ。それでも同盟のメンバーなのかしら?」あきれた顔で言うヴァヴ「〈平穏への道〉の下っ端だっているじゃないの」

「僕が同盟のメンバーだってことは下に秘密だから、あんまり同盟の仕事じゃ使えないんだよね」

「じゃあ、上のギルドマスターにやって貰いなさいよ」

「上司には頼めないよ!人捜しごときを〈正義の光〉にはやらせられないよ!」

〈正義の光〉とは〈平穏への道〉のギルドマスターの通り名である。光の剣と鎧をまとった伝説級の人物だ。

 ――ん、でも、〈ガイウス〉は悪人達のギルドだから、〈平穏への道〉の業務として討伐できるかも――

「まったく、何のためにその地位に就いているのかしら?〈平穏への道〉の下を動かすためにあなたはいるのよ?」

「〈平穏への道〉は正義のために存在するんだよ。自分のためには動かせない」

「そんなこと言ってると、同盟から追い出されるわよ……?あら、そういえば、あんたに頼まれていたMAGUができたわ」

 ヴァヴがそう言い部屋に戻り、革袋を持ってきた。MAGUとは魔術が使われた道具のことである。ヴァヴが差し出してきた革袋に、

「ありがとうございます」

 と、アレフが手を出す。が、ひょいっとヴァヴが手を引っ込めつかみ損ねる。

「あたしの仕事を一つ代行よ、忘れてないでしょうね」

 ヴァヴが人の頼みを無料で聞くわけがない。そういう契約で頼んでいた。

「はい、分かっているよ」

「よろしい。あと、素材にドラゴンの遺灰ダイヤモンドを使ったのよ、別に魔術で作っても良かったんだけど、面倒くさいからギーメルに頼んだわ。だからギーメルにも何か頼まれると思うわよ」

「分かった」

 アレフは――また、仕事が増えそうだ――と、心の中で落ち込んだ。アレフは同盟の仕事に加え、〈平穏への道〉、もう一つ加入しているギルド〈神器の創世(ザ・クリエイト)〉の仕事もあり多忙なのだ。ギーメルとは同盟のメンバーで機術士(マキノテクナー)である。

 ヴァヴに別れを告げる。ギーメルは頼み事を自分から言ってくると思われるので、聞きには行かない。ギーメルはいつも忙しく色々と作っているので邪魔するわけにはいかない。同盟の残りメンバーは戦士のダレットと農家のべート、魔法使い(ハッカー)のザインだが、ダレットはいつものように戦闘訓練をしているだろうし、べートはいつものように畑を耕しているだろうし、ザインはいつものように女をくどき回っていると思われる。


補足させていただきます。科学技術が発展しているが普及していない世界という設定についてです。科学技術が普及していない理由は、まずとても金がかかると言うことです。基盤が整う前に技術が上がりすぎて手作りになってしまいます(電気の整備がありませんし。工場を造るための工場がない~以下ループです)。また、魔術の方が一般に普及しており、そちらの方が安いですし、万能に近く科学技術も半分は魔術に頼っています。最後に一般市民は今日の食べ物にもありつくのが大変な状態ですので、関わりがありません。という設定です。

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