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0話◆プロローグ


 ルパガイ無政府王国、エリデルラント。どこか異物の混じった中世ヨーロッパ風の町並みのその街を一言で表すと〈無法地帯〉である。

アレフは自宅から同盟本部に向かってのんびりと歩いていた。舗装されていない砂利道の上で倒れている者がいる。死んでいるのかただ寝ているだけなのか。たとえ死体であったとしても驚くことではない。この街では死体なんて石ころのように転がっている。

 近づいてみるとその者は生きていたが、虫の息だ。外傷は見当たらないので病気か栄養不足か。その者は苦しむ体力もない様で、もう半分は死んでいる。この街は格差がひどい。その日の食べ物に困る者が大量にいる中、普通の人間が一生かかっても手に入れられない金額の一食を毎日食べている者がいる。

 しばらく歩くとまた死体が転がっていた。腹から血が吹き出していることからして殺されたばっかりだ。

 アレフが周りを見渡すと三人の男に囲まれている少女がいた。全員、服とも言えないボロ布をまとい、髪は長く手入れをされている様子はない、体も土で汚れている。少女の服には血が付いていた。男達は錆び、もはや棒と同じことしかできないであろう剣を持っている。アレフ側からだと少女の背が見え、それに襲いかかろうとしている男達の顔が見える。くたびれた顔に殺意を宿した目だ。少女が動き手に持っていた物を背に隠した。パンの入った袋だ。

 一つのパンを巡って殺し合う、それはこの街では何ら異常なことではない。

 男達が剣を少女に向かって振るう。その剣は少女にぶつかる前、何かに弾かれ男達の手を離れ宙を舞う。アレフは驚いた顔をした男達に近づいて行く。剣を弾いたのはアレフだ、地面に転がっていた石を三連続で蹴り男達の剣を防いだのだ。

「僕の前で人殺しをしようとは、命知らずだね」

 男達が後ずさる。アレフは優しげな顔をした青年で現在、身体のどこにも武器を身につけている様子はない。なぜ男達が後ずさったのか?それはアレフが純白の服を着ており、髪も肌も汚れが見当たらないからだ。綺麗な格好をしている、それは上流階級の証だ。無法地帯エリデルラントで上位に立っているといることはある要素を持っていることになる。即ち、金か暴力である。

「ちなみに、僕はこういう者でね」

 アレフが胸のエンブレムを指差す。天使の翼と三日月をかたどった青と白のエンブレムだ。

「〈平穏への(ジャスティス・ロード)〉……!」

 国が統治しないこの街、権力を持つのは同業者同士の組合――ギルド。〈平穏への道〉は治安維持を目的としたギルドだ。

「君たちは僕の前で、まだ人殺しをしていない。この場から立ち去るなら許してあげよう。どうだい?」

 男達は慌てて転びそうになりながら、走り去って行った。

 アレフが後ろを振り向くと、約五十ミーティアほど先に少女が走り去っているのが見える。アレフが男達の注意を引いているのをいいことに、お礼も言わず逃げ去っているのだ。この街で「ありがとう」なんて言葉は聞いたことが滅多にない。アレフが地を蹴り駆ける。一瞬のうちに、たった三歩で少女に追いついた。逃げる少女の頭を掴み顔面を地面に叩きつける。少女が悲鳴をあげる。

 何故、アレフがそんなことをしたのか?答えは簡単である。

「君でしょ、さっきの死体を作ったのは。服に新しい血が付いているし――」

 右手で少女を抑えたまま、左手でアレフが少女の握るパンの袋から血の付いたナイフを取り出す。

「凶器もある。目的は単純にパンだね」

 少女がアレフに殺意のこもった目を向ける。

「偽善者がっっ!人殺しがダメだって!食べ物を奪わないとあたしが死ぬのよっ!あんた達はあたしに死ねと言っているのよ!あんた達の正義ごっこていう遊びに付き合う余裕はあたしにはないのよ!」

地面に押し付けられながらも喚き散らす少女。その言葉を聞きアレフは、

「僕は偽善者で構わない。僕は自分が正しいと思うことを続ける。僕の正義で人が死んだとしても、それを受け止め正義の道を歩み続ける……とりあえず君は少し痛めつけるだけだよ、殺しはしない」

「殺しはしない……だって?あたしは少しの怪我も許されないのよ!弱った者はこの街ではすぐに死んじまう!」

 アレフは少女の慟哭を聞き流す。少女の髪を引っ張り無理やり立たせ、左拳で腹を殴る。当然、手加減はしている。アレフは気絶した少女をその場に置いて、

「僕は自分の正義を信じる」

 と、つぶやき同盟本部に向かう。


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