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3.

3.

流れのまま、俺は食卓に座らされる。

なんだ、この状況は?等ともちろん思った俺だが、

この状況を空気を読んでなかなか打破できない。

「いやぁ~。渚が友達を家に呼ぶなんて初めてか、かなり久しぶりだよな?

なあ?茉莉まり。あー、こいつは俺の嫁だ。キレーだろ?やらねーぞ?」

オッサンが相当若く見える女性を指差す。

波音の母親?にしては若いな。あいつの姉貴って言われても気付かないかもな。

海渡かいとさん。それも男の子なんて、彼氏さんでしょうか?」

海渡。オッサンこと、波音の父親。

「なんだと!?テメェ!渚はおまえなんかには渡さねぇ!」

どうしたらそんな話になる?

「もう!お父さん、お母さん。藤崎さんは私の友達です」

少し顔を赤くして、恐らくキッチンと思われる方から料理を待ってくる。

よかった。波音がまともで。

何故か、これも流れで俺はここで夕飯を頂く事になった。

このアットホームな感じに、俺は馴染なじめずにいた。

居心地が悪い?違う。こんな環境で飯を食べるのは久しぶりだからだ。

ずっと暗い俺に、ここの人達は、まるで本当の家族のように接してくれた。

ご飯が無くなると、茉莉さんがおかわりがいるかを聞いてくれる。

オッサンがその場にいる全員を笑わそうとする。

別に、こういう雰囲気ふんいきが嫌いな訳じゃない。

それでも、俺には、どうしても自分が場違いに思えた。

この時間は、長くも、あっという間にも感じた。


手厚い歓迎を終えた夜。

俺は暗くなってすっかりわからなくなった道を、

波音に案内してもらう事になった。

にぎやかで、良い両親じゃないか」

俺が波音に話しかける。

彼女は、出会った時よりも、ずっと明るく見えた。

「そうでしょうか?楽しいですけど、大変ですよ?」

確かに、あの異様なまでに元気な父親と、天然の母親を持てば、苦労する事もあるだろう。

俺は出来るだけ明るく振舞って話を続ける。

「あんなに雰囲気のいい家庭はそうはないだろ」

心からそう思う。

だからこそ、俺はこんな思いをしているのか?くそっ。

「あの。藤崎さん、さっきから無理して笑っていませんか?私の家うちにいる時から。

何か失礼でしたか?それとも、無理矢理引き留めたのを怒って……」

「違う!」

つい声を荒くしてしまった。

そんな俺を見て、波音がうつむいてしまう。

今度は自分を出来るだけ抑えて答える。

「違うんだ。俺はただ、疲れちまっただけだ。何でも無い」

波音はうつむいたままだ。

こいつは思ったより鋭い。

さっきみたいに俺の心中を見透かしているのかもしれない。

いや、恐らくそうだろう。

それでも、波音は俺に笑って続ける。

「そうですか。なら、いいです。でも、出来れば……

今度は本当の事を話して欲しいです。その、私は藤崎さんの友達、ですから」

やっぱりな。俺は思う。

こいつは弱気な所もある。でも、芯はしっかりしていて、周りを気遣う。

こいつは、本当は強いんだ。俺が思う以上に。

「気が、向いたらな」

何言ってんだ。俺は。

「もういいや。ここまで来れば道はわかる。あんがとな」

見覚えのある通りに来た事に気付いて、礼を言う。

その時、ある事を思い出す。

「おっと。ほら、水筒。昼間は助かったよ」

鞄から水筒を取り出して手渡す。

「あー!えっ、ありがとうございますっ。わざわざ」

震える手で波音が水筒を受け取る。

変なヤツだな。

不思議に思った俺は、どうした?と彼女に聞いてみる。

すると、波音は一応答えたらしいが、声が小さくてよく聞こえない。

「なんだ?もっとはっきり言えよ?」

何故か、波音が固唾かたずを呑む。

「その、か、かんせつ……」

間接って、何が?

首を傾げる俺を見て、波音はあやふやと言葉を発する。

「その、だから、ですね。私も藤崎さんが飲む前に、そのす、水筒を……」

モジモジ話す波音だが、俺もようやく意味を理解する。

あー。なるほど。間接キスの間接かぁ……え!?

「って、マジでか!?」

「マジです」

「冗談でした~、みたいな落ちは?」

「ありません…」

数秒間の沈黙。

汗が噴き出してくる。

波音を見てみると顔が真っ赤だ。

「わ、悪い。その、気付けば良かった……」

場の空気に耐え切れずに心から謝る。

「あ、いえその。わ、私もう帰らないと!お父さんに怒られちゃいます。おやすみなさい!」

一回も目を合わせずに早歩きでその場から波音が逃走。

俺もそのまま家路に着く。


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