第二章:か、かんせつ・・・
第二章:私の家族、俺の家族
1.
放課後。
俺はB組の靴箱の前で、波音を待つ。
五分.十五分.三十分。
なかなか来ない事にだんだんイライラしてくる。
ったく。
とうとうB組の教室に向かう。
すると、彼女は一人で教室の掃除をしていた。
「あ、藤崎さん。どうしたんですか?」
俺に気がづいた波音が、笑顔で話しかけてくる。
でも、俺にはわかっていた。こいつは、俺に気付くまで、暗い、悲しそうな顔でいた。
こいつは、俺に心配をかけまいとしているのだろう。
黙って俺は部屋の隅にあるロッカーから箒を取り出して手伝う。
「ほら。早く終らせて行こうぜ?」
波音はまた泣きそうだった。それでも涙を堪えて礼を言う。
ホントに泣き虫だな。こいつは。
二人で取り掛かった掃除は十分もかからずに終わった。
場面は変わって、坂を下る途中。
俺と波音は、実に短時間で打ち解けた。
確かに波音は弱気だが、人に好かれる性格なのだろうと、俺は思った。
潮風で、波音の髪が揺れる。
「どうしましたか?藤崎さん?」
「ん?あ、いや。別になんでもない」
とっさに言い訳を口にする。
何見とれてんだ。俺。
「あの、私の家。ここから近いんです。小さなケーキ屋さんなんですけど。
良かったら、今度来て下さい」
この辺りはいつも通りかかるくらいで、よくわからなかった。
「まあ、気が向いたらそのうちな」
「はい。では、また今度。……色々とありがとうございました」
何度言えば気が済むんだこいつは。
頭を下げている波音を見て笑う。
だが、あまり気にせずに俺もそのままその場を後にする。
どこに行くかな。
家には帰らない。それも俺の日常。
……結局いつも通りかよ。
唇をかむ。再び嫌気が差してくる。
「野田ン家にでも行くか」
アパートの呼び鈴を鳴らす。
「お~い。野田?いないのか?」
部屋の中で物音がした。恐らく軽く掃除だろう。
「藤崎か?鍵、開いてるから入れよ」
言われた通りにドアを開けて入る。
相変わらずの汚い部屋。
相変わらずというのは、俺はよくここに来る。家に帰ったってたいしてやることも無いからだ。
「この文無し。どこで飯食ったんだよ?」
空いてる場所に座って思い出す。
そういえばこいつをすっかり忘れてた。
説明するのもめんどくさいのでまた適当に返事をしとく。
「それより、野田。お茶とかケーキ出してくれ」
毎度のように小食とお茶を要求。
「出ねーよ!毎回言ってるでしょ。生活費でいっぱいなんだよ!」
これもいつも通り。
気分でボケてみる。
「そうか。金無いのにサンキューな」
「僕に餓死しろと!?」
いや~。さすが野田。いい突っ込み。
そんな事を思いながら、俺は自分の鞄を枕にして寝転ぼうとする。
「ゴンッ」
「痛っ~~~~」
勢いよく鞄の中の何かに思い切り頭をぶつける。
痛みを堪えながら鞄の中身を見てみると、見覚えのある水筒が入っていた。
「ダッセー。藤崎が水筒なんて持ってたのかよ。あ痛っ」
持っている水筒で野田の後頭部を殴る。
「借り物だよ。俺も忘れてたけど。まあいいや」
鞄に水筒を入れなおして立ち上がる。
じゃあな、とだけ言って、俺はさっき波音と分かれた道へと足を進める。