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ったく。さっきのは何だったんだ?
パンを買って、座れる場所を探しながら先ほどの事を思い出す。
廊下から窓の空を眺める。
やっぱり遅かったか。座れる所は全部陣取られちまってる。
俺も何をしてるんだかな。いつまで考えてやがる。
頭をかいて愚痴をこぼす。
すると、影でポツンと一人で座ってパンを食べているさっきの女生徒が目に入る。
アイツ、一人かよ。……行ってみるか。
俺はふと思い、中庭の端に足を向ける。
例の女生徒は一人でうつむいて、アンパンをかじっていた。
こっそり近づいて声をかける。
「よお。ってちょっと待て、逃げるなよ。何もしないって」
また逃げようとした女生徒を止めて座る。
「隣、いいか?他に、どこにも空いてなくてさ」
今度は、うつむきながらでも少し首を縦に振る。
すると、少し距離を置いて自分も座って昼食を再開する。
自分も黙々とパンをかじる。
女生徒が食べ終わったのを見計り、話しかけてみる。
「俺は、D組の藤崎 友哉だ。二年な。お前は?」
なんで俺は自己紹介なんてしてるんだ?
ふと、疑問を抱く。
「……波音 渚です。二年B組です」
彼女ががこちらを笑いながらいう。小さい声だったが、なんとか聞き取れた。
なんだか、キレイな名前だ。
俺は素直にそう思った。
「なんでこんな所で食ってんだ?女友達とか、いるだろ?」
自分の思考をかき消して女生徒、波音に問う。
波音は一度うつむいて、また顔を上げて悲しげな笑いを浮かべながら答える。
「私、小さい頃からから少し体が弱くて、学校とか休みがちで、友達とか作るの苦手で。
二年生になった時に、一年の時にできた友達とも別のクラスになっちゃって。
いつもこうなんです。教室でも影が薄くて、行事もほとんど体調悪くて休んだか、いつも一人でした。楽しい思い出もあります。でも、私……」
語尾を濁してうつむいてしまう。
そんな事を俺に話してくれるのか。
こいつは、俺に溜め込んできたきた物を全て明かしたように、俺には見えた。
気がついたら、俺の視界が歪んで見えた。
急いで目をゴシゴシ擦る。
なんで?あぁ、そうか。頭に浮かんじまったんだ。こいつがいつも一人で登下校して、授業を受けて、昼休みを過ごして、学校生活を孤独に生きている姿が。
「なら、俺が友達ってのになってやんよ」
波音がうつむきながら、えっと声をあげる。
「これから作っていけばいいんだよ。友達も、楽しい思い出ってのも。
友達は作る‘モノ’じゃない。出来るものだ。でも、自分から縮こまってたら出来るもんも出来ないだろ?おまえが一歩踏み出せば、それは周りのヤツ等に近づく為の一歩だ。
だから、俺が最初の一歩になればいい。俺がおまえを押して行ってやる」
笑いながら、出来るだけ優しく言ってやる。
これは、無意識で言った事だった。そうじゃなきゃこんな小恥ずかしい事は言えないだろう。
彼女は泣いていた。でもこれは悲しい涙じゃない。喜びと驚きの涙だった。
「あり、がとうございます。でも、迷惑じゃないですか?その、私なんかと」
その言葉を聞いて、俺は声を立てて笑ってしまう。
波音がうつむいてしまう。俺が笑った理由を勘違いでもしたのだろう。
うつむいてる可弱い女の子の頭に、そっと手をのせる。
「悪い。違うんだよ。おまえ、この状況で俺の心配するかよ」
キーンコーンカーンコーン
予鈴が鳴る。
やべっ。まだ半分しか食ってねぇ!
慌ててぱんを口に詰め込む。
その時に勢いよくかっ込みすぎたせいでむせ込んでしまう。
「だ、大丈夫ですか?良かったら、どうぞ」
波音が水筒をを俺に手渡す。
とりあえず、水筒の中身を口いっぱいに含む。
礼を言おうとしたら、波音が顔を赤くして目を逸らしてしまう。
「おい。どうしたん……」
「じゃあ、授業が始まってしまうので!私はこれで!」
早歩きでその場を離れて行った波音を見て、俺は首を傾げる。
俺、なんか悪い事したか?
不思議に思いながら、もう一口水筒の中身を頂く。
って、あいつ。これ置いていってどうすんだよ。
取り残された俺は、同じく置いていかれた水筒を見て愚痴をこぼす。