第一章:出会いと一歩
第一章:出会いと一歩
1.
「もう!朝渡そうとしたら、声もかけずに出て行っちゃったからはい。とりあえず今週分ね」
妹、紅葉が封筒を手渡す。
空返事をして高等部に戻る道につく。
潮風が桜の枝を揺らす。
ここ、潮鳴学園は、極小さな町にある数少ない学校の内、
更に数少ない進学校らしい。
海に面しているこの町‘汀町’。
俺は、生まれも育ちもこの町だった。
でも、俺はこの町が嫌いだ。
楽しかった日々なんて、ほんの一部じゃないか。
今の俺にとって、この町での思い出なんか、苦しみでしかないんだ。
学校へ向かう坂道を上りながら思う。
再び、まだ冷たい、潮風が吹く。
坂を半分ほど上った辺りで、一人の女生徒が立っているのが目に入る。
俺みたいな事情な訳でもないだろう。
遅刻で昼頃に来ちまったって所か?
その女生徒は、細くて、弱々しく見えた。
俺が関わることは無い、よな。
多少気になりはしたが、そのまま素通りしようとした時、その女生徒が何かを言う。
声が小さくてよく聞き取れなかったがボソッと一部は聞こえた。
「……私は、この学校が好きです」
独り言。
それは、俺に向けられた言葉では無い。それなのに、何故か口が開く。
「だったら、とっとと行った方がいいんじゃねぇか?昼休み、終っちまうしな」
急に声をかけられて、女生徒は驚いて振り返る。
その時、俺の世界は大きく変わる。
女生徒は学校の方へ走って行ってしまった。
俺が怖かったからか?まあいいか。
自分も歩き出す。昼休みは後三十分。
「どこで食うかな。飯」