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第七章:前進のち足踏み、のち前進

第七章:前進のち足踏み、のち前進


1.

「とりあえずは、部員数人を集めるのと、顧問の獲得だな」

やることを決めた翌日。昼休みのいつものベンチにて、パンを食べ終えた俺が波音に話しかける。

「はい。でも、部員を集めてからでないと、顧問の先生にはお願いできないと思います」

「そうか、それもそうだな……。ま、ならやれる事からどんどんやって行こうぜ?」

伸びをしながら俺が言う。

少し考えてから、波音が思い切ったような顔を俺に向ける。

目を見ただけで真剣だとわかった。

「では、藤崎さん。その……私がやろうとしている事を。ヨット部に、入ってくれませんか…?」

一生懸命に、波音がただ必死に口にした言葉。

なのに、俺にはすぐに答えられなかった。

「き、きっと楽しいですっ。藤崎さんと、私と、誰かと大勢で何かに取り組むのは……すばらしくて、楽しくって。きっと、かけがえの無い思い出にもなりますっ」

波音が繰り返して、途切れ途切れの言葉で、前向きに俺を誘っている。

自分の手が脚に触れようとするのを、もう片方の手で押さえる。

答えてやりたいのに…………

「俺は、やってやりたいのは山々なんだ。だけど―――――――――」

どう言えば、波音が傷つかずに済むだろうか。

その事だけを、ただ考え続けた。

「その、嫌ならいいんです。ごめんなさいっ、色々と。でも、それならそれで、はっきり言ってくれれば、私はちゃんと聞きます」

唐突に俺へ向けられた優しい言葉。

「…………帰りに話すよ」

他に何も言える事が無くて、俺は逃げ出すように波音に背を向ける。

波音は何かを察したのか、特に呼び止める事はなかった。

ごめんっ……ごめんな…………

俺は教室に戻る途中、ずっと波音に謝り続ける言葉が頭から離れなかった。


「えー、では今日のHRは終わりだ」

担任のだるい話が終わり、周りの生徒達はどんどん席を立ち帰って行く。

俺は午後の授業からずっと憂鬱ゆううつだった。

いつもなら、このまま波音と合流して他愛の無い会話をしながら帰る。

ただ、今日は違う。

俺の脚の事をちゃんとあいつに説明して、俺が部員にはなれないというのをはっきりさせなきゃいけない。

「あれ?藤崎、今日は用事無いわけ?なら、遊びに行かない?」

俺がどこにも行かないのを見て、野田が俺に話しかける。

何故だかずいぶんと久しぶりに野田に話しかけられたような気がした。

そして、できれば野田とどこかに行きたかった。

そうすれば、俺は今の気持ちを紛らわす事ができたのかもしれない。

誘惑に負けて『行く』と答えようとした時、誰かに肩を掴まれる。

振り返るとそこにはゴジラがいた。

「蹴り飛ばすわよ?」

……振り返るとそこには西菜が立っていた。

「なんだよ?っつーか心を読むなよ」

「アンタ遊びに行ってる場合じゃないでしょ!波音ちゃんの所に――――――?」

慌てて俺が西菜の口をふさぐ。

野田には知られない為に。

「やっぱ無理だわ。じゃあな、野田」

適当に野田への別れを済まして西菜を廊下に連れ出す。

「なんでおまえが、俺があいつの所に行くって決めてんだよ」

廊下に出ても野田がついて来ていないか確認してから俺が言う。

「なんでも何も、アンタ言いかけた事を『帰りに言う』とかはぐらかしたまんまでしょうが!」

「じゃあ、何故おまえがそれを知ってるかを教えてくれ」

俺がにらみながら聞くと、西菜が視線を逸らす。

明らかに目を泳がせている。おおよそ言い訳でも考えているのだろう。

「おまえ、盗み聞きしてやがったな」

「そ、そんな訳無いじゃない。波音に聞いたの。そうよ、あの娘に聞いたのっ」

かなり怪しい。

「まあ、そんなのは置いといて。なんで友哉が部員になってあげないのよ?手助けも何も、役に立って無いじゃない」

強引に自分のペースに戻そうとしているのが見て取れる。

苛立ちを覚えながらもため息をつきながら平静を保つ。

「……事情があんだよ」

「そんなので納得する訳無いじゃない!あの娘も、アタシも」

助けを求める人選をミスった事に今気づいた。

こいつは説明しないと引き下がりはしないだろう。

「……B組に行くぞ。こんな事で二度手間は勘弁だ」



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