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予鈴と共にHRが終わって、周りが一気に騒がしくなる。
ため息をついて立ち上がる。
すると、その瞬間肩を誰かに掴まれる。
「友哉。中庭、だったっけ?一緒に行きましょ。聞きたい事がたっくさんあるんだから!」
答える間も無く、俺は廊下に引きずられて行く。
引きずられてしばらく。
「おい、こっちからは中庭行けないだろ」
服を掴む力が弱まってきたのを見計らって、手を振りほどく。
「いいのよ。話するなら飲み物買ってから行くのよ」
つまり、とりあえず中庭じゃなく、購買の自販機に向かうらしい。
波音を待たせるのには気が引けたが、飲み物があった方がいいといううのには賛成なので、俺は渋々西菜に従う。
飲み物を三本買って、今度こそ中庭に向かう。
「で、どういう関係なわけ?あの波音とか言う娘と」
その途中に急に西菜に話しかけられる。
「いや別にどうと言う関係でも無いんだが」
正直に答えるしかない。
こいつが信じるかは別にして……。
「いや、俺らは一週間前くらいに初めて会ってだな。諸々の事情であいつの手助けを俺がしているわけだな、うん」
一人で納得してうなずきながら俺が言う。
まあ、西菜はむしろ疑問が増えたような顔をしているが。
「諸々ってどんな事情よ?」
もっともらしい質問だろうと思って少し考える。
「家で晩飯ご馳走になったり、愚痴を聞いてもらったりした」
嘘は一切ついていない。
まあ、西菜はわけがわからなくてだんだんイラついてきているが……。
「なんにせよ、細かい事はあいつが話すさ。とっとと行こうぜ」
少し遅れて行った中庭には、やはりもうすでに波音が待っていた。
「藤崎さん、西菜さんっ」
パタパタと波音がこちらに駆け寄る。
息の上がり方が尋常では無かった。
「えーと、掃除を急いで終わらせて来たらですね、もうふ、二人ともいなくて。そ、それでてっきり、帰ってしまったかと……」
「わ、わかったから落ち着け!ほら、座ろうぜ」
あまりの焦りように俺は一瞬本当に酸欠で死なないか心配になった程だ。
とりあえず、半ば引きずるようにして波音を座らせて先ほど買った飲み物を渡す。
「……これは?」
波音がお茶を受け取って首をかしげる。
「飲めよ。俺のおごりでいいから」
「ダ、ダメですっ、ちゃんとお金払います」
俺の『おごり』という言葉にかなり過剰に反応する波音。
ただ単に、人に何かをおごってもらうなど厚かましいとか思ったのだろう。
……たったの100円なのに。
「いいんだよ、100円くら……」
「あ、あのさ……。結局、話って何なの?」
俺と波音の視線が一気に西菜に向く。
数秒間の沈黙。
両者の思考回路がどんどん正常に働き出す。
「そ、そうでしたっ。えぇ、えっとですね……」
そのまま波音はここ一週間くらいで起きた事をできるだけ細かく西菜に伝えた。
自分の体の事、友達のいなかった日々。そして俺と出会い、やりたい事を探し、その結果。
それらをしどろもどろでも、ゆっくり伝えた。
時には俺が補足を加えて、手助けをした。
西菜はその間、ずっと黙って話を聞いてくれた。
「なるほどね。大体の事情はわかったわ。確か、部活は最低四人の部員と顧問が必要なはずよ?でも、早くしないと誰も集まらなくなっちゃうんじゃないかしら。普通の部員募集は四月から始めているし、顧問も早めに獲得しないと、売り切れちゃうわね」
西菜は長々と、それでも嫌がる様子は無く説明してくれた。
俺はやるべき事が決まった喜びと、その難しさにへの絶望をいっぺんに味わった。
部員を四人……。波音と、最悪俺が人数稼ぎの為に名前を貸しても二人。
つまり、できれば三人以上、最低二人は必要。あと顧問か。
右脚に触れながらため息をつく。
「前途多難そうだが、やるっきゃないしな。わかった。ありがとうな、西菜」
「いいわ。その代わり今度、適当にアンタの事誘うから付き合いなさい。じゃねっ」
それだけを言い残して、手を振りながら西菜は歩き出す。
「あ、あの。西菜さんっ、ありがとうございましたっ!」
波音が西菜に向かい、頭を下げる。
それを見て、俺も手を上げ見送る。
「よし、波音。俺達も行こう」
立ち上がって自分の鞄を持つ。
やるべき事が決まった今、俺は『なんとしても』という決意を、固く心に刻み付けていた。