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チャイムが鳴り、昼休みが始まる。
いつものように購買部でパンと飲み物を買い、中庭の隅に向かう。
いつものベンチ。そこにはもうすでに波音が座っていた。
興味と好奇心VS人見知り
その戦いの結末が、今ここでわかる。
俺は固唾を呑み、波音の隣に座る。
果たして、どちらが勝つのだろうか―――――?
「って、俺は何アホな事を一人で考えてるんだーーー!?」
自分に自己嫌悪を抱いて、その場で絶叫する。
「ど、どうしましたか?藤崎さん」
ビックリしてこちらを見る波音。
「ああ、なんでもない。それで、昨日の考え事はまとまったか?」
また波音はうつむいてしまう。
少し待ってもまだ結果は出なさそうなので、俺はとりあえず袋からパンを取り出す。
「ほら、とりあえず食べようぜ?話は後でいいよ」
小さくうなずいて波音も袋からアンパンと牛乳を取り出す。
二人ともそのまま黙ってパンを食べる。
俺はパンを食べ終わっても波音の口が開くのを待ち続けた。
牛乳を飲み終えて、波音が深呼吸をする。
そして、意を決したように手をギュッと握る。
「わ、私…行ってみたいですっ。放課後、行ってみようと思いますっ」
勝者、興味&好奇心!
安心した俺が励ますように波音の頭に手を乗せる。
って、なんかこの癖、端から見たら考えモンだな…。
「そうか。とりあえず見学に行くだけでも良いさ。行って来い」
確かに、すごい進歩だと思った。
初めて会った控えめなあの少女が、ここまで前向きな発言をしたのだから。
「はいっ。でも……」
波音が俺の事を見て、続ける。
「その、よろしければ、藤崎さんも一緒に来てくれませんかっ?」
あー、えっと…どうする?
残念ながら俺には全く興味が無い。それどころか……
いや、ここで俺が断れば、こいつには他に誘える奴なんかいないだろう。
「……気が、向いたらな」
曖昧に返す。
それでも波音はかなり喜んでいるようだった。
まだ、行くとも言ってはいないのに。
「はいっ!」
笑顔。数日前からは想像もできない程の眩しい笑顔。
「もうすぐ予鈴だな。先に戻れよ。俺には用があるんだ」
彼女から目を背けて俺が言う。
「わかりました。放課後、来てもらえると嬉しいです」
スカートを掃って俺に念を押す。
波音が行ってから少し経って予鈴が鳴る。
あと数分で授業が始まる。
「……フケるか」
中庭から旧校舎に向かう。
そういえば、久しぶりだな。サボんの。
旧校舎。
この学校はちょうど、俺等二年生が入学した年に新校舎ができて、今では授業で旧校舎は使われない。
空き教室のほとんどの用途方法は部活の部室や物置らしい。
部室にも使われていない教室を見つけて中を確認する。
誰もいない。
中に入って上手く空ダンボールを並べてそこに寝そべる。
横になったまま窓の外に目をやる。
真っ青な空に、少しだけ雲が浮いている。
気が付くと終業のチャイムが聞こえた。
ボーっと空を眺めているうちに五時間目が終わったようだ。
起き上がって伸びをする。
「さすがに次は出ないとだよな」
ため息をついて独り呟く。
ズボンを掃って立ち上がる。
教室に向かう。
部活、か…。
無意識に自分の右脚を押さえる。
そう。母さんが死んでからしばらく経ったあの日。
親父ともめて、口論から喧嘩に。
理由は決して些細な物じゃなかった。
それでも、失うばかりで、得たものは何もなかった。
俺が失ったものは、小さなものでは無いのだろう。
その中の一つには『夢』なんていうくだらない物も、あったはずだった。
あった、はず…なんだ。
気が付くと、俺は陸上部の部室の前で立ち尽くしていた。
もう二度とそんな舞台には立てないのに。
「何をやってんだろ。俺は」