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2.

2.


チャイムが鳴り、昼休みが始まる。

いつものように購買部でパンと飲み物を買い、中庭の隅に向かう。

いつものベンチ。そこにはもうすでに波音が座っていた。

興味と好奇心VS人見知り

その戦いの結末が、今ここでわかる。

俺は固唾を呑み、波音の隣に座る。

果たして、どちらが勝つのだろうか―――――?

「って、俺は何アホな事を一人で考えてるんだーーー!?」

自分に自己嫌悪を抱いて、その場で絶叫する。

「ど、どうしましたか?藤崎さん」

ビックリしてこちらを見る波音。

「ああ、なんでもない。それで、昨日の考え事はまとまったか?」

また波音はうつむいてしまう。

少し待ってもまだ結果は出なさそうなので、俺はとりあえず袋からパンを取り出す。

「ほら、とりあえず食べようぜ?話は後でいいよ」

小さくうなずいて波音も袋からアンパンと牛乳を取り出す。

二人ともそのまま黙ってパンを食べる。

俺はパンを食べ終わっても波音の口が開くのを待ち続けた。

牛乳を飲み終えて、波音が深呼吸をする。

そして、意を決したように手をギュッと握る。

「わ、私…行ってみたいですっ。放課後、行ってみようと思いますっ」

勝者、興味&好奇心!

安心した俺がはげますように波音の頭に手を乗せる。

って、なんかこの癖、端から見たら考えモンだな…。

「そうか。とりあえず見学に行くだけでも良いさ。行って来い」

確かに、すごい進歩だと思った。

初めて会った控えめなあの少女が、ここまで前向きな発言をしたのだから。

「はいっ。でも……」

波音が俺の事を見て、続ける。

「その、よろしければ、藤崎さんも一緒に来てくれませんかっ?」

あー、えっと…どうする?

残念ながら俺には全く興味が無い。それどころか……

いや、ここで俺が断れば、こいつには他に誘える奴なんかいないだろう。

「……気が、向いたらな」

曖昧あいまいに返す。

それでも波音はかなり喜んでいるようだった。

まだ、行くとも言ってはいないのに。

「はいっ!」

笑顔。数日前からは想像もできない程の眩しい笑顔。

「もうすぐ予鈴だな。先に戻れよ。俺には用があるんだ」

彼女から目をそむけて俺が言う。

「わかりました。放課後、来てもらえると嬉しいです」

スカートを掃って俺に念を押す。

波音が行ってから少し経って予鈴が鳴る。

あと数分で授業が始まる。

「……フケるか」

中庭から旧校舎に向かう。

そういえば、久しぶりだな。サボんの。


旧校舎。

この学校はちょうど、俺等二年生が入学した年に新校舎ができて、今では授業で旧校舎は使われない。

空き教室のほとんどの用途方法は部活の部室や物置らしい。


部室にも使われていない教室を見つけて中を確認する。

誰もいない。

中に入って上手く空ダンボールを並べてそこに寝そべる。

横になったまま窓の外に目をやる。

真っ青な空に、少しだけ雲が浮いている。


気が付くと終業のチャイムが聞こえた。

ボーっと空を眺めているうちに五時間目が終わったようだ。

起き上がって伸びをする。

「さすがに次は出ないとだよな」

ため息をついて独りつぶやく。

ズボンをはらって立ち上がる。

教室に向かう。

部活、か…。


無意識に自分の右脚みぎあしを押さえる。


そう。母さんが死んでからしばらく経ったあの日。

親父ともめて、口論から喧嘩けんかに。

理由は決して些細ささいな物じゃなかった。

それでも、失うばかりで、得たものは何もなかった。

俺が失ったものは、小さなものでは無いのだろう。

その中の一つには『夢』なんていうくだらない物も、あったはずだった。

あった、はず…なんだ。


気が付くと、俺は陸上部の部室の前で立ち尽くしていた。

もう二度とそんな舞台には立てないのに。

「何をやってんだろ。俺は」


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