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俺の救世主

作者: ありま氷炎
掲載日:2026/10/16


 焼けていく。

 すべてが。

 これで終わる。


「どうして君が……」


 屋敷に残っている者はいなかったはずだった。

 けれども、そこに彼女は現れた。


「こんなことだと思ったわ」


 俺はとても彼女を傷つけた。

 なのに。


「演技が下手なのよ。あなた」


 椅子に座り、最後を待つ俺に向かって彼女はゆっくりと歩いてくる。


「逃げましょう。もう誰もあなたを探したりしないわ。あなたはここで死ぬのだから。そして私も」


 皆から憎まれ、嫌われた当主はここで死に、新しい当主が立つ。

 そしてカリスタッド家は生まれ変わる。

 

 すべての膿を出し切り、俺は死ぬつもりだった。

 なのに。


「ほら、ぼけぼけしないの!」


 彼女は俺を担ぎ上げると、走り出す。

 

 一年前、この家が腐っていることを知った。

 穏やかで、優しい兄が次の当主だったのに、俺がその地位を奪い去った。

 不正をしている奴らに餌をちらつかせ、破滅に追いやる。

 そのために俺も不正を働いた。

 最後に消えるのは、俺のはずだった。

 助言を何度もしてくれた幼馴染に酷い言葉を投げつけ、遠くに追いやった。

 彼女の気持ちはわかっていたから、どうかいい人を見つけてほしいと願った。


 なのに、彼女は戻っていて、俺を救おうとしている。


「マチルダ。俺のことは置いて行ってくれ。こんなことしていると君まで死ぬぞ」

「死んだら、まあ、心中ってことよね。それでもいいわ」

「マチルダ!」

「言ったでしょ?私は最後まであなたの側にいるって」

「そんな前の事、」


 家の事情を知るまで、俺は分家のマチルダと結婚して、兄の手助けをしながら暮らすつもりだった。

 だけど、そんな幸せは訪れないと知った。


「マチルダ!」

「ちょっと静かにしてくれる?」


 マチルダは逞しい女性で、俺は何度も助けてもらった。

 そんな彼女に、凶暴、女性らしくない、などと暴言を吐いて、彼女の父も怒らせた。

 それは俺の計画にはちょうど良かった。

 不正をした腐ったやつらを捨て去り、マチルダの父などには兄を支えてもらう必要があったからだ。

 もし兄に婚約者がいなければ、マチルダを妻にすすめたのだけど、兄には愛する婚約者がいた。

 だから、俺は彼女を遠ざけることしかできなかった。

 彼女はいつも俺と一緒にいたけど、領地で彼女に好意を向ける者がいたことも知っていた。

 死ぬことを決めた俺は、そいつらに彼女をゆだねるしかなかった。

 彼女は強い。

 おかしな奴らに騙されることはないだろう。

 そう思ったのに。


「君は馬鹿だ」

「悪い?好きな男の窮地に駆け付けなくてどうするのよ。なんのために私は普段から鍛えているのよ」


 ……ちょっと意味がわからない。


「出口よ!」


 戸を蹴破りそのまま家の外に転げ出た。

 馬車が用意されていて、彼女は俺を連れて馬車に乗った。


 

「今日からここで暮らしましょう」


 新天地は、辺境地と呼ばれる場所だったけど、誰も俺のことを知らなくて、好都合だった。


「ロビン。結婚して」

「それは俺の台詞だ」


 生活が落ち着いて、俺はやっと指輪を買った。

 安物の指輪だ。

 膝をついて、彼女に懇願する。


「結婚してくれるか?マチルダ」

「もちろんよ!」


 俺たちは抱き合い、喜びを分かち合った。


 東の領地で、悪名高い当主が死んだ。

 次の当主はそれまでの悪政をすべて変え、豊かな領地経営をしているようだ。

 俺の計画は上手くいった。

 ただ一つだけ誤算がある。

 俺が生きていることだ。


「ロビン、見て見て!」


 マチルダの腕の中で彼女によく似た赤子が笑う。

 二人の笑顔を見ているだけで、俺は幸せな気分になった。

 

 生きていてよかった。


「マチルダ。あの時助けてくれて本当にありがとう」

「何度も言わないの。ロビン」


 彼女は俺の救世主。

 俺を救ってくれた、あの絶望から。



 

 




 

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