俺の救世主
焼けていく。
すべてが。
これで終わる。
「どうして君が……」
屋敷に残っている者はいなかったはずだった。
けれども、そこに彼女は現れた。
「こんなことだと思ったわ」
俺はとても彼女を傷つけた。
なのに。
「演技が下手なのよ。あなた」
椅子に座り、最後を待つ俺に向かって彼女はゆっくりと歩いてくる。
「逃げましょう。もう誰もあなたを探したりしないわ。あなたはここで死ぬのだから。そして私も」
皆から憎まれ、嫌われた当主はここで死に、新しい当主が立つ。
そしてカリスタッド家は生まれ変わる。
すべての膿を出し切り、俺は死ぬつもりだった。
なのに。
「ほら、ぼけぼけしないの!」
彼女は俺を担ぎ上げると、走り出す。
一年前、この家が腐っていることを知った。
穏やかで、優しい兄が次の当主だったのに、俺がその地位を奪い去った。
不正をしている奴らに餌をちらつかせ、破滅に追いやる。
そのために俺も不正を働いた。
最後に消えるのは、俺のはずだった。
助言を何度もしてくれた幼馴染に酷い言葉を投げつけ、遠くに追いやった。
彼女の気持ちはわかっていたから、どうかいい人を見つけてほしいと願った。
なのに、彼女は戻っていて、俺を救おうとしている。
「マチルダ。俺のことは置いて行ってくれ。こんなことしていると君まで死ぬぞ」
「死んだら、まあ、心中ってことよね。それでもいいわ」
「マチルダ!」
「言ったでしょ?私は最後まであなたの側にいるって」
「そんな前の事、」
家の事情を知るまで、俺は分家のマチルダと結婚して、兄の手助けをしながら暮らすつもりだった。
だけど、そんな幸せは訪れないと知った。
「マチルダ!」
「ちょっと静かにしてくれる?」
マチルダは逞しい女性で、俺は何度も助けてもらった。
そんな彼女に、凶暴、女性らしくない、などと暴言を吐いて、彼女の父も怒らせた。
それは俺の計画にはちょうど良かった。
不正をした腐ったやつらを捨て去り、マチルダの父などには兄を支えてもらう必要があったからだ。
もし兄に婚約者がいなければ、マチルダを妻にすすめたのだけど、兄には愛する婚約者がいた。
だから、俺は彼女を遠ざけることしかできなかった。
彼女はいつも俺と一緒にいたけど、領地で彼女に好意を向ける者がいたことも知っていた。
死ぬことを決めた俺は、そいつらに彼女をゆだねるしかなかった。
彼女は強い。
おかしな奴らに騙されることはないだろう。
そう思ったのに。
「君は馬鹿だ」
「悪い?好きな男の窮地に駆け付けなくてどうするのよ。なんのために私は普段から鍛えているのよ」
……ちょっと意味がわからない。
「出口よ!」
戸を蹴破りそのまま家の外に転げ出た。
馬車が用意されていて、彼女は俺を連れて馬車に乗った。
「今日からここで暮らしましょう」
新天地は、辺境地と呼ばれる場所だったけど、誰も俺のことを知らなくて、好都合だった。
「ロビン。結婚して」
「それは俺の台詞だ」
生活が落ち着いて、俺はやっと指輪を買った。
安物の指輪だ。
膝をついて、彼女に懇願する。
「結婚してくれるか?マチルダ」
「もちろんよ!」
俺たちは抱き合い、喜びを分かち合った。
東の領地で、悪名高い当主が死んだ。
次の当主はそれまでの悪政をすべて変え、豊かな領地経営をしているようだ。
俺の計画は上手くいった。
ただ一つだけ誤算がある。
俺が生きていることだ。
「ロビン、見て見て!」
マチルダの腕の中で彼女によく似た赤子が笑う。
二人の笑顔を見ているだけで、俺は幸せな気分になった。
生きていてよかった。
「マチルダ。あの時助けてくれて本当にありがとう」
「何度も言わないの。ロビン」
彼女は俺の救世主。
俺を救ってくれた、あの絶望から。




