不良品とクレーム
ドアを直す様に命令してから何分経つかわからない。ただ、玄関の方が騒がしく、鬱陶しい。
「おい、直せないならやめてくれ」
「いえ、直せました」
「どう見てもさっきよりボロボロになってんぞ?」
「なっていません」
ロボットが反抗的な口調で言い返してきた直後、先程よりも明らかに変形したドアが玄関より外側に倒れた。
「ボロボロじゃ… 「なっていません」
……。
恐ろしく反抗的。
最近のAIロボットはこれが平常なのか。
もしそうなら、設計者のミスだ。それとも、個体がハズレだっただけか。
「お前さ、ネジでも外れてるんじゃねーか?」
「なっていません」
「…」
答えが返ってこない会話をしても無駄なことはわかっている。しかし、いつも外にも出ずひとりで居たからか、自然と会話を求めてしまっている。
そうだ、俺は病んでいる。
落ちこぼれな考えを正当化しながら、無駄な料金を払うことだけは避ける為、契約解除の電話を入れることにする。
母親の伝えから、政府が勝手に送って来たロボットに家を破壊され、その上に金まで払わされるなんて理不尽にも程があるだろう。
本来であれば、クレームの電話一本くらいを入れてやりたいところだ。
しかし、俺は大人で、金にも余裕がある。
だから、やっぱり大人しく電話でAI support契約解除の手続きを済ませた。
話によると、誤った契約などの場合は2週間後に手配が整うと言うことらしい。
しかし、予定では代金がその2週間分は掛かるとのこと。2000円を払うことになった。
「おかしいだろ!なんで俺が払わなきゃいけねーんだ!」
ドアや壁を破壊されたことは目を瞑っている。
誤契約のくせに金取るのはおかしいだろ。
まあ、それとこれは関係ないことだが、人と話すことさえ久しぶりで、女性スタッフと言うこともあって、もう少しだけ長く話せていたら良かった。そう思った。
しかし、人との会話と言えど電話越し、まだこのロボットと話していた方が寂しさは誤魔化せる気がした。
「直りました」
また声のする方へと視線を向ける。
ドアは何とか外の光と空気を塞いでいた。しかし、結局のところ触れただけで外れてしまいそうな無意味な補修で、そんなことをされても今更取り返しがつかない。それにこれ以上は何も壊されたくもないので、直ったという事にしておこう。
「ありがとう、じゃあお前は外出て待ってろ、二週間後に返却すっから」
そう言葉をかけると、ロボットこちらを見て停止した。
表情は変わらずのままで俺を見ている。
嫌悪感からか、不気味な感覚の視線に耐えかねた俺も、ロボットから視線を外せない。
命令の認識でもしているのだろうか、なんだか気が悪くなる。
しばらくの沈黙の後、突然その沈黙が破られた。
「畏まりました」
どんっ!
「おいっ!ドアああ!」
不貞腐れた様に、直したはずのドアを自ら蹴破り外へ出ていくロボット。やはりコイツはハズレだろう。
溜息をついて、また一本タバコを取り出して吸い始める。それがちょうど、最後の一本だった。




