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episode7 : 穏やかな居場所



【オメガ軍 

 第一戦闘部 射撃訓練場】



私はその日、ケストレルの実戦プログラムを続ける事は早々に諦め、外のベンチに座って息をついた。


「やっぱりもう出てた」


ちょうどルークがやって来た。


「あなたももう出て来たの?」


「オレは途中でやめた」


言いながら隣にすわる。


「もうここで診察しようと思って」


「えぇ、適当・・・」


「適当がいいんだよ、何事も。こっち向いて」


私は呆れながら彼の方を見た。


軍服のジャケットを脱ぎ、暑いのか半袖のTシャツはまくって筋肉質の腕が目立つ。


私の目にライトを当てて瞳孔の開きを見る。

なんだか医者っぽい。


「あっち見て」


ルークが示す左側を見る。


「次はこっち見て・・・」


右側を見る。


「オレを見て」


ルークを見る。


近距離で覗き込んでくるその瞳は、光を受けて二重の色がゆらめいた。

神秘的なその瞳に吸い込まれそうだ。


ルークはその目を若干細め、彫刻のような口の端を上げる。


「問題ない」


良かった。


「これ以上見つめられると、オレが女性問題を起こしそう」


「は?何言ってんのよもう!」


私はルークから視線を外して前を向いた。


「はいはい、まだ終わってないですよ患者さん、こっち向いてください」


「イヤ。あなたが女性問題を起こしたらチームが困るもの」


「冗談だって」


ルークは笑いながら私の頭に両手で触れる。


「ねぇどこを切ったの?」


「ん?ミカンみたいに8頭分にした」


「ウソ」


「いやけっこうホント」


「けっこうホントってどういう事よ」


診察なのか、からかわれているのかわからない。


「夢とか幻覚は?術後見てない?」


「うん」


夜はよく眠れている。

考えてみると、こんなにぐっすり眠れたのは久しぶりかもしれない。


ふざけてるけど、やっぱり医師としての腕は確かなんだろうな・・・


私はそう思い、チラッとルークの方を見る。


するとTシャツの首元から出ている、不思議な色の宝石のネックレスが目についた。 


透明なのに、内側で薄い灰色の灯りがゆらめき、外側は銀色、中心に向かうほど深い影色が沈むように濃くなる。


「不思議な色の石ね」


私は思わずそう口に出した。


「え?」


「そのネックレス」


「あぁ・・・」


ルークはネックレスの水晶を指先で触れた。


「母親の形見。他に何も無いんだ」


そして自嘲的にそう答えた。


「ステキだわ」


私には、何も無い。


「私は・・・実の親の事はわからないもの」


ルークは真面目なトーンの口調で聞いてきた。


「それで・・・養父母に?」


「うん、5歳の時からね。それまでは孤児院にいた。養父母にはホントに感謝してる」


実の子のように可愛がってくれ、士官学校に入れてくれた。 

だから今の私がいる。


「義父は宇宙外交官で、3年前、義母を連れて行った仕事の途中で、ゼータの捕虜になって・・・」


「ああ・・・そうなのか・・・」


私がゼータのスパイになると決めたのは、義父母の死があったからだ。


なんだか暗い話になってしまった。


私は短く息をつき、笑顔を浮かべてルークのネックレスを見た。


「その石はホントに不思議な色でキレイ。あなたの目の色みたい」


そう言って彼を見上げると、その不思議な色の瞳が甘やかな光を宿してこちらを見ていた。


ドキッとした。


「あ〜、サボリだろ〜!」


その時グオの声がした。


「絶対オレが1番にクリアだと思ったのに!」


「診察だ、サボリじゃない」


すかさずルークがそう答える。


「こんなとこで?」


「この後も対策室で昨日の分析の結果を検討する。時間が無いだろ」


ルークとグオが言い合っていると、カイが腕のリンクコムで情報を見ながらこちらに歩いて来た。


「ミタライは12分でアウトか・・・」


それを言われると思った。


「まぁ今日は初日だ、よくやった、戦闘部は終わった者から対策室に」


あれ?

怒られなかった。

意外。


そんな私を見てルークはフッと笑い、立ち上がった。


「行こう」


「あ、うん」


ルークの後をついて立ち上がって私に、彼は小声で言った。


「コワイ顔してるけど、けっこう優しい男だ」


カイのこと?


私は先を早足で歩いていくカイの後ろ姿を見た。

あの姿勢のいい大きな背中だけで威圧感があるけど。


「リラ!大丈夫だった?」


プログラムを終えたメイヴもこっちへやって来た。


「全然、大丈夫じゃない」


「あはは!でしょうね!でも無理もないわよ、だって帰還して手術したばっかりなのに、ねぇ?」


メイヴはそう言ってルークに同意を求める。


「ああそうだな」


その目は優しい。

とりあえず彼が絶対モテるのはわかる。


「じゃ、私とニコライは昨日のアリゲーターの分析の続きに入るから、今日はこれで」


「うん、わかった」


そこでメイヴとニコライとは別れ、残る私たちとL2D2はカイについて対策室に戻った。


「そっちの方はどうなんだよ」


「なにが?」


「神経リンク切断術が、宇宙船に応用できるのか?」


「ああそれはもう、機関システム部に投げた。担当のヤツから報告が入る」


「なんだよおまえ・・・じゃ昨日あれから何してたんだよ」


「自分の仕事してた。オレは忙しい」


ルークとグオの会話を聞きながら歩いていると、1人の一等兵がカイの姿を見つけて声をかけて来た。


「キリュウ大尉!」


カイは足を止めてその一等兵に答えた。


「クドウ、どうした」


クドウと呼ばれた一等兵はカイにかけ寄った。


「リアムが落ち着かなくて・・・」


リアム?


「今朝、紛争地から帰還したんですが、激務だったので・・・」


「ああそうか、行こう」


「申し訳ありません!お忙しいところ」


「いやいい」


カイは一等兵にそう言うと私たちの方を振り返った。


「先に行っててくれ。軍用犬センターに寄ってから行く」


軍用犬センター?

リアムって犬の事なの?


「リアムはカイが紛争地で子犬の時保護したシェパードだ」


グオが私にそう言った。


「頭が良くてそのまま軍用犬として育てられた。カイがハンドラーと一緒に面倒を見てたから、カイに懐いてるんだ」


ふぅん・・・


「私もリアムを見てみたい。先に行ってて!」


私はグオとルークにそう言うとカイと一等兵の後をついて行った。


犬は好きだった。


養父母と暮らしている時はずっと家に大きな犬がいて、まるで兄弟のようだった。


「なんだ、来たのか」


ついて来る私にカイはそう言った。


「うん、私もリアムを見たい。犬が好きなの」


「リアムは賢くてキレイなオスのシェパードです。自分は一目惚れで、ハンドラーになると決めました」


一等兵が私にそう説明を始める。


「けどやっぱり、子犬の時から世話してもらってたキリュウ大尉を1番の親分と思ってるんですよ。自分の手に負えない時は、大尉に助けてもらってます」


「そうなの」




【軍用犬訓練センター】



軍用犬センターに着くと、ほとんどの犬は犬舎に入っているようで姿が見えなかったが、広いドッグランにポツンと伏せている1匹のシェパードがいた。


「ほら、あそこで1人でふてくされてるでしょ?あれがリアムです」


“やってらんねぇ”


とでも言いたげな表情で芝生にペタンと伏せている。


「うふふ、かわいい」


リアムは私たちが近づく気配を感じたようで、ピクンと耳を立てて体を上げてこちらを見る。


「リアム!」


カイが呼ぶとそのシェパードは明らかに態度を変え、カイの方へ走って来る。

そして嬉しそうにカイに飛びついた。


「なんだリアム、ダメじゃないか、クドウの言う事を聞かないと」


カイは優しい声で話しかけながらリアムの体を両手で撫でてやる。


その表情は驚くほど柔らかく、まるでいつものカイとは別人のようだ。


「怪我はしなかったか?」


「今回負傷した犬もいましたが、リアムは無傷です」


「そうか、偉いぞリアム、よく頑張ったな」


リアムはまるでカイの話している事がわかるようにキュンキュン鳴いてカイにじゃれ付く。


ひとしきりカイにじゃれると、私の存在が気になったのか、しゃがんで見ていた私の方へやって来た。


「こんにちはリアム、ホントにイケメンね」


興味深そうに私に鼻をくっつけてクンクンする。


「おいで」


撫でると前脚を私の肩にピョンとかける。

私はそのまま後ろに寝転がった。


「うふふ、お利口さんね」


尻尾をブンブン振って寝転がった私の顔を舐め、鼻先でツンとつつく。


「遊びたいの?」


私が起き上がると喜んで私に脚を上げて来る。

その様子に一等兵クドウは目を見開いた。


「自分と初めて会った時とぜんぜん態度が違う!」


「おまえにもすぐ懐いた方だ。警戒心が強いのに」


カイはそう言いながら傍に落ちたフリスビーを拾った。


「ほらリアム!取って来い!」


勢いよくカイがフリスビーを投げるとリアムは一目散にそれを追いかけ、美しいフォームを描いて芝生の上をジャンプしてキャッチした。


その姿が青空によく映える。


リアムはそれを私のところへくわえて戻って来た。


「なぁに?今度は私が投げるの?」


私はリアムからフリスビーを受け取った。


「いくよリアム!」


投げる素振りをして見せるとピョンピョン跳ねる。


「ほらっ!」


フリスビーを投げると再びリアムは勢いよく飛び出し、キャッチした。


「上〜手!」


私は戻って来たリアムを撫でた。


「シェパードってこんなにフリスビーが得意なの知らなかった!」


見ている2人にそう言うと、カイが驚いたような口調で言った。


「君がフリスビーを上手く投げられる方が意外だ」


運動の類は一切できないと思ってるわね・・・


「なんかやってたんですか?」


クドウの言葉に私は頷いた。


「ボーダーコリーと大会に出た事があるの、高校生の時」


「どうりで! リアム〜、おまえまた師匠が増えたぞ!」


リアムはご機嫌そうに尻尾を振ってクドウを見上げた。


「よし、戻るぞ!オヤツだオヤツ!」


“オヤツ”に反応してリアムは自主的に犬舎に向かった。


「助かりました、ありがとうございます!」


クドウはこちらに敬礼するとリアムと共に犬舎へ入って行った。


もう少し遊びたいところだが、軍用犬はハンドラー以外の人間との関わりを持たない事が原則だ。

ハンドラーとの信頼関係を保ち、本来の仕事の能力を発揮するためだ。


「養父母と、犬と暮らしてた事を久しぶりに思い出しちゃったわ」


辛くなるので、思い出さないようにしていた。

Zeroniaでのスパイ活動中は特に。


「今度は自分がそんな家庭を作ればいい」


カイの言葉に、隣の彼を見上げた。


「私が?」


そんなこと、想像もつかない。


「そういう相手と結婚すればいい」


「結婚・・・」


私は腕を組んだ。


「その前に、恋愛できるかが謎だわ」


任務とは言え、敵司令官の愛人になりすました今の私にとって、普通の恋愛は程遠いものだ。

第一、相手に怖がられる。


「マッチングシステムでも使えばいいだろ?“犬好きな人”」


カイは私を見て少し笑う。


「そうだけど」


そんな気になったとして、まだ遠い先の事だわ。


「とりあえず、任務ね」


「そういう事だ、戻ろう」


「了解」


私はカイと共に軍用犬センターを後にした。





本日もお読みいただきありがとうございます。


ケストレル訓練からの、軍用犬リアムの登場回でしたが、いかがでしたでしょうか?

リアムは今後もこの物語に無くてはならない名脇役になります。


毎日21時更新、全35話です。

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