episode34 : 冬の大三角形
【ゼータ宇宙域 宇宙船メビウス号】
コックピットから見える惑星Dahliaは、ピンク色の大気に包まれ、神秘的な靄をまとっていて美しい。
この惑星に、今まで以上に訪れる事が多くなるかもしれない。
『予想より早い解決に、ゼータの攻撃に構えていた軍も驚いている』
ホログラムのカイは、いつになく高揚した口調でオレとリラにそう告げた。
ホログラム通信は、惑星Earthオメガ軍のAZF対策室と繋がっている。
『早速、リラの復職の話が出てさ。なんなんだよ、ったく!』
『ホントよ!人をなんだと思ってんのよ!』
グオとメイヴが軍の掌返しに憤る。
だがもう、そんな事はどうでも良さそうなリラは、リラックスした様子でL2D2に話しかける。
「調子いいとこなのね、軍って。どう思う?L2D2」
『人間とは、得てしてそのような生き物なのです。どうなさるおつもりですか?』
「う〜ん・・・」
あごに指を添えるリラに、AZFのメンバーは注目する。
多分彼女は、オレの船で専業主婦なんてしないだろな。
そう思って見ていると、オレをチラッと見た。
「なんだよ」
何かよからぬ事を考えているような目でオレを見ている。
『わかるわー』
メイヴがそんなリラを見てニヤッとした。
『ルークを1人で宇宙に放すのはキケンよね』
「は?キケン?」
どういう事だよ。
「そうなのよ」
リラはメイヴの言う事を肯定する。
『また女が付くかもしれないでしょ?』
なんだそんな事か。
「勝手に付かれるもんは防ぎようが無い」
『あー!聞いた?リラ!あんたはそういう男をダンナに選んじゃったのよ、もう諦めな!』
『だから言ったのにぃ・・・カイにしとけって』
横からグオも追い打ちをかける。
そんな2人に割って入るように、和やかな笑みのニコライが声を出した。
『運命だから、ルークとリラが結ばれたのは』
さすがニコライだ。
リラはニコライの言葉に少し照れくさそうに微笑み、またチラッとオレを見てこちらに片手を伸ばした。
オレはそんな彼女と手を繋ぐ。
「君は軍にいればいいんじゃないの? オレは次世代の新しい王だから、別に、別居婚もいいと思ってる。最初からオメガ軍に通う気だったし」
「あ〜、その自由気ままな感じが心配なのよ!ちょっと悩む」
そう言ってため息をつく彼女に、ホログラムのAZFメンバーに笑いが起こる。
そこでリラにカイが提案を出す。
『個人的には、戻って来てほしいが』
「なんで?私、相変わらずケストレルはヘタクソだし」
どうやら星脈波でケストレルは上達しないらしい。
『君が必要だ。ゼータは、今は兵を引いているが、必ず報復に出るはずだ』
確かにそれはその通りだった。
このまま引き下がるような種族ではない。
オレはリラと繋ぐ手に力を入れた。
「軍には“ルナ”もいる。君にはそばにいて欲しい」
「それは確かにそうだけど・・・」
あくまでも星脈派は、母体が安全に命を育むための限定的な力。
女の子の“ルナ”には星脈位相制御領域は遺伝しない。
「あなたはいないじゃない」
リラは若干、不満げに口を尖らせた。
「オレは切られた契約社員だから、フリーランスで出産費用を稼ぐしかないだろ」
実際そうだ。
Dahliaに残るシータ族の対応に、産まれる双子の迎え入れの準備。
オメガ軍で働いているわけにはいかない。
『ま、後は2人で話してくれ』
笑いながらニコライがそう言った。
そして通信の最後はカイが締め括った。
『みんな無事の帰りを待ってる』
「ああ、わかった」
「みんな、ありがとう」
そこまでで通信を終了した。
オレはやり切った後の安堵のため息をついた。
ああ疲れた。
正直、カーディスに剣を構えて突進された時は半泣きだった。
今日はゆっくりできそうだ。
「いつか見せた“映えスポット”の星雲でも見て帰る?」
「うん!」
リラは嬉しそうに頷いた。
『かしこまりました!では、虹色パンチ様お薦めの星雲へ参りましょう!』
「虹色パンチ様?なにそれ、人?」
「そのうち会わせる」
その時だった。
コックピットに不穏なアラートが響き渡り、リラックスムードは一気に吹き飛ぶ。
「なんだ?」
『大変な事になりました・・・』
L2D2の目が、何かを察知してキラーンと光る。
『惑星Zeroniaから惑星Dahliaに向けて、惑星破壊ミサイル“シグルド”が発射されました!』
「惑星破壊ミサイル?!」
オレとリラは緩んでいた背筋を伸ばし、コックピットの外に目をやる。
『“シグルド”は全長約420mの弾道ミサイルで、惑星の中心にのめり込むように着弾し、惑星核の重力均衡を崩して、地殻、マントルを同時に引き裂きます。逃げ場は全く無く、一瞬でDahliaは宇宙の塵となります!』
L2D2がそう言い終わると同時に、コックピットにホログラム通信が強制的に立ち上がった。
『こちらは、惑星Zeroniaアルファ司令部の司令官、ネリオスだ』
小柄でどこか冴えない風情のゼータ族の男。
こいつが・・・司令官?!
クーデターの首謀者はカーディスじゃなかったのか!
『ダリー族は我々を裏切り、そちらに寝返った。我々には不要だ。よって処分する事とした』
「なんだと・・・?!」
オレは立ち上がり、L2D2に指示を出す。
「L2D2!すぐDahliaに戻るんだ!Dahliaの重力圏に戻れば、“サン”の星脈波で“シグルド”は無効化できる!」
『間に合いますかな・・・? ご健闘を、お祈りいたしますよ、ルーク王』
ネリオスは事務的に淡々とそう告げると通信を切った。
『ご主人様!“シグルド”の着弾は5分後です!最大スピードでDahliaに向かっても、重力圏到達は7分後!間に合いません!!』
頭の中に、クレアス夫妻やトニーの姿が蘇る。
オレに手を貸したばかりに・・・!
「ルーク!どうすれば・・・」
「リラ!聞くんだ!」
オレはリラの肩をつかみ、自分の方を向かせた。
「すぐに、脱出ポッドに乗るんだ」
「え・・・?」
わけがわからない様子ですがるようにオレを見つめるリラ。
オレは大きく息を吸い、ゆっくり、静かに彼女に告げた。
「メビウスの、自爆シークエンスを起動する」
L2D2だけはすぐに状況を理解する。
『このメビウスが自爆すれば、爆発の星脈エネルギーで、“シグルド”を無効化できます!』
「待って、じゃ、自爆シークエンスを一緒に起動して、一緒に・・・」
「先に行くんだ、君には“サン”がいる!」
「イヤよ!あなたと一緒じゃなきゃ!」
リラはお腹に手をやり、半ば泣きながらオレにすがる。
「オレもすぐに別のポッドで行く!心配するな!」
オレはリラを強く抱きしめた。
大丈夫だ。
“サン”には、星脈が受け継がれている。
何があっても、必ず、リラとこの宇宙は守られる。
「L2D2!リラをポッドに!時間が無い!!」
『かしこまりました!』
「ルーク!!」
『リラ様!行くのです!!あなた様は、今までのあなた様ではないのです!王妃なのです!!』
リラは泣きながら頷き、L2D2と共に脱出ポッドへ向かった。
オレはコックピットのシートに着き、Y2コンソールに向き合い、大きく深呼吸した。
自爆シークエンスを起動するロックを解除する。
白い光がオレの虹彩を読み取り、ロックは解除された。
良し。
あとは、“冬の大三角形”をなぞるだけだ。
『脱出ポッド離脱完了!』
L2D2がそう言いながらシャーッと戻って来る。
「戻って来たのか」
L2D2は、こちらに顔を向け、キラーンと目を光らせる。
『このL2D2めは、ご主人様と運命共同体にございます!最後までお供させていただきます!』
L2D2は知っている。
この船に、脱出ポッドは一機しかない事を。
自爆シークエンス起動後、イチかバチか、コックピットを船体から切り離し、離脱を試みるしか無い。
想定外だがやるしかない!
「自爆シークエンスを起動する」
オレは指先を光るシリウスに沿わせた。
「シリウス・・・」
『シリウス』
L2D2が声を重ねる。
「プロキオン」
『プロキオン』
明るい星から一つずつ、その明かりを消していく。
「ベテルギウス」
『ベテルギウス』
三つの星の明かりは、消えた。
『自爆まで、あと60秒・・・』
「大丈夫だ、ミサイル着弾には間に合う!」
オレは続けてコックピットを切り離す操作を始めた。
こっちは間に合うか・・・
『50秒』
ギリギリだ!
間に合っても爆風に耐えられるか・・・
とにかくやるしかない!
「ああなんで王は瞬間移動できないんだ!」
『現代の科学では、人は量子に分解されると、別の場所に瞬間移動はしても、元には戻りません』
冷静に回答するL2D2。
『自爆まで30秒』
「あー!なんでもっとカンタンに切り離せるようにしなかったんだろ!」
『ご主人様の、メビウスへの愛情ゆえでございます。残り20秒』
まさか本当に自爆させる事になろうとは・・・
「まだローンが残ってるのに!!」
『自爆まで10秒、9、8・・・』
「ヨシ!!切り離す!!」
ガクン!と大きな衝撃がする。
L2D2はコックピット脇の自分のポッドに収まる。
『ご主人様!またお会いしましょう!アディオス!』
「何がアディオスだ!」
『3、2、1・・・』
凄まじい音がした。
ああ、オレの青春。
オレの全て。
馬鹿野郎、アルセリオンのバカヤロウ。
なんでオレは、おまえの息子なんだよ。
瞼を閉じると、轟音は次第に遠のき、オレの意識も遠く遠く、星脈と共に流れるように、消えていった。
*
【惑星Earth オメガ軍 AZF対策室】
ルークとリラとのホログラム通信で、2人の無事な姿を見る事ができ、安心した。
俺は、手の平にリラに預かった結婚指輪を出して見つめた。
良かった。
リラの指に、戻す事ができる。
理性ではそう思う反面、胸の中にかすかな痛みがあるのも感じる。
そんな思いをかき消すように、再び軍服のポケットに指輪をしまい、立ち上がった。
「さ、通常任務に戻るぞ!」
今日はこの後も皆忙しい。
メンバーが部屋を出ようとドアに向かうと、そのドアが勢い良く開いた。
「惑星Dahliaの上空で星脈エネルギーの爆発が確認された!」
血相を変えて対策室に飛び込んで来たロベール少佐が、衝撃の事実を告げた。
「星脈エネルギーの爆発?!」
メンバーはその場に立ち尽くす。
「ZeroniaからDahliaに向けて惑星破壊ミサイルの発射が確認された!その直後、星脈エネルギーの爆発が起こり、ミサイルは打ち消された!」
まさか・・・!
俺は再び、リンクコムのホログラム通信でルークの宇宙船に呼びかけた。
「ルーク!」
だが、通信は繋がらない。
「ルーク!!リラ!!」
頼む、応答してくれ!!
『・・・』
ジジジ・・・というわずかな電子音がし、通信がどこかに繋がった。
「ルーク!!」
『・・・カイ・・・』
聞こえた声は、リラの声だった。
「リラ?!」
半泣き状態のメイヴがリラに呼びかける。
『・・・助け・・・クが・・・どこにいるか、ない・・・』
途切れ途切れのリラの声。
爆発の影響で通信が不安定だ!
「リラ・ミタライのポッド座標を確認した!!」
ロベール少佐が自身の腕のリンクコムを見てそう言った。
「ただちに回収措置を取る!」
ロベール少佐の言葉にメンバー全員は強く頷く。
「了解!!」
「医療部は救護準備!グオ、機関システム部でリラのポッドの回収準備をフォローしろ!」
「了解!」
ついさっき、話したばかりの、和やかな2人の笑顔が思い浮かぶ。
頼む、無事でいてくれ!!
episode34をお読みいただきありがとうございます(o^^o)
いよいよ次のepisode35でSeason1は完結です。
ぜひ、最後までお付き合いください。




