episode28 : 祝福の星脈派
〜ゼノンの期限まであと4日〜
【オメガ(Ω)軍 AZF対策室】
「ゼノンは昨日、大統領宛にリラの引き渡し場所の座標を渡して来た」
カイがその座標をホログラムでMAPに投影した。
「惑星Dahliaか・・・」
ルークがホログラムを見て腕を組む。
「この場所はダリー軍の基地だな」
ダリー軍の基地・・・
そう聞くと思わず、冷たい軍事基地を想像し、そこに置き去りにされる恐怖に襲われそうになった。
「そうだ。ゼノンは、EarthでもないZeroniaでもない中立的な場所としてDahliaを挙げてきたらしいが・・・」
カイの説明にグオが呆れたように突っ込んだ。
「ゴリゴリのゼータ領じゃん」
どのみち、私はゼノンに引き渡される。
その場所が、どこであろうとも。
「一つ、気になる情報をダリー族の知人から聞いて来た」
ルークがそう切り出し、皆がルークを見る。
「反ゼノン派の勢力が強まっているらしい。ゼノンが愛人にうつつを抜かしてるもんだから、兵が愛想を尽かしてるって話だ」
ルークはそう言いながら私をチラッと見た。
「反ゼノン派か・・・クーデターでも起こす気かよ」
グオの言葉にルークは対策室の端の方の席に座るジアンを見た。
「パク・ジアン」
彼女は腕と脚を組んで横を向いて考えていたが、ルークに呼ばれてこちらを向く。
「リラの胎内から星脈波が生まれたとして、その影響範囲は?」
「あのデータにあった通りよ。同じ磁場圏内・・・つまり、惑星単位だわ」
対策室に沈黙が流れる。
「つまり・・・Dahliaで私が引き渡されれば、Dahliaではゼータの力は無効化できるけれど、母星であるZeroniaまでは無効化できない・・・」
そうなれば、星脈波をオメガの攻撃と捉えられ、Zeroniaから Earthに反撃して来るかもしれない。
「しかも、内乱を起こしてるというのが厄介だ・・・」
カイはそう言って腕を組む。
「ゼータはあの宇宙域にいくつも統治している惑星がある。別の惑星に分裂される可能性も高い。そうなると一括して力を無効化するのが難しくなる」
メイヴが大きなため息をついてテーブルに頬杖を付く。
「あー・・・S-100会議の神話が崩れた・・・」
その隣でニコライが顎をつまむ。
「“お世継ぎ作戦”は遂行しつつ、複数の惑星で星脈波を発生させるには・・・」
ニコライはそこまで言い、ルークとジアンと顔を合わせる。
「そうか・・・」
ニコライのつぶやきに、ジアンは短く息をついた。
「やはりどうしても、法を犯さなきゃダメ?」
「どういうこと?」
私が聞くとジアンは答えた。
「簡単よ。受精卵は母親の胎内だけで生まれるものではないわ。培養槽の中でも生まれる」
「あ・・・!」
私はハッとした。
「私たちの“データのバックアップ”として保存する予定だった卵子と精子を、体外受精させるということね?」
ジアンは頷いた。
「正直その方が確実よ。あのシミュレーションに近い。自然妊娠は何が起こるかわからないもの」
再び、対策室に沈黙が流れる。
そしてその沈黙をルークが破った。
「ジアン、そいつはオレがやった事にすればいい」
「えぇ?」
「クリニック継ぐんだろ?オレはただのフリーランスだ。もう軍との契約も切った。荷造りと思い出作りで居座ってるテイにしてるだけだ」
「ルーク・・・」
彼はそうやって、横領した元カノの罪も被ったのかしら。
思わずそう思ってしまった。
「それに、オレは王だ」
そう言ってマウントを取るように親指を自分の胸に突き立てる。
「自分に都合の悪い事実は潰す」
「さすが悪い!ルークは悪い!」
間髪入れずにグオが合いの手を入れた。
そして私をチラッと見る。
「褒めてるから」
私は苦笑した。
「どこがよ」
ルークはそう言った私を隣からのぞき込んだ。
「よろしいですか、双子か三つ子の親になる事と、夫の違法行為」
私は彼の目を見てつぶやいた。
「四つ子になったらどうしよう・・・」
「グオが育てるって、なぁ?」
「はぁ?!」
グオは思わぬ飛び火に目を見開くも、思い直したように腕を組んだ。
「いやいいかもな・・・」
「何がいいのよ意味わかんない!」
「養子にくれ」
「はぁ?」
言い合っているとメイヴが立ち上がる。
「ウェイウェイウェイ」
「な、なによ」
「今、重要な事を聞き逃したわよ」
「なにが?」
そして彼女は私たちに顔を近づけて続ける。
「“夫”の違法行為って言ったわね?」
ルークはアッサリ答えた。
「言った」
そしてハッとしてみんなを見回す。
「あ、そう、結婚する、リラと」
「や〜ん!何サラッと言っちゃってんのよ!こっちが照れるじゃな〜い!」
メイヴがニヤニヤして騒ぐので、思わずこっちまでニヤニヤして恥ずかしくなってしまう。
「さ、そうと決まれば、急ぐわよ」
ジアンがそう言って立ち上がった。
「採卵できるかすぐに調べましょう。採卵にはマイクロナノトランスポートを使うから、体に負担なく、あなたたちの“お世継ぎ作戦”は続けられるわ」
現代では、単一細胞なら転送する事が可能だ。
卵子は転送で体外に出せる。
そんな技術が発達したがゆえ、生命の操作を容易にできるようになり、より法が厳格化されているのだ。
「よし、医療部は“お世継ぎ作戦”の補助、グオ、リアムの様子を見て来てくれないか、俺はとりあえず通常任務が」
カイはスケジュールをホロセルで確認しながらそう言った。
「ああ、オレも医局の会議からの手術助手」
ニコライもそう言って立ち上がる。
「あー、“お世継ぎ作戦”行きたいけど今日は私も無理だわー」
メイヴは片手で顔を覆う。
仕方ない。
AZFは解体されたのだ。
皆それぞれ通常任務があるのは当たり前だ。
「じゃ、リラ、頑張るのよ!ルークも!」
「うん、ありがと」
メイヴは私の肩をポンと叩いてニコライと共に足速に医療部の方へ行った。
「私も先に行って準備してるから、ゆっくり来て」
ジアンは私たちにそう言いながら部屋を出ようとして、ルークに小声で耳打ちした。
「あなたも出せるならすぐ出して」
そしてサッサと部屋を出て行った。
「なんで男はマイクロナノトランスポートしてもらえないんだ・・・差別だろ・・・」
ルークはブツブツ言いながら部屋を出る。
「出よう、施錠する」
私もカイに言われて部屋を出る。
「あ、ねぇ、カイ」
「なんだ」
私は指紋認証で施錠するカイの横顔を見た。
「ありがとう。他の人もそうだけど・・・あなたは、1番忙しいのに」
みんな、私たちにかまう必要は無い。
軍の命令に背く事なのに。
そんな中、時間を割いてくれている。
「俺は君に・・・」
カイはそこまで言って私に向き直る。
「人として当たり前の尊厳を持つ人生を生きて欲しいだけだ」
カイ・・・
「体外受精だの兵器だの、そういうことは考えるな。ジアンに任せておけばいい。君はただ、ルークを愛している気持ちの中に生きていればいい」
思わず涙が滲む。
カイはそんな私を見つめて穏やかに微笑んだ。
「結婚おめでとう」
私は目に涙をため、微笑んで頷いた。
「うん、ありがとう」
大丈夫。
私には、ルークも、仲間もいる。
Zeroniaに潜入していた時のように、一人ではない。
〜ゼノンの期限まであと3日〜
【外来宇宙船エリア 宇宙船メビウス号】
「もう7月か・・・」
コックピットから見える夜空に、遠く夏の星座が見える。
私はルークと寄り添って一つの無重力チェアに座っていた。
『それでは、ごゆっくりお休みくださいませ、失礼致します』
L2D2はそう言って、壁に設置された自分の充電ポッドにカチャッとハマって目の光を消し、動かなくなった。
「言おうと思ってたんだけど・・・」
「なに?」
ルークはY2コンソールに手を伸ばした。
「この船は、敵に乗っ取られたり、制御不能になったりした時のために、自爆シークエンスがある」
自爆シークエンスは戦闘機を中心に宇宙船に搭載されているシステムだ。
シークエンス実行後、脱出ポッドで船外に避難するのだ。
「この間、電力を医療部に供給しただろ?」
「うん」
「あの時は、春の大曲線を指で描いた」
「うん、そうだった」
「自爆シークエンスは・・・」
ルークはそう言いながら、点灯していない暗いコンソールをなぞる。
「冬の大三角形」
「冬の大三角形・・・」
「そう」
私も手を伸ばすと、ルークは私の手に自分の手を重ねた。
「シリウス、プロキオン、ベテルギウス」
ゆっくりと、一緒に三角形を描く指先。
「1番明るいシリウスから、明かりを消すようになぞる。最後のベテルギウスは“死にゆく星”だ」
その言葉は、重く感じた。
「オレか君じゃないと、このシークエンスは起動しない。だから念の為、君も覚えてて」
私はルークを見て頷いた。
「わかったわ」
そう答えた時、遠くで花火が上がり始めた。
「あ・・・花火・・・」
毎年7月1日に、夏の始まる合図に上がる小さな花火大会だ。
「キレイね」
「ああ」
次々上がる花火を見ている途中、ルークは私の左手をにぎり、薬指に何かはめた。
ん?
私は手元を見た。
「あ・・・」
まるで、私たちが見る星脈のような、白銀のリングだった。
遠くで上がる色とりどりの花火の色をほのかに映す。
「ずっとオレのそばにいて」
ルークはそう言いながら、私に自分のリングを渡す。
「うん」
私は、彼の左手の薬指にそのリングをはめた。
そのまま見つめ合い、唇を重ねる。
「さ、花火も上がってるし・・・今夜の作戦を決行しなきゃ」
「うふふ・・・」
ルークは私が羽織っていたバスローブを脱がせた。
エアコンの静かな冷気が素肌を撫でていくのが心地良い。
その上を伝うルークの唇。
「ここで・・・?」
「そう、ここで。このコックピットと君が、オレの全て」
「ねぇそのセリフは考えてたの?」
「考えてた、朝から」
「うふふ」
ルークを愛している気持ちの中に生きていればいい。
いつ何時も。
たとえ、ゼノンの手に落ちても。
瞼の奥に、白銀の宇宙が広がる。
その眩い銀の糸は、日に日に光を増す。
最初見た時は、毛細血管のように細く繊細にキラキラ輝いていた。
だが今は、太く脈打つ。
生命の息吹が送り込まれるように。
私たちは、ひとつになる時をしばらくコックピットで過ごす。
「あぁ・・・ルーク・・・」
「リラ・・・」
やがて瞼の奥の白銀の光は絶頂を迎えた。
眩しくて、クラクラする。
ふと我に返ると、空調の静かな音と、胸の谷間を流れて落ちる汗の感触がした。
「あつい・・・」
「汗が・・・すごい」
ルークの肩にもたれかかり息をついた時だった。
メビウスの壁や床に潜り込んでいる銀色の神経菌糸がフワッと空中に浮き出て来た。
「え・・・?」
「なんだこれ・・・」
ルークと繋がっている時に頭の中に見える、あの、宇宙に広がる星脈のようだ。
その光は、船全体からまるで生きているようにこのコックピットに向かって星流のように流れ込んで来ると、私たち2人を包んでクルクル回る。
まるで、銀色の光が、私たちを祝福しているようだ。
やがてその光の粒子が、私の肌に磁石のように吸い付き撫でていく。
次の瞬間、船全体が強い光を放ち、外に向かって全方向に波のように広がった。
「星脈波だ・・・」
コックピットから外を見るルークの二重虹彩に、銀色の光が映り込んでいた。
*
【惑星Zeronia
アルファ司令部 ゼノンの私室】
「ん・・・?」
私はただならぬ気配を感じ、寝室のベッドから身を起こした。
「なんだ・・・今の光は・・・」
間違いなく、どこかで何かが銀色の強い光を発した。
部屋の中はいつもと何も変わりが無く、少し離れた隣のベッドではエリシュアが寝ている。
ひどく喉が渇いていた。
私はベッドから降りると水を飲むために寝室から出た。
〈ゼノンよ・・・〉
頭の中に響くその声にハッとする。
窓の外からザァッと音をたてて闇が入り込んで来る。
「アル=ラーグス閣下・・・」
〈鳥を追うのはやめろ・・・〉
「鳥を追うのは、やめろ・・・?」
どういうことだ・・・
「ノヴァを獲得すれば、シータの王の息子が必ず現れます!」
〈おまえの鳥は変わったのだ・・・あの鳥はもう、おまえの篭の鳥ではない〉
「ノヴァは3日後に私が取り返します」
それは絶対だ!
〈その不死鳥は、おまえに“滅び”を連れて来る・・・〉
アル=ラーグスの闇は私の体を周り、光る目がわたしを試すように回りながら見下ろす。
〈・・・私は、理性的で、狡猾な司令官を望んでいるぞ・・・〉
アル=ラーグスは一昨日と同じ事をもう一度繰り返して囁くと、ザーッと音を立てて窓の外の闇に同化し消えた。
「あなた・・・何を夜中に騒いでるのよ」
私の声に、エリシュアが起きて来た。
「アル=ラーグス閣下がおいでだったのだ。起きたなら水を入れてくれ」
「はいはい、かしこまりました」
エリシュアはグラスに冷たい水を入れてくると、ソファに座る私の前のテーブルに置いた。
「またノヴァの事をお話になってたの?」
「・・・そうだ。3日後、取り返しにDahliaへ行く」
エリシュアはふふっと静かに笑った。
「そうですわね、あなた。あなたの、大切なかわいい鳥ですものね・・・」
いやに聞き分けのいい事をいうな。
「いってらっしゃいな」
エリシュアはそれだけ言うと、再び寝室へと入って行った。
不穏な空気を感じる。
この空気はなんなんだ。
ノヴァが私を滅ぼすとでも言うのか・・・?
「そんなバカな・・・」
私の愛するノヴァは、永遠に、私のものだ。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日はこのキャラクターのエピソードを。
⭐︎ジアン・パク⭐︎
彼女はまだルークのことが好きなのですが…
もういい年だし、いつまでも年下の男を追いかけていても仕方ない。
両親の言う通り、そろそろ腹を括って実家のクリニックを継ごうか。
という気になる。
そして最後に、ルークとリラの遺伝子が結び付くと、星脈波を持つ命が生まれることをシミュレーションし、それを明かします。
研究者としても、女としてもオトシマエを付けるところが、カッコイイキャラです。
彼女は韓国人なので、日本人と同じく、
故郷では名字・名前の順で呼ばれます。
ルークが彼女のことを、
“パク・ジアン”
と呼ぶところから親しい間柄をうかがわせています。
……私がリラなら鼻に付きます( ̄∀ ̄)笑
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
毎日21時更新、全35話です。




