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episode21 : ひとつになる夜、星が目覚める

※このepisodeには性的表現(R15相当)が含まれます。



【オメガ(Ω)軍 

外来宇宙船停泊エリア 宇宙船メビウス号】



寝苦しさに目を覚ますと、再び左内腿に現れていた、“Z”のタトゥー。


そして頭の中に響いたゼノンの声。


再び神経リンクに囚われているような気がした。


「ルーク・・・」


彼のところへ行こうとして時間を見る。


「2時半・・・」


ルークは疲れている。

朝まで待っていた方がいい・・・?


私は再びベッドの真ん中に丸まってうずくまる。

でも、もしも何かあったら・・・

やはり危ない。


私は再び起き上がり、ブレスレットをにぎってベッドから降りた。


電気を消し、ゲストルームのドアをそっと開けて出る。


薄暗いダウンライトの中、そろそろと歩いてルークのベッドルームへ進むと、イビキが聞こえてきた。


コックピット横の簡易ベッドから、ビッシリタトゥーの入った腕がだらんと床に向かって落ちている。


「えるつー・・・でぃーつー・・・ゴハン」


呑気な寝言に若干呆れる。

起きそうになくて何よりだわ。


私はそのままルークのベッドルームに入った。

ベッドの足元にダウンライトがほのかに灯り、艶やかなグレーのシルクのシーツの山が、わずかに上下する。


「ルーク・・・」


私はその山に向かって小さな声で彼を呼んだ。


「ん・・・」


ルークはゴロンとこちらを向き、目を開けた。


その瞳孔は、いつもの二重ではあったが、外側の明るいシルバーの部分が細くなっているよう感じた。


「どした?」


「ルーク・・・!」


私はベッドに上がって彼に抱きついた。


「なに、我慢できなくなったの?」


「違う!」


爆睡してはいるがグオがいるので、声を殺して話す。


「ブレスレットが切れてて、“Z”のタトゥーが復活してるの」


「え・・・?」


彼は真面目なトーンでそう聞き返し、上半身を起こした。


首から鎖骨にかけて、コロンとネックレスの水晶が転がる。


その色はルークの瞳の色と連動するように、外側のシルバーの部分が薄くなっているように見えた。


「見せて」


私はベッドの上でゴソゴソと身を動かした。


ワンピースをめくって左脚を立て、内腿を見せると、ルークはその部分を小さな簡易ライトで照らした。


「・・・油断してたな・・・」


“Z”


明かりに照らされ、それは確かにそこにあった。

ああ、やっぱり、復活してる・・・

それを改めて目の当たりにしてしまい、ショックを受けた。


「オレの位相が弱まってたスキに入り込んで来たんだ・・・」


「ゼノンの夢を見たの。それで飛び起きて、通気口が開いてたのが気持ち悪くて閉めて・・・そしたらここがピリッとして・・・」


喋っている私が不安げに見えたのか、ルークは私の体を抱きしめた。


「ごめん、また怖い思いをさせた」


「あなたのせいじゃないわよ」


私は何もできず、ただ疲弊していく彼を見守るしかなかった。


「朝になったら医療室で脳神経の状態を診よう。オレのそばにいれば大丈夫だから、心配しないで」


そう言われるだけで安心できた。


でも・・・


「私は、あなたが心配」


「オレが?」


私は頷いた。


「だってあなたは毎日手術が大変で・・・でも私はあなたに守ってもらう事しかできなくて・・・」


もっと、あなたの力になりたい。


そう言いたいが、いったい私に何ができるのかと思うとそれは言えなかった。


「リラ・・・」


ルークは私を抱いた手で私の髪を撫でた。


「なんで今このタイミングで、君に出会って惹かれたのか・・・今ならわかるんだ」


「・・・今なら、わかる?」


私は顔を上げてルークを見た。

ゆらめく、二重の虹彩。


「もう軍人女性には関わらないと決めて、この任務には参加した」


横領してしまった女性や、ジアン・パクのことがあったから・・・?


「でもオレは今、シータの星脈を復活させようとしてる。その時に君が必要なんだ」


「私が・・・?」


「オレ1人じゃできないんだ・・・」


ルークは私の頬を撫で、もう一度言う。


「君が、必要なんだ」


私が、必要?


「何もできないのに?」


ルークはフッと笑った。


「できる」


そして私をゆっくりベッドに寝かせた。


「オレを共有して、癒して・・・」


共有する・・・?


「ルーク・・・」


彼に抱かれてキスしていると、その手や唇、吐息の温かさに、恐怖にも似た不安は溶け出て行くようだった。


「大丈夫、オレたちはひとつだから・・・ゼノンも、誰も、入るスキはない」


「うん・・・あぁ・・・」


ルークが入ってくる感触に目を閉じると、まぶたの裏に、白銀の星雲が広がり、その光の中に私たちは飲み込まれた。


無数の銀色の糸が神経細胞のように宇宙の端から端までを繋ぎ、脈動している。


不思議な感覚だった。


これが、星脈なの?


〈リラ・・・離さないで・・・〉


ルークの声が、耳元ではなく頭の芯に直接響いた。


彼は、王族の力の奔流の中に霧散しかけている。


亡き者たちとされたシータ族の嘆き、悲しみ、怒り、孤独。

それらが不安定な雷光となって彼の存在を試している。


おまえは本当に、王として相応しい存在なのか。

星脈を復活させ、この宇宙の調和を取り戻す事ができるのか。


私はその“シータ族の声”からルークを守ろうと彼を夢中で抱きしめる。


すると私の体温がフィルターのようになり、不安定な雷光を吸い込んでは穏やかで透き通った輝きへと変換していった。


ああ・・・私たちはこうやって、欠けた部分を補い合う存在なんだ・・・


ルークの鼓動と私の鼓動は、白銀の脈動と重なり、強い光を放つ。


“Z”の刻印が、その眩い光の中に消えた。


ここは、小さな星に停泊している、小さな宇宙船の、小さなベッドの上。


今ここに、星脈が、

覚醒する。




【AZF対策室】



早朝、ホロセルにルークからメッセージが入っていた。

リラの“Z”のタトゥーが一時復活してしまったと。


いつもより早く対策室に出勤し、ルークに通信で呼びかけた。


「リラの様子は?」


『今落ち着いて眠ってる』


「例のタトゥーが復活したという事は、完全にリンクが消えたわけではなかったという事か」


『打ち消したように見えて、ウイルスのように体内に潜伏して、オレの位相が弱まったスキにゼノンに呼び起こされたんだと思う。タトゥーから、彼女に対する強い執着を感じた』


ゼノンはおそらく、すでにリラをノヴァとして認識している。

これは何か、宣戦布告のような気がする。


『ここでできる“処置”でタトゥーは消した』


特別な医療設備があるわけではないルークの宇宙船で?


「また復活する事があるのか」


『おそらくもう無い。彼女自身がゼノンの念を弾くだろう』


リラ自身がゼノンの念を弾く?

いったい何があったんだ。


『ただ、ゼノンのリンクが強くなっている事は確かだ。他の感染者の行動にはより強い警戒が必要だ』


「・・・わかった。各部にその旨通達を出す」


『オレは予定通り今日の切除術を進める。彼女には起きるまでL2D2がついてるから、少し休ませてくれ。そろそろグオはそっちに出勤するだろう』


ルークがそう言い終わると同時に対策室のドアが勢い良く開いた。


「おはようございます!」


大きなリュックを背負った姿がまるで家出少年のようだ。

なんだかその表情も覚悟を決めたように見える。


「今来た」


『みたいだな。じゃ、いったんここで』


「わかった、おまえも気をつけろ」


『そっちも』


俺はルークとの通信を終了すると、荷物を置いたグオの方に向き直った。


メイヴはまだ医療室で安静を取り、ニコライもそこに着いているので、今日はいったんグオと2人だ。


グオはプラスチックカップに2つコーヒーを入れると、テーブルの上に置いた。


コーヒーの湯気が、朝の静かな対策室に立ち上り、香りが広がる。


「リラは大丈夫そうか?」


「大丈夫だろ、夜中にヤッたから疲れて寝てるだけだ」


グオはそう言ってコーヒーを一口飲んだ。


「夜中にヤッたぁ?」


緊迫した状況とはかけ離れたグオの言い方に思わず聞き返してしまった。


「ルークのベッドルームはコックピットが見えるようにドアが無いわけよ。だから、見えるの、中が!」


そして目を丸くした。


「見たのか」


「いーや!見るわけないじゃんそんなの!朝起きたらリラがルークのベッドで一緒に寝てたからさ、そういう事じゃん」


ははぁん・・・


ここでできる“処置”とは、そういう処置か。


「で、リラの“Z”のタトゥーは消えてたと」


「いやそれもオレは見てないからわからない。ただ・・・」


「ただ?」


グオはそこから声のトーンを一段抑えた。


「ルークが、明らかに、変わってた」


「ルークが明らかに変わってた? どういう事だ」


別に今のホロセルでの通信はいつも通りだったが。


「髪の色と目の色。なんか顔つきも変わった」


「どんなふうに?」


「髪がカラーリングしたみたいにシルバーになっててさ、あれおまえいつの間に髪染めたの、って言ったら、本人も鏡見てビックリしてさ」


「本人も?」


グオはコーヒーを飲みながら頷く。


「で、よくよく見てみると、瞳の色も、二重の虹彩が色濃くなってて、なんか顔つきがこう・・・鋭くなったと言うか・・・あいつ独特のヤサ男でヤラシー感じが消えた」


とりあえず、あいつ独特のヤサ男でヤラシー感じならよくわかるが・・・


「・・・多分、シータの星脈が、いよいよヤツの中に覚醒してるんだ・・・」


グオは、それを目の当たりにしたせいか、いつになく神妙な表情だった。


「きっとゼノンもそれを感じ取ってる。それぐらい強烈なオーラがある。気がする」


“気がする”で何か大事になって欲しくないグオの心情が読める。


「あー、あいつアリゲーターとハーフだったら可愛がってやったのに・・・なんかもう、オレたちが知ってる“ルーク・ウォン”じゃないみたいだ」


俺はそんなグオを見て若干苦笑いした。


「なんだ、寂しいのか」


するとグオはそっぽを向いた。


「別に!」


相変わらず、わかりやすいヤツだ。


その時、対策室のドアが激しく開いた。

俺とグオは同時に顔を上げる。


「もう出勤してたか」


ロベール少佐だった。


「オメガ32自治区のスウィフトがハッキングされた!」


スウィフト・・・

銀行間通信協会か・・・!


「オメガ内の主要な金のやり取りが遮断された!オメガの経済活動は止まってしまう!」


グオがポカンとして俺を見た。


「どゆこと?」


俺はわかりやすく端的に答えた。


「おまえの給料、使えなくなるかもしれない」


「はぁ?!」


その時、対策室の電気が落ちた。


「ん?!」


グオが辺りを見回す。


「なんだ・・・停電か・・・?」


ロベール少佐がリンクコムを使い保安部に呼びかける。


「保安部!停電か?・・・保安部!」


そして俺の方を見て首を横に振る。


「ダメだ、通信も使えない」


このところリンクコムは通信が不安定だ。


「医療部の状態が心配だ」


俺が言うとグオは立ち上がった。


「見てくる!」


「待て、単独行動は危険だ、俺も行く。少佐!どうしますか」


「私は本部へ行く!この停電がいったいどの程度の規模なのか確認する!」


やはり、リラの“Z”のタトゥーは宣戦布告だ。

ゼノンはついに、戦争を仕掛けてくる。





本日も、お読みいただきありがとうございます。



R15について


大人の恋愛を描いているため、

関係性の流れとして、そうしたシーンが描かれることがあります。


この作品のベースとなった別作品では、

かなり踏み込んだ描写もしていたため、

友人たちからは冗談交じりに「エロ認定」を受けたこともありました(笑)


ですが、公に投稿している本作では、

R18に該当するような表現は避けています。

私が描きたいのはアダルトコンテンツではなく、

あくまで大人同士の感情や関係性としての恋愛です。


リラとルークのシーンも、

この物語ならではの世界観の中で、

自然に昇華できているのではないかと思っています。



– – – – – – – – – – – – – – – – – – – –



毎日21時更新、全35話です。


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