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episode20 : 精神侵食



【惑星Zeronia

アルファ司令部 ゼノンの私室】



「ゼノン様」


いつも通りカーディスが私の前にひざまずく。


「ノヴァ様はシータの男が所有する宇宙船にいる模様ですが、位相ノイズが強く、我々のリンクを張った者は中に侵入することはできません」


やはりノヴァはシータの男の元にいた。


Earthはすでにかなり混乱しているはずだが、肝心の2人が我々の手の届かない場所にいるのなら、その混乱も意味が無い。


2人を、おびき出さねば・・・


男の星脈が完全に覚醒する前に。


「ゼノン様、我が軍の士気は最高潮に達しております。今こそ、出撃のご命令をお願い致します」


「それはまだ早い」


まだオメガには力が残っており、戦闘ロボットは動かす事が可能な状態だ。

武力に打って出たところで、2人を確保できるとは限らない。


「期は十分に熟したかと・・・」


カーディスは血の気の多い典型的なゼータの男だ。


出撃したくてウズウズしているのはよくわかる。


「カーディス、今一歩待つのだ」


「しかし、2人は宇宙船におります!このまま逃げられる可能性も・・・!」


確かにそれも考えられる事だが。


「まぁそう焦るでない・・・」


私は既に強いリンクが構築された人物や団体のリストに今一度目を通した。


「・・・オメガの銀行間通信協会にリンクが張られているではないか」


「スウィフトという団体ですか・・・それが何か」


「オメガの自治区間の金の流れを管理している最大の団体だ。ここのAIを乗っ取らせろ。通信を遮断する」


「通信を遮断、ですか・・・」


カーディスは何を今さら、とでも言いたげな口ぶりだ。


「オメガ相手の戦争に必要なものはなんだ」


「もちろん武力です」


私の質問にカーディスはそう答えた。


ダメだ、通じてない。

バイオドローンの配備までは良かったが、カーディスは詰めが甘いのが弱点だ。


オメガの最新鋭AI戦闘ロボットは生身の我々の武力で戦える相手ではない。

その事も今回の神経リンクによるスパイ活動で把握できた事の一つだ。


「カネだ。それでオメガの主要自治区の政府、軍、大企業、富裕層はアウトだ」


「なるほど、そこに出撃すると」


「まだだ。

更にオメガの各電力システムを司るAI、通信網を司るAIに一気にハッキングをかける。

そこでオメガ1自治区大統領あたりに交渉する」


「交渉?」


私は頷いた。

武力で攻め入れば良いものではない。


「我々が欲しいのは、シータの末裔とノヴァだ。その2人をよこせば、侵略まではしないと」


「侵略しない?!」


カーディスの仮面に黒く開いた目がわずかに赤くなる。


「Earth侵略の真の目的は、アル=ラーグスが仰せの“シータの力の痕跡”だ。それさえ手に入れば、Earthどころか全宇宙を掌握できるのだ。無駄な武力を使って我が兵を疲弊させる事は避けたい」


カーディスはそこまでで口をつぐんだ。


「まず、銀行間通信協会を抑えろ。次いでインフラを徹底的に潰す。軍の士気は上手い事高めておけ。それがおまえの仕事だ」


カーディスは何か言いたげな様子ではあったが、そのまま頭を下げた。


「・・・はっ」


カーディスが下がると、いつものようにデイベッドで聞いていたエリュシアがこちらにやって来た。


「お父様が、なぜあなたをお選びになったか・・・よくわかるわ」


私は隣に来たエリュシアを見た。


「なぜだ」


「カーディスは体・・・あなたは頭だからよ」


エリュシアはそう言いながら、私の頬を撫でた。


「エリュシア・・・」


私はエリュシアを見ずに、まっすぐ前を見て彼女に告げた。


「カーディスの体が好きならばそれで良いのだぞ?」


「え・・・」


固まるエリュシア。


「私に気兼ねする事はない」


私は、おまえたちの関係に気付かぬようなバカではない。

それだけは、わからせておかねば。




【アル=ラーグスの神殿】



オメガとシータの男との決戦を前に、今一度、アル=ラーグスの教えを請う。


〈ゼノンよ・・・〉


頭の中に響く声。


「アル=ラーグス閣下・・・」


ザァァッと地鳴りにも似た空間が移動する音がする。


私は両手を高く上げた。


〈おまえの愛する鳥を取り戻す時が来たぞ・・・〉


私の、鳥・・・


「ノヴァ・・・」


〈そうだ、鳥を呼ぶのだ〉


私の周りにうごめく黒い影は渦を巻き、ノヴァと共に過ごした私室の風景に形取られる。


微笑むノヴァ。


白く繊細な肌、黒く長い髪、透き通るような高い声。


〈ゼノン様・・・この身も心も、あなた様のもの〉


〈ノヴァ、私の心もそなたのもの〉


ノヴァはふふふといつものように控えめに笑い、その姿を、あのオメガ軍の短い髪の女に変える。


〈あなたは、私の姿が変わっても、愛してくれるかしら・・・〉


その声は低く変わった。


「ノヴァ・・・たとえそなたがどのような姿になろうとも、私もそなたを永遠に愛している・・・」


〈ゼノン様・・・〉


「我が城へ戻るのだ・・・」


私は目を閉じ、強くノヴァに呼びかけた。





【オメガ(Ω)軍 

外来宇宙船停泊エリア 宇宙船メビウス号】



ゼータに操られた人物が部屋に侵入し、退勤後ルークの宇宙船で過ごす3日目の夜。


今日もいつものようにL2D2が準備してくれた夕食を3人で囲む。


「今日、君の新しい部屋には位相ノイズを発生させる独自の有機装置を設置した」


ルークの宇宙船の有機回路と同じ原理の物らしい。

彼が無意識のうちに操っていた、シータの力だ。


「明日からそっちに移れる」


「じゃオレもお役御免って事だな」


「寂しいならまだいてもいいぞ」


「ふざけんな」


ルークとグオはいつものように言い合っているが、なんだかんだ言ってこの2人も仲はいい。


「ねぇ」


私はルークに声をかけた。


「ん?」


彼は、L2D2が彼だけ別に作ったリゾットを口に運びながらこちらに目だけ向ける。


「あなたが食べてるのはなに?」


「オレも気になってた。うまそうじゃないから別にうらやましくないけど」


グオは今日も骨付きのデッカイローストチキンにかじりついている。

まるでクリスマスだ。


「ああ・・・毎日力をフルで使うせいか疲れ気味だから、栄養バランスを今の体調にカスタマイズした消化のいいリゾットだ」


「L2D2ってマジでパーフェクトだなー!オレも欲しい!」


『ご希望がございましたら、グオ様の健康に配慮した最適なお食事のご案内はできますよ』


L2D2はそう言いながらみんなのグラスに水を注ぐ。


「じゃ今度頼む!」


「なんだよ、まだここに居る気かよ」


「いったん帰ってまた来る」


グオの答えに目を見開くルーク。


「また来るのかよ!」


「リラがいなくても、おまえの監視は必要だからな」


「オレを変な宇宙人扱いするな」


「変な宇宙人じゃん。リラ、まだ間に合うぞ、考え直した方がいい」


「ふざけんな」


私は今日も、2人のやりとりを笑みを浮かべて見ていたが、ルークの体調が心配だった。


毎日続く、神経リンク切除術に、私の部屋の準備。

“気”を張っているのが伝わってくる。


そんな彼をもっと癒してあげたいが、グオがいる手前できる事は限られる。


ここはL2D2に任せておく他ない。



夕食を済ませるとそれぞれの時間になる。

グオはホロゲームに熱中しているので、私はベッドルームのルークのところへ行った。


彼はホロPCで明日手術を行う患者の状態を確認していた。


「ジャマ?」


そう言う私に、ルークは優しく微笑んだ。


「なんで。おいで」


そしてこちらに腕を伸ばす。

彼の腕に抱かれて隣に座ると、彼の匂いがして落ち着いた。


「もう仕事やめよ」


そう言って、ホロ映像を星空に変えた。

いつも、道場裏から見る星空だ。


「ねぇ、大丈夫?」


私は彼を見上げた。


「ん?」


「疲れてるでしょ」


「大丈夫、オレは王だ」


冗談めかしてそう言って笑う。


「でも・・・」


そして真顔になった。


「この一件が落ち着いたら、母の事とか、ちゃんとルーツを調べたい」


そうよね・・・


ゼータの侵略が進む中、こんな形で判明した、ルークの出生。


「その時は私も手伝う」


「君とはちゃんとデートしないと」


「うふふ・・・」


笑うとルークは私の唇に自分の唇を伏せた。


「待って・・・グオが・・・」


ルークのこのベッドルームからは、有事の時に寝ていてもコックピットが見えるよう、部屋の入り口にドアが無い。


「あいつさえいなきゃ、君の中に入って心ゆくまで君を堪能して、即元気になるのに」


言いながら私の頬や耳元にキスする。


「もうやだ・・・」


「ヤじゃないでしょ?」


「何コソコソ話してんだよー!」


コックピットの方から聞こえるグオの声。


「監視員め・・・」


ルークはため息をついた。




その日の夜中だった。


このところにしては珍しく、ベッドの中で寝苦しさを感じた。


〈ノヴァ・・・〉


私を呼ぶ、聞き覚えのある声。


〈私の心も、そなたのもの・・・〉


ゼノン・・・?

そうわかったとたん、ゼノンの顔が目前に迫った。


「・・・っ!!」


私は声にならない声を上げ、ベッドから上半身を起こした。

息が切れ、寝汗をかいていた。


ふと、換気口から入って来る初夏の夜の生温かい空気が、まるで目に見えるようで気になった。


私はベッドから出て換気口を閉じるパネルのスイッチにタップし、代わりにダウンライトを点けた。


と同時に、左の内腿に、ピリッとした神経の痛みのようなものを感じた。


え・・・ここは・・・

まさか・・・


私はベッドにすわり、L2D2が用意してくれたフワフワの部屋着のワンピースの裾をめくった。

左足を曲げてベッドに上げ、太ももの内側を確認する。


「あ・・・!」


思わず声が漏れ、心臓から背筋にかけてゾワッと悪寒が走った。


“Z”のタトゥーが、薄く浮き出ているのが見えた。


私はワンピースの裾を元に戻した。


ウソ・・・!

そんなはずない!


とっさに左手首を上げてブレスレットを見る。


「無い・・・!」


手首にブレスレットが無かった。


どこ・・・?!

寝る前はあったのに!


私は部屋の明かりを全灯にし、ベッドの上を見回した。

するとベッドの真ん中あたりに切れたブレスレットが落ちていた。


私はそれを手に強くにぎってベッドの真ん中にうずくまった。


すぐそこに、ゼノンがいる気がする。


〈ノヴァ・・・〉


頭の中に響くゼノンの声。


〈そなたがそこにいるのは、見えているぞ〉


「いや・・・」


蚊の鳴くような声を出す。


〈迎えに行く〉


「来ないで!」


私はガバッと起き上がり、手に握ったブレスレットを振り回した。


辺りを見回すと、何事も無い、いつもの夜のゲストルームだった。


気をしっかり持つのよリラ!


ゼノンはいない。

私は絶対にゼータには戻らない!





本日も、お読みいただきありがとうございます。


星脈のネクサスseason1も後半になりました。

たくさんある作品の中から、本作をここまで読んでいただいて本当にありがとうございます。


元々この作品にはベースになった物語があり、そちらを友人に読んでもらってフィードバックをもらい、よりブラッシュアップして公開しました。


この物語は、一般的に男性向けが多いSFを、群像劇で女性の気持ちや恋愛、ヒューマンドラマを描いているのが特徴だと思います。


これから続く後半、season2も読んでいただければ嬉しいです。



毎日21時UP↑

season1は全35話です。

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