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episode18 : 2時23分41秒



【オメガ軍 

外来宇宙船停泊エリア 宇宙船メビウス号】



夢を見ていた。


ルークが、光り輝く白銀の髪をなびかせ、優しく微笑む。


その隣に、小さな男の子がいた。


ルークの子どもの頃みたい。


思わずそう思ってしまうほどルークに顔が似ていた。


その子は私に両手を伸ばした。


“ママだっこ”


そう言ってるようで、私はその子を抱き上げた。


するとルークは、私に似た女の子を抱っこしていた。


その瞬間、目が覚めた。


夜明けの仄暗い明かりがベッドルームを包んでいる。


何時?


私はベッドサイドの光るデジタル時計に目をやる。


5時か・・・


宿舎に戻らなきゃと思いつつ、結局朝までルークのベッドで眠っていた。


ルークはデスクに座って手元をライトで照らし、こちらに背を向け何か作業をしているようだ。


スウェットのパンツだけをはき、上半身は彫刻のような筋肉が手の動きに合わせてわずかに動く。

私は布団を胸に抱いて体を起こした。


「何してるの?」


ちゃんと寝たのかしら。


「起きた?」


ルークはこちらを振り返る。

夢で見たような姿ではなく、いつもの黒髪の彼だ。

なんであんな夢を見たんだろう。


「ちょうど今できた」


ちょうど今できた?


ルークはデスクからこちらに来てベッドの私の隣に入って来た。


「手を」


その手には、位相ノイズを発生させるブレスレットを持っていた。


いつの間にか私の手首から取ってたんだわ。

彼は私の手首にブレスレットを付けた。


「石が付いてる」


私は手首を目の前にかざし、ブレスレットに付けられた小さな透明の輝く石を見た。


「これ・・・あなたの水晶に似てる」


ルークが付けているネックレスの水晶と同じような色をしているのだ。

中心にある核のようなグレーの外側はシルバー、中心に向かうほど暗いチャコールグレー。


ルークの瞳の色と同じだ。


「少し前、惑星ダリアで医療物資の取引をした商人が持ってて、オレの石と似てると言い出したから譲ってもらった」


そのネックレスは、“母親の形見”だと言っていた。


「あなたのネックレスは、シータと関係があるの?」


「あるのを感じる」


私は目の前の、彼の水晶を見つめた。

不思議なグレーの核は、明かりを灯しているようにも見える。


「この石も、引き寄せられた気がしてる。だから君が持ってて」


ルークはそっと私の唇に自分の唇を重ねた。


「きっと、守ってくれる」


私は頷いた。


「うん、ありがとう」


再び唇を重ね、そのまま抱き合ってゆっくりベッドに横になる。


「じゃ、もう一回しようか」


私はぷっと笑った。


「ねぇ、ちゃんと寝たの?」


「寝たよ。でも君が隣にいて興奮したのか目が覚めて、石の事を思い出したから付けてた」


ずっとこのまま、彼の宇宙船で、彼のそばにいたい。

そんな当たり前の感情が叶えられる日常が、今は何よりも尊く感じる。




【女子宿舎】



その後私たちは、少し時間をずらし、出勤前に宿舎へ戻る事にした。


朝のひっそりとした静かな宿舎へ、若干周りを気にしながら戻る。

なんだかこの朝帰り感が気恥ずかしい。


「リラ!」


自分の部屋の前までたどり着いたところで、後ろから声をかけられドキッとする。

振り返ると、メイヴがランニングウェアで立っていた。

朝のランニングから戻って来たところのようだ。


「あんたったら、わかりやすい朝帰りの女!」


私は慌てて人差し指を口の前に立てる。


「シッ」


メイヴはニヤニヤしていたが、すぐに真顔になり、小声で言った。


「ルークでしょ」


私は無言でわずかに頷く。


「なんでルークなのよ、1番ヤバイじゃない」


メイヴは周りに誰もいない事を確認すると、小声で先を続けた。


「ただでさえ、あんたはゼノンに狙われてるのに、ルークとセットでいちゃどうぞ狙ってくださいって言わんばかりじゃないの」


それは・・・

確かにその通りだ。


「それに、彼はいつまでもここにいる人物じゃないわよ」


メイヴの言う事は、いちいち全部その通りだった。

私自身、頭ではそれをわかっていて、彼に惹かれる自分を止められなかった。


「冷静になるのよ、じゃね!」


メイヴは私の肩にポンと手を置くと、斜め向かいの自分の部屋に入って行った。


わかってる。

わかってるのよ。


私は小さくため息をつき、ロックを解除するために手の平を指紋認証のパネルに置いた。

いつも通りカチャンとロックが解除される音がしてドアが開く。


中に入った時、何かに違和感を感じた。


なんだろう・・・


別に、部屋に変わった様子は無い。

私はいつも通り荷物をクローゼットにかけようと引き戸を開けた。


ん・・・?


バッグをかけるフックの下の棚に置いてあるアクセサリーボックスの位置が変わっていた。


ボックスの蓋を開けてみる。

ネックレスがキレイに並んでいる。


私はいつも・・・こんなふうにキレイに真っ直ぐには並べていない・・・


その時、ホロセルに着信があった。


『リラ』


ルークだ。


「ルーク!」


フワッと現れるホログラムのルーク。


辺りは宿舎の部屋が投影されている。

ルークも部屋に戻ったのだろう。


『部屋に誰か入った形跡がある』


やっぱり・・・!


「私もなの! 今、荷物を置こうとクローゼットを開けたら、アクセサリーボックスの位置が変わってて、中のアクセサリーも触られた形跡が!」


『オレの方もクローゼットの棚だ。このブレスレットを探したのかも』


位相ノイズを発生し、ゼータの神経リンクを避けるブレスレット・・・


『部屋に誰もいないな?』


私はそのまま部屋を見て回った。


「大丈夫よ、誰もいない」


アクセサリーボックス以外は特に変わった様子も無かった。


『カイに連絡する。念のためホロセルはこのまま繋げておこう』


「わかったわ」


おそらく、神経リンクを張られた人物が部屋に入って来たのだ。

私たちは既に、マークされている。





【AZF対策室】



リラとルークの部屋に何者かが侵入した形跡を受け、俺はAZF対策室で、2人と一緒に部屋入り口の監視カメラの確認をした。


が、昨日の朝2人が部屋を出て以降、第三者が部屋に侵入した様子は映ってなかった。


「確かに、部屋に侵入された形跡だったんだな?」


「ゼータの神経リンクの気配がムンムン残ってたから、すぐに入られたとわかった」


ルークの答えは、一般的には証拠とは言えない答えだが・・・


「私も・・・何か違和感を感じて・・・それがなんなのかわからなくて。でも、アクセサリーボックスが動いてるのを見て、誰かが入って触ったんだと気がついた」


「気のせいではなく?」


リラは強く頷いた。


「私絶対あんなにキレイにネックレスのチェーンをまっすぐに並べたりしないもの。絡まない程度に無造作に置くだけ」


「最後にそのボックスを開けたのは?」


リラは即答した。


「トランスレクサーをいつも入れるから、昨日の朝開けて見たわ。だから記憶違いでは無い」


その時ルークが声を上げた。


「ここだ!」


監視カメラ映像を一時停止する。


「どこだ」


俺とリラはPCをのぞき込んだ。


監視カメラ映像は予算がかけられないため、ホロではなく、昔ながらの2D映像だ。


「ここ、2時23分41秒・・・映像にノイズが入る」


ルークの言う時間、確かに映像に一瞬ノイズが走る。


「おそらくここから録画した映像で上書きしてる」


「その間に部屋に侵入したというわけか」


ルークは頷いた。


「同じ時間帯の彼女の部屋の前の映像ももう一度よく見よう」


「わかった」


女子宿舎の映像を確認すると、気味が悪いほど同じ時間の映像にノイズが入っていた。


「2時23分41秒・・・」


俺たちは顔を見合わせた。


「ゼータの神経リンクで操られた人間が同時に映像を差し替えたんだ」


ルークは確信したようにそう言うが、普通の感覚しか持ち合わせていない俺としては、そんな事が可能なのかピンと来ない。


「機関システム部に詳細を解析してもらわないとなんとも言えない」


「どこの誰が神経リンクを張られているかわからない。機関システム部に投げるのは危険だ。あくまでもオレたちはこの侵入に気づいていないフリをした方がいい」


確かにそれは一理ある。


「私が・・・解析できると思うわ」


それはそうだろうが・・・


「機関システム部で解析を行うにはそれなりの許可が必要だ・・・」


その申請の段階で、AZF以外の人間に知られてしまう事になる。


「機関システム部は・・・まだアリゲーターの位相ノイズ発生装置を付けていない人もけっこう残ってるものね・・・」


リラが小さくため息をつくと、ルークが言った。


「オレの宇宙船しかない」


俺とリラは同時にルークの顔を見た。


「軍の施設はどこであっても油断ならない。だがオレの船は、シータの星脈由来のシステムになっている。オレが無意識のうちにそうしていた事に気づいた。だからヤツらは、宿舎には侵入できても、オレの船には侵入できない」


するとリラはすがるように俺を見る。


「私が、ルークにのぼせ上がって宇宙船に入り浸って困る、っていうウワサを流す?」


ルークはプッと笑い、俺はため息をついた。


「それはそれでマズイ」


ますますゼノンの狙いが定めやすくなってしまうじゃないか。


「とりあえず、軍の宇宙船で使える物が少ない状況なのは事実だ。引き続き、ルークの宇宙船の整備、という名目なら自然だろう」


「そうしよう。オレの宇宙船の中なら、彼女を1人にしても安全だ。L2D2もいる」


「よし、この映像をおまえの船に転送・・・いや転送も念のためやめとこう」


「そうだな、超アナログに、昔ながらのデータ保存デバイスに入れて運ぼう」


ルークは軍服の胸ポケットから、昔ながらのデータ保存デバイスを取り出し、PCに接続した。


「それから・・・」


ルークは少し考えるような顔をして言った。


「他の3人を信用してないわけじゃないが・・・いったん、この話はここだけの話にしてくれないか」


危害を加えられたり、物を盗られたりしたわけではなく、今のところ、本当に侵入されたのかどうかの確証もない。

それならば話は広げない方が無難と言えば無難だ。


「ああ、わかった。そうしよう」


俺たち3人は頷き合った。


「俺は今日この後、ジアン・パクのヒアリングだが、何か注意する事はあるか?」


ジアン・パクは、ルークによりゼータの神経リンク切除術を受け、回復している。

神経リンクを張られ、操られていた時の状態についてヒアリングを行う事になっていた。


ルークは一瞬だけ考え、ゆっくり首を振った。


「いや特に無い・・・」


だがその声はどこか歯切れが悪い。


「念のため、別室でモニターさせてくれ」


「ああ、もちろんだ」


その場はそれで話がまとまった。


俺たちはそれぞれの準備に入るため、AZF対策室を出ようとした。

その時。


「あ・・・っ」


リラが小さな声を上げる。


「どうした?」


ルークがリラを振り返った。


リラは左手を上げてブレスレットを見ていた。


「今、一瞬、ブレスレットに静電気みたいなものが・・・」


言い終わる直前、AZF対策室の照明がチカリと一瞬落ちた。


ほんのコンマ数秒。


同時に、室内の監視モニターに、見覚えのない影が映り込んだ。


人の形をしている。


だが次の瞬間には、何事もなかったかのように、映像は通常に戻っていた。


「今の、見たか?」


俺がそう言い終わった時には、ルークはすでにモニターに近づいていた。


「侵入は・・・終わってない」


低く、核心に満ちた声。


「ヤツらはもう、すぐそばにいる」


その言葉が、重く室内に落ちた。





episode18をお読みいただきありがとうございます。


毎日21時UP↑

全35話です。



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